国はダム事前放流のガイドライン策定

 政府は22日、洪水に備えるダムの事前放流についてのガイドラインを策定しました。
 治水を目的とするダムは、台風などの豪雨の際、洪水を貯めることが期待されますが、ダムには容量があり、想定を上回る雨が降った時には貯め続けることができなくなります。また、多くのダムは治水だけでなく、利水目的(電力、都市用水、農業用水など)もある多目的ダムですから、洪水が予想されてもダムを空にしておくわけにはいきません。利水専用のダムも、洪水の際には一気に水位が上がり、緊急放流により下流の水害リスクを高めることがあります。

 昨年10月の台風19号(令和元年東日本台風)では、全国で6基のダムが緊急放流を行わなければならず、他にも緊急放流の可能性が発表されたダムが多数ありました。
jizenhouryu_guideline2のサムネイル こうした事態を受け、昨年の東日本台風の後、総理官邸に「既存ダムの洪水調節機能強化に向けた検討会議」が設置されました。この検討会議は昨年11月26日、12月12日と開かれ、昨日4月22日の会議で事前放流ガイドラインが策定されたとのことです。
 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kisondam_kouzuichousetsu/

★ガイドライン
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kisondam_kouzuichousetsu/pdf/jizenhouryu_guideline2.pdf

 関連記事を転載します。

◆2020年4月22日 日本経済新聞(共同通信配信)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58361400S0A420C2CR8000/
ーダム事前放流は3日前開始 国指針、水不足の補填もー

 国土交通省は22日、大雨に備え、ダムにためている発電や水道用の水を事前放流する際のガイドラインを定めた。どれほどの雨が降れば下流で洪水が起こるかをあらかじめ算出しておき、気象庁の予報雨量がその基準を上回る場合、3日前から放流を始めることを基本とした。

 予報より雨が少なく利用できる水が足りなくなった場合、火力発電を増やしたり、給水車を出動させたりするための費用を国が補填することも明記した。

 多くのダムの空き容量を増やしておけば洪水予防に役立つため、政府は昨年の台風被害を踏まえ、国や自治体、電力会社などが管理するダムで事前放流を促進する方針を決めていた。

 大雨シーズンに備え、今後、ダムごとに最低限残しておく水量などを決める。国管理の河川では先行して利水関係者との協議が進んでおり、5月末までに全国で事前放流に関する協定を水系ごとに整える。

 貯水量が不足した場合の補填は、ダム管理者が事前放流をためらうことがないようにするのが目的。ただ自治体が自ら管理する河川に設置しているダムは対象外になる。

◆2020年4月23日 建設通信新聞
https://www.kensetsunews.com/archives/445887
ー事前放流で指針策定/利水ダム洪水調節活用/国交省ー

 国土交通省は、利水ダムを含む既存ダムを洪水調節に活用する政府の方針に基づき、事前放流ガイドラインを策定した。国交省所管ダムと河川法第26条の許可を得て設置された利水ダムを対象に、事前放流を開始する基準や貯水位低下量、最大放流量、中止基準の設定方法など、事前放流の実施に当たって基本的な事項を定めた。事前放流後に水位が回復しなかった場合の対応も盛り込んでいる。

 22日に開かれた政府の「既存ダムの洪水調節機能強化に向けた検討会議」で決定した。
 洪水調節容量が設定されていない利水ダムは、発電や都市用水などの補給で貯水位を高く維持しなければならず、事前放流後に利水容量が回復しない場合に利水者が損失を被ることが、事前放流を拡大する上で課題だった。

 ガイドラインは、水位が回復しないでダムからの補給による水利用が困難になる恐れが生じた場合、河川管理者がダムの貯留制限緩和の可能性や取水時期変更の可能性など必要な情報を利水者に提供し、関係者間の水利用の調整が円滑に実施されるよう努めると明記。国交省が20年度に創設した損失補填制度の詳細も記し、必要な水量を確保できず、利水者に特別の負担が生じた場合に制度を活用できるとの見解を示している。

 政府の検討会議は、既存ダムの洪水調節機能の強化に向けた基本方針を2019年12月に決定。19年の台風19号を踏まえ、緊急時に既存ダムの有効貯水容量を洪水調節に最大限活用できるよう、国交省を中心に関係省庁が密接に連携して速やかに必要な措置を講じることを決めた。事前放流ガイドラインは取り組みの1つと位置付けている。

—転載終わり—

 洪水に備えて利水容量に食い込んでダムの事前放流をする場合、洪水後に雨が降らなければ、ダムは利水の役目を果たせません。このためガイドラインでは、そうした場合には利水事業者に補填を行うとしていますが、日本経済新聞の記事の末尾に書かれているように、国が管理する一級水系以外の(都道府県などの自治体が管理する)川にあるダムは補填の対象外です。

 事前放流をするためには、ダム上流の集水域の雨量を予測することが必要ですが、実際には量的にきちんと予測することが難しく、事前放流が空振りになることが少なくありません。
 また、事前放流さえすれば、緊急放流を回避できるというものではありません。2018年7月の西日本豪雨において愛媛県・肱川の野村ダムと鹿野川ダムはそれなりの事前放流をしていましたが、それでも凄まじい緊急放流を行ってダム下流域の大氾濫を引き起こしました。

 上記の記事にある「(事前放流によって)貯水量が不足した場合の(利水事業者への)補填」について、ガイドラインには次のように書かれています。(11~12ページ)

【損失補填制度】

Ⅰ 損失補填を受けることができる施設等
 国土交通省及び水資源機構が管理するダム及び河川法第 26 条の許可を受けて1級水系に設置された利水ダムを対象とする。

Ⅱ 損失補填の内容
 損失補填とは、事前放流に使用した利水容量等が回復しないことに起因して、従前の機能が著しく低下し、かつ、気象庁による降雨予測と実績とに著しい相違が生じたことに合理的理由がある場合、機能回復のために要した措置等について、利水事業者の申し出に基づき、地方整備局等と利水事業者(利水ダムの管理者およびダムに権利を有する者。以下同じ。 )が協議の上、必要な費用を堰堤維持費又は水資源開発事業交付金により負担するものである。