ダム上流の水害、河口の駿河湾の桜エビ不漁などで堆砂問題がクローズアップされている雨畑ダム(富士川水系)の影響で、導水管が運ぶヘドロが水田にも堆積しているとのことです。静岡新聞が詳しい記事を発信しています。
◆2020年7月26日 静岡新聞
https://www.at-s.com/news/article/social/shizuoka/790732.html
ーヘドロ深刻、富士・松野地区 水田に堆積、濁り常態化 日軽金(静岡市)の導水管ー
アルミ加工大手日本軽金属蒲原製造所(静岡市清水区)が富士川水系で管理する水力発電用導水管を経て、製造所敷地内から駿河湾に放水する濁水がサクラエビ不漁に及ぼす影響が指摘されている問題で、水不足解消のために導水管から取水する富士市松野地区の水田や水路の濁りが常態化し、今年に入り大量のヘドロが流れ込んでいることが25日までに分かった。「以前とは異質な濁り」と地元農家から不安の声が出ている。
「泥は粘着質で水田の底にたまってしまう」。同地区で20年以上稲作してきた望月伸泰さん(83)は腰丈ほどの苗をなでながら心情を吐露した。
降雨で水路が茶色に濁ったり、砂がたまったりすることは過去もあったが、いずれも数日で改善した。ただ、8~9年ほど前からは濁りが常態化。同地区北部の北松野の水田地帯では白く濁った水が流れる水路も。望月さんはヘドロの流入で生育が遅れたり、根を張れなくなったりすることを懸念する。
望月さんの水田から南西に約300メートルの山あいに日軽金の導水管から分水するため池がある。深さ約60センチのため池にも大量のヘドロが堆積。望月さんは週に一度足を運んでかき出すが、たまる一方だ。市農政課は5~6月に水路やため池にたまったヘドロを撤去。担当者は「これまで年1回の撤去で済んでいたのが、これでは足りない」と嘆く。
戦時中ゼロ戦の機体を製造した日軽金は富士川水系で巨大水利権を維持し、長さ数十キロ以上の導水管や複数の自家用水力発電所を持つ。昨秋の台風で、管理する雨畑ダム(山梨県早川町)上流の山崩れが起き、自然由来の濁りが強くなったとの指摘も。一方、2011年の台風15号以降、ダムの堆砂は進み、同社出資の採石業者による産業廃棄物の凝集剤入り汚泥の不法投棄も続けられた。
富士川の濁りはサクラエビ不漁を契機に注目されるようになったが、望月さんは「ダムの堆砂や不法投棄問題が地元の水田にも及んでいるのでは」と懸念する。
■戦時中から農業用水引く 日軽金と旧村覚書
1976年刊行の「富士川の変貌と住民」(静岡地理教育研究会編)などによると富士市松野地区(旧松野村)では39年に日軽金と村の間で導水管から農業用水を分水するとの覚書が取り交わされた。
同書などによると村監督の下、日軽金が村全体に水を流す水路工事を担い、42年から引水開始。松野地区と同じく旧富士川町(現富士市西部)で当時最大の水田地帯だった中之郷地区でも48年に導水管からの分水が始まった。旧富士川町では導水管の計6地点から水を引き、細かく行き渡らせるようになったという。中之郷地区では現在、導水管から引いた水で稲作を行う農家はいないとみられる。
導水管が南北に縦断する山梨県身延町内では日軽金の取水によって川の水が減少し、その補償として分水が行われている経緯がある。同町内の水田でも松野地区同様に近年強い濁りがあり、農家から危惧する声が出る。