八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

「水道料金の格差8倍 衛生面でも重要、その値段は適切か」(産経新聞)

 水道料金に焦点を当てた記事を紹介します。
 全国各地の水道料金には8倍もの開きがあるということです。
 八ッ場ダムや石木ダムなど、ダム事業の多くは都市用水の供給を目的としています。近年、人口減少や節水機器の普及によって水需要は減少していますが、水源はできるだけ多く確保しておいた方が渇水の心配がないからと、自治体が過大な水需要予測を立ててダム事業に参画すると、水道事業の経営が圧迫され、水道代が値上がりします。石木ダムをめぐっては、現地の住民が立ち退きを拒否しているだけでなく、ダム事業に参画している佐世保市の水道代が高騰することも問題視されています。

◆2020年5月12日 産経新聞
https://www.sankei.com/west/news/200512/wst2005120003-n1.html
ー水道料金の格差8倍 衛生面でも重要、その値段は適切かー

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、水道料金が注目を集めている。在宅時間の増加によりかさむ水道料金の減免を一部自治体が打ち出しているからだ。しかし、全国の自治体(水道企業団)で比較するとその料金にはおよそ8倍の開きがある。どうしてこれほど違いがあるのか。生活用水としてだけでなく、衛生面でも大きな役割を果たしている水道を維持していくために、水道料金のあり方の議論はこれから活発化しそうだ。  
(藤原由梨)

千種川のめぐみがもたらす最安値

 「なぜ水道料金が安いのか、市民の方からよく問い合わせがありますが、特に市のほうでPRはしていないんです」

 公益社団法人「日本水道協会」(東京)の平成31年4月時点のまとめで、月に水道水20立方メートルを使用した場合の料金が全国で最も安い853円だった兵庫県赤穂市の担当者はこう話す。20立方メートルは2、3人世帯の家庭の一般的な使用水量を想定したもの。このまとめで最高額だった北海道夕張市の6841円の約8分の1だ。

 水道料金に差が出るのは、水道事業は水道法により市町村運営を原則にしているためだ。河川やダム、地下水などの水源の違いや水道管が敷かれた時期、建設費などが影響しているほか、人口密度や水質の変化、事業方針など自治体により条件が異なるため、料金にも大きな違いが生まれている。

 岡山との県境の街、赤穂市は名水百選にも選ばれた千種川が市中心部を流れる水脈に恵まれた特徴がある。担当者は「水源となる川の水質が良いため、浄化のための薬剤の投入が少なく、設備のメンテナンス・維持費も安く済む」と胸を張る。水源から市街地までの距離も最大4~5キロと近く、効率的な配水も可能だ。また、千種川の豊富な水量に助けられて、播磨灘を挟んだ離島などに海底水道管を通じて水を販売しているほか、市内には大企業の工場が複数あり、収益を還元できるため「家庭用の料金を抑えられる」という。

 水利権も料金に影響

 同じ都道府県内であっても、料金格差は生じている。大阪市によると、令和元年11月時点の大阪府内43市町村の平均料金は2915円(月額、20立方メートル)となっている。

 琵琶湖から流れ出る淀川を水源とする大阪市は政令市と東京23区の中で、最も料金が安い2112円に抑えている。府内でも最低料金だ。担当者は同市が水道事業を始めたのは明治28年で、全国の自治体で4番目に早かったことを理由の一つにあげる。「早い段階から水利権の確保に努めてきたことで、水源開発にかかる費用負担が少ない」という。

 また、節水意識の高まりや人口の減少に伴い、需要が低下すると見込み、業務委託なども推進しながら水道局の職員数をピーク時の半数以下の1318人(平成30年度末)に絞るなど組織のスリム化も進めて低料金を維持しているという。

 同じ大阪府内で最も料金が高いのは京都府と兵庫県に近い豊能町で、4906円に達する。地理的要因が大きいといい、担当者は「山間部に位置するため、大阪広域水道企業団などから供給を受ける費用と、家庭までの配水管やポンプの維持管理費がかさむ。ぽつんぽつんと家があれば、配水効率がどうしても悪くなる」と、過疎化が進む自治体の苦労を説明する。

老朽化施設更新の後回しは将来の負担に

 一方、水道管などの設備の老朽化問題や、人口減少による各自治体の財源確保の厳しさが、今後の水道料金に大きな変化をもたらす可能性がある。課題解決のために、昨年10月の改正水道法の施行をきっかけに、広域連携や官民連携の検討を進める自治体も増えているからだ。

 現在の市町村による経営は限界を迎えており、民間の参画を含めた広域的統合が必要だと主張する近畿大の浦上拓也教授(公益事業論)は「安い水道料金に対する社会的要請があまりにも強いため、自治体が水道料金を値上げできず、結果として老朽化した施設の更新を後回しにしていることにつながっている」と指摘する。「自治体が適切な経営をしてこなかったツケを、将来の利用者が負担させられれば、料金格差が広がる可能性がある」と警鐘を鳴らす。

 水道料金の値上げができないまま、老朽管が更新されなければ、破裂して断水が起こるリスクもある。「見かけ上水道料金は安くても、潜在的に高コスト体質になるという大きなリスクを抱えている」と浦上教授は話す。赤穂市の担当者も「過去に施設の更新をあまり行ってこなかったので、今後、その費用がかかる。今の料金を将来的に維持することは難しい」と打ち明ける。

 新型コロナ感染拡大の影響で、自宅で過ごす時間が増えている今、生活用水としてだけでなく、衛生上の観点からも水道の重要性が注目されている。水道料金について思いをめぐらせる機会も増えた。浦上教授は「水道料金の範囲内で健全な経営を行う必要があり、広域化なのか、官民連携なのかそれぞれの地域にあった手段を考えていく必要がある」と訴えている。