昨年10月の令和元年東日本台風(台風19号)は各地で記録的な雨を降らせ、全国各地の6基のダムが緊急放流(=異常洪水時防災操作)を行い、下流住民が避難する事態となりました。
(右表=緊急放流を実施したダム 国土交通省HPより「ダムの洪水調節に関する検討会第3回配布資料 「令和元年東日本台風におけるダムの状況」1ページ)
幸いなことに2018年7月の肱川(愛媛県)の2基の国直轄ダムのように下流を大氾濫させるようなことにはなりませんでしたが、豪雨の最中の緊急放流はダム下流の住民にとって脅威です。
政府は一昨年の西日本豪雨、昨年の台風豪雨のような洪水の再来に備え、ダムの事前放流を行うガイドラインを策定しました。(⇒「国はダム事前放流のガイドライン策定」)しかし、このガイドラインは都道府県などの自治体が管理するダムは対象外でした。昨年の台風19号で緊急放流を行った6ダムのうち5基は県営ダムでした。
福島県と神奈川県は、昨年の台風の際に緊急放流を行った城山ダムと高柴ダムなどについての新たな対応を以下のように発表しました。また、福井県でも県管理の8ダムで事前放流の体制が整ったと報道されています。
★福島県ホームページより
事前放流について
「高柴ダム・四時ダムにおいて、台風等により大雨が予想される場合、事前放流を実施してダムの貯水位を低下させ、洪水調節のための容量を増量し、下流河川の氾濫や浸水被害の軽減を図ります。(以下略)」
★神奈川県ホームページより
城山ダムに関する新たな情報共有の仕組みと洪水調節機能の強化について ~令和元年東日本台風による城山ダムの緊急放流を受けて~
しかし、これらの取り組みによって緊急放流の危険性がなくなったかというと、決してそうではありません。ダムによる洪水調節には限界があります。上記の県ホームページや新聞記事に書かれているように、ダムの構造上、事前放流が行えないダムも多数あります。
関連記事を転載します。
◆2020年5月27日 福島民友新聞
https://www.minyu-net.com/news/news/FM20200527-501840.php
ー「ダム事前放流」初協定 福島県といわき市、高柴・四時の2基ー
大雨に備えてダムの水位をあらかじめ下げる事前放流を巡り、県は26日、管理する鮫川水系の高柴、四時両ダム(いわき市)について、利水者のいわき市などと具体的な放流のルールをまとめた協定を結んだ。気象庁の予報雨量が一定の基準を超えた場合、おおむね2日前から放流を始め、高柴ダムは3メートル(放水量約123万トン)、四時ダムは2メートル(同約63万トン)ほど貯水位を下げて洪水に備える。
県内のダムで事前放流に関する協定の締結は初めて。洪水につながるような大雨が予想される際、県は利水者の同意を得なくても事前放流が可能になる。
事前放流を巡っては、2018(平成30)年7月の西日本豪雨や昨年10月の東日本台風(台風19号)で甚大な被害が発生したのを機に議論が本格化。国は今月末までに、国が管理する全国の水系ごとに事前放流のルールを整える方針を示しており、県も両ダムについて足並みをそろえた形だ。
両ダムは治水機能を持つ多目的ダムで、いわき市の小名浜臨海工業団地などに立地する企業に工業用水を供給。四時ダムの水は同市の上水道にも使われている。ダム管理者の県土木部は流域で降った雨がダムに流入する量を想定し、事前放流の実施を判断する際の根拠となる予測データを作成。予報雨量がデータを超える場合、利水者に通知した上で事前放流する。
予測通りに雨が降らずに貯水量が回復しなかった場合に備え、協定には利水者の損失を穴埋めする制度も盛り込んだ。具体的には水道や工業用水で新たに取水制限が発生した際、利水者による広報活動や給水車の出動などにかかった経費を県が補償する。
多目的ダムは建設中を含めて県内に14基ある。このうち11基が県管理で、構造的に事前放流が可能なのは高柴ダムと四時ダムの2基。残る9基は一定水位を超えた際にダム上部の穴から水が自然に流れ出る「自然調節方式」で、下部のバルブを使用した場合も放流量が限られるため、短期間での対応が迫られる事前放流の実施は構造的に難しい。
◆2020年5月28日 NHK福島放送局
https://www3.nhk.or.jp/lnews/fukushima/20200528/6050010389.html
ーダムの事前放流で初の協定締結ー
台風などの大雨に備えて、あらかじめダムの貯水量を減らす「事前放流」を行ったあと、雨が降らずに水不足になった場合の補償などを盛り込んだ協定を、ダムを管理する県と水の利用者が結びました。
協定が結ばれるのは県内では初めてで、今後は通知を行うことで、速やかに事前放流を実施できるようになるということです。
協定が結ばれたのは、県が管理するいわき市の高柴ダムと四時ダムで、県と、水を利用する県企業局、それにいわき市水道局の三者で締結しました。
「事前放流」は、大雨が降る前にあらかじめダムの水位を下げておく操作で、貯水量が限界に近づき、下流域で氾濫のおそれがある「緊急放流」を行うのを避けるために有効だとされています。
協定では、気象庁の予想で、総雨量が200ミリを超えると予想された場合、高柴ダムでは3メートル、四時ダムでは2メートル水位を下げ、洪水に備えるとしています。
また、協定の中には「事前放流」を行ったあと、水位が戻らず、水不足になった場合の補償についても盛り込まれていて、給水車の出動にかかる費用を県が負担するなどとしています。
「事前放流」を行う場合、これまでは水の利用者に了承を得る必要がありましたが、今後は通知を行うことで、速やかに実施できるようになるということです。
運用は来月1日から始まります。
◆2020年5月26日 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59588060W0A520C2L82000/
ー神奈川県、城山ダムの洪水調節機能など強化ー
神奈川県は26日、2019年の台風19号の大雨で緊急放流を実施した城山ダム(相模原市)について、洪水調節機能を強化すると発表した。ダムから放流する水量の限度を、従来より13%多い毎秒3400立方メートルに引き上げるほか、従来よりも早く放流量を増やしていく。台風シーズンの9月までに運用開始する予定だ。
緊急放流に関する流域市町への情報伝達方法では、電話連絡に加えて企業向けチャットサービス「LINE WORKS(ライン・ワークス)」を活用する。流域市町はスマホやパソコンで迅速に緊急放流の情報を確認できるようになる。既読機能もあり、相手が読んだか確認できる。
台風19号のときは電話連絡で対応していたが、情報伝達が遅れて住民の避難に混乱が生じていた。
◆2020年5月27日 中日新聞福井版
https://www.chunichi.co.jp/amp/article/63536
ー8ダム事前放流整備 県、16日に運用開始ー
県は、県内八つの県管理ダムすべてで大雨前にあらかじめ水位を下げる「事前放流」の仕組みを整えた。洪水を防ぐためにため込める空き容量「洪水調節容量」を平均で二割ほど増やせる。出水期に入る六月十六日から運用を始める。
対象は、龍ケ鼻(坂井市)、永平寺(永平寺町)、笹生川(大野市)、浄土寺川(勝山市)、広野(南越前町)、桝谷(同)、大津呂(おおい町)、河内川(若狭町)の各ダム。
ダムは平常時、満杯にせず洪水調節容量を空けて運用している。県の事前放流では、常にためている「利水容量」、ダム底への土砂流入に備えて確保している「堆砂(たいしゃ)容量」のそれぞれ一部を流し、水位を下げる。各ダムの洪水調節容量を最大一〜三割増やせるという。
事前放流を行う時季やタイミングも定めた。ダムごとに若干異なるが、三月または四月から八月の大雨が予想される時に踏み切る。各ダムの基準雨量を超える恐れがある「本当にひどい大雨」(河川課)が該当する。放流は予報を基に、早くて三日前から始める。それ以外の時季(九月〜二、三月)はダムの水需要が少ないため、あらかじめ水位を下げる対策を取る。
県は、ダムの水を工業用水や水道、農業、電力発電などで取水する関係者と協議し、利水を一時的に放出することへの理解を取り付けた。事前放流後に水位が回復せず、利水者の業務に支障をきたす事態を招かない範囲で、放流を行っていきたいとしている。
昨年十月の台風19号では、東日本のダム六カ所で満水に迫り、下流域で水害を起こす恐れのある緊急放流に踏み切った。事前放流はこれを教訓に、国が全国で体制を整えようとしている。県河川課の担当者は「想定外の大雨が頻発している中、既存のダムを活用して洪水被害を軽減できる有効な仕組み」と話した。
県内の国管理ダムである大野市の真名川、九頭竜の二つのダムは、それぞれ昨年の七月と九月から事前放流の運用を始めている。 (尾嶋隆宏)