八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

八ツ場ダム周辺観光施設が開業へ

 ダム事業では水没地域の犠牲を補償するために、住民への直接補償のほかに地域振興事業があります。八ッ場ダム事業では、水源対策特別措置法の事業に997億円、利根川荒川水源地域対策基金事業として178億円超が投じられてきました。その中には道路建設なども含まれていますが、ダムが完成した現在、目につくのはダム湖周辺の各所に整備されつつある地域振興施設です。基金事業によって地元の長野原町が運営することになった水陸両用バスも明日から運航を開始するとのことです。

 地域振興施設はすでに道の駅八ッ場ふるさと館やクラインガルテンなどが開業していますが、整備が遅れていた施設も間もなく開業します。本来であれば、東京オリンピックと夏休みで賑わう観光シーズンでのスタートのはずでしたが、新型コロナウイルス感染が拡大する中、厳しい船出となります。

 これまでも他のダムで地域振興施設が整備されてきましたが、ダム運用開始直後が最も賑わうのが通例です。地域振興施設の整備費は、八ッ場ダム事業に参画した利根川流域都県が負担してきましたが、完成後の維持管理は地元の負担となるため、ダム事業による人口減少、高齢化に苦悩する地域にとって、維持管理が難しくなるケースも少なくありません。

◆2020年7月17日 上毛新聞 (紙面記事より転載)
https://this.kiji.is/656602075551827041?c=62479058578587648
ー八ツ場ダム湖の水陸両用バス 18日から運航開始ー

 群馬県長野原町は16日、八ツ場ダム湖「八ツ場あがつま湖」で運航する県内初の水陸両用バス「八ツ場にゃがてん号」の営業を18日に開始すると発表した。勢いよく水しぶきを上げて入水する「スプラッシュ」や遊覧を楽しめる。

 町の委託によりNPO法人日本水陸両用車協会(東京都)が運航する。1日5便で、1便当たり約80分のコースとなる。料金は大人3500円、12歳以下の子ども2千円、2歳以下の幼児500円。同道の駅で販売する当日券のみで予約販売はしない。
 問い合わせは同協会長野原支部(080-2489-6600)へ。

◆2020年7月16日 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61489870U0A710C2L60000/
ー八ツ場ダム周辺観光施設が開業へ キャンプ場は8月ー

 八ツ場ダム(群馬県長野原町)建設に伴い整備された観光資源が動き出す。水陸両用バスでダム湖を遊覧するツアーが7月末までに始まり、8月には湖畔にキャンプ場が開業する。地元は新型コロナウイルスの感染拡大を警戒しながらも、ダムを観光に活用して地域振興につなげようとしている。

 水陸両用バス「にゃがてん号」を使ったツアーは今月末までの開始を目指して準備中。NPO法人の日本水陸両用車協会(東京・港)が運営を担当する。ツアーは陸路と水路合わせて約80分の計画で、料金は大人3500円の予定。

 ダム最寄り駅となるJR川原湯温泉駅近くで8月1日に開業するのが、カフェや温浴施設が入る観光施設「川原湯温泉あそびの基地NOA(ノア)」とキャンプ場。バーベキュー施設を併設して食材なども用意しており、手ぶらで来ても楽しめる点をPRしている。カヌーなどを使ったダム湖のツアーも実施する。

 コロナ禍のため延期されていた八ツ場ダムの展望デッキとダム本体の上部も7日に一般開放された。上部の両端までの約290メートルを往来したり、高さ約120メートルのダム本体上部から下流側の放流口を見下ろしたりできる。

 八ツ場ダム周辺では今後も観光関連施設のオープンを控える。旧長野原町役場をモチーフにした観光施設「八ツ場湖の駅 丸岩」が8月末に完成予定。水陸両用バスの受付場所となるほか土産物店などが入る。21年3月の開業を目指して博物館「やんば天明泥流ミュージアム」の建設も進む。ダム水没地で発掘された文化財を展示する施設だ。

 22年2~3月にはダム湖を使って世界初となる水陸両用バスの自動運転実験も行う計画で、話題づくりのため様々な仕掛けを用意している。

 国内のダム事業として過去最高の約5300億円を投じた八ツ場ダム。約70年前に計画が発表されてから町を二分する反対運動が起きて多くの人が町を離れた。残った住民向けの生活再建事業として国やダム受益者である群馬県や東京都などからの財源で道路などのインフラのほか観光関連の施設が整備された。

 今後、地元は観光収入をあげることで施設などのインフラを維持していくことになる。このため国内外から広く観光客を呼び寄せる必要があるが、船出から逆風となったのが新型コロナの感染拡大だ。ダム近くにある川原湯温泉もコロナのため客足が遠のいていた。

 地元の観光関連業者は「しんみりとしていたが、やっとお客様が戻りつつある。ただ、東京など大都市で感染が再拡大している。ここで感染者を出すわけにはいかないので対策には万全を期したい」と話す。

 長野原町の萩原睦男町長は、大自然の中であれば3密(密閉、密集、密接)を防ぐことになるとみており「時代に合致する地域になってくると思う」と期待する。

 新型のウイルスと共生する「ウィズコロナ」の時代に、どのような形で観光振興を目指すのか。八ツ場ダムの地元には新たな課題が突きつけられている。

(前橋支局長 古田博士)