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球磨川上流の市房ダム、緊急放流リスク下げるには

 球磨川上流にある市房ダムは、7月の熊本豪雨の最中、ぎりぎりの水位で緊急放流を回避しました。
 市房ダムは旧建設省が建設しましたが(1959年竣工)、1961年から熊本県が管理しています。
 市房ダムの貯水容量の内訳は下記の図の通りで、その配分は時期によって変化します。7月4日時点の配分は、有効貯水容量3510万㎥、利水容量(発電容量)2660万㎥、洪水調節容量850万㎥ですから、洪水調節容量は1/4しかありません。

市房ダムの概要(熊本県HP)より

 以下の記事によれば、「予備放流」によって事前に利水分を放流し、190万㎥の洪水調節容量を別途確保したということですが、それだけでは不十分です。市房ダムは、洪水期は発電をやめて、有効貯水容量3510万㎥の全量を洪水調節に切り替えれば、緊急放流を行う危険性が大幅に小さくなると思います。

◆2020年8月12日 西日本新聞
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/634732/
ー「緊急放流」寸前で回避 球磨川の市房ダム 最悪のシナリオも覚悟ー

治水限界 対策急務

 熊本県南部を襲った7月4日の豪雨で、球磨川の上流にある県営市房ダム(水上村)は「緊急放流」を寸前で回避した。同日未明、ダムの予測システムは受容の限界の流入量を予想しており、塚本貴光所長は「最悪のシナリオも覚悟した」と明かす。一方、ダム下流の人吉市や周辺に広がった浸水被害は、流域全体の治水の限界も示した。

 豪雨前日の7月3日夕、塚本所長は、ダムの予測システムが計算した4日朝の流入量を見て「この流入量なら大丈夫」と安心していた。気象庁の24時間予想雨量は200ミリ、予測システムが出した流入量はダムの許容範囲の毎秒700~800トンだった。

 だが、事態は未明に急変。気象庁の予想は外れ、24時間雨量は倍の400ミリを超えた。線状降水帯特有の長く激しい雨が、ダムへの流入予測を刻々と押し上げていった。

 ダムの流入予測は、4日午前1時時点で「午前4時に毎秒900トン」、午前4時時点には「午前6時に毎秒1300トン」。毎秒1300トンは、同ダムが想定する流入量の最大値。緊急放流が現実味を帯びた。

 貯水量が限界に達した場合、流入量と放流量を同量にしなければいずれ越流し、ダム決壊の恐れすらある。一方、緊急放流で毎秒1300トンを放流すれば「下流の水位は人吉市付近でさらに20~30センチ上がっていた可能性がある」という。

 ダム関係者は午前4時、「緊急放流」に向けた協議を開始。同40分、流域の市町村長に電話で「時間は分かりませんが防災操作(緊急放流)に入る可能性がある」と伝達した。気象庁が県南部に大雨特別警報を出す10分前だった。

 午前5時時点の流入予測も「同6時に毎秒1300トン」。ダムは同6時半、緊急放流の開始時刻を「午前8時半」と発表した。だが塚本所長は、ある決意をしていた。「緊急放流の目安となる貯水位を超えても、限界までため込む」

 流入量を見極めながら午前7時半、緊急放流の開始を「同9時半」に先延ばした。その10分後、流入量は同ダムの過去最大となる毎秒1235トンに達した。幸い、同8時ごろには大雨はピークを越え、同45分に緊急放流の「見合わせ」を発表、同10時半には「行わない」と発表した。

 最大貯水位は、午前10時50分の標高280・6メートル。緊急放流の目安となる貯水位まで残り10センチだったとはいえ、既に危機が去った3時間後。河川の水位を上げないよう、ためられるだけためた結果だった。

 判断の一つのよりどころになったのが2018年に導入した「予備放流」。事前に利水分を放流、190万トンの洪水調節容量を余分に確保していたことが奏功した。塚本所長は「予備放流なしで大雨がさらに1時間降り続いていたら、緊急放流は避けられなかったかもしれない」と振り返る。

 人吉市に流れ込む河川の流域面積のうち、市房ダムの集水面積は約14%にすぎず、今回の豪雨災害はダム単体による治水の限界も見せつけた。約47%を占める球磨川最大の支流・川辺川と、約39%の球磨川本流の治水をどうするか。08年、川辺川ダム建設計画が白紙となって以来、議論の答えはまだ出ていない。 (古川努)