国土交通省中部地方整備局は、愛知県の矢作川で川底を掘って深くしたり、川幅を広げたりする工事を今年度から始めます。
工事個所は、川幅がボトルネック状になっている狭窄部であることから、「鵜(う)の首」と呼ばれています。
右画像=「矢作川鵜の首地区水位低下対策事業」のパンフレットより
国土交通省豊川河川事務所HP
「矢作川鵜の首地区水位低下対策事業」のパンフレット
http://www.cbr.mlit.go.jp/toyohashi/oshirase/pdf/r0207yahagi-unokubi.pdf
洪水対策としてのダム建設は、ダム下流の川の水位を下げることを目的としていますが、川の水位を低下させるのに最も効果的なのは、川底を掘ったり(河床掘削)、川幅を広げること(開削)です。治水対策の基本の一つは、流下能力が特に低い箇所について、このような河川改修工事を行うことです。
矢作川の「鵜の首」は川幅が狭まるため、流下能力が低く、2000年9月の東海豪雨の際には、上流の氾濫の原因になったとパンフレット(右画像参照)に書かれています。
水害の原因が分かっていたにもかかわらず、工事を始めるのに水害発生から20年もかかったのは、「鵜の首」の流下能力を上げると、下流側に影響があるからだったのでしょうか。「鵜の首」の下流側の対策は行うのでしょうか?
◆2020年8月15日 朝日新聞愛知版
https://digital.asahi.com/articles/ASN8G7K1TN8GOBJB00C.html?iref=pc_ss_date
ーものづくり拠点・豊田を水害から守れ 矢作川改修ー
国土交通省中部地方整備局(名古屋市)は今年度から、愛知県豊田市を流れる矢作川のうち、市中心部近くの川幅の狭い箇所で川底を掘って深くしたり、川幅を広げたりする工事を始める。完了まで10年ほどを見込む。自動車を中心とした国内有数のものづくりの拠点が集積する市中心部を水害から守る狙いがある。
工事は豊田市中心部から南東に約3キロで、竜宮橋下流の「鵜(う)の首」と呼ばれる箇所。右岸側が小高い丘になっていて、川の流れが蛇行しているうえ、川幅が急激に狭くなっている。豊橋河川事務所によると、川幅が100メートルほどしかなく、他の箇所の半分もないという。
鵜の首のすぐ上流では2000年9月の東海豪雨の際に氾濫(はんらん)し、今の豊田スタジアムの南側などが水浸しになった。平成の大合併前の旧豊田市内で約1800ヘクタールが浸水し、家屋にも被害が出た。
工事では、鵜の首周辺から下流の約2キロにわたって川底を掘り、水位を約80センチ下げる。さらに、鵜の首右岸の小高い丘を約1キロにわたって削り、川幅を広げることで、さらに水位を60センチほど下げる効果があるという。鵜の首周辺の工事を含めた今年度の矢作川の河川改修費は約14億7千万円にのぼる。
鵜の首の南西約2キロにはトヨタ自動車本社工場があるなど、周辺には自動車関連企業が立地している。豊田市の「洪水ハザードマップ」では、矢作川が150年に1度程度の大雨で氾濫した場合、市役所や豊田スタジアム周辺など市中心部が被害を受ける可能性がある。
昨年10月の台風19号に伴う千曲川(長野県)の洪水のほか、7月の熊本豪雨では急流で知られる球磨川が氾濫・決壊するなど、国内では毎年のように大雨の被害が出ている。中部地整の担当者は「矢作川周辺は国内有数のものづくりの拠点で、氾濫被害から守るため、抜本的な対策に着手することにした」と話している。(小山裕一)
◆2019年10月21日 東海テレビ
https://www.tokai-tv.com/tokainews/article.php?i=102228&date=20191021
ー千曲川の決壊現場に似た地形が…愛知・豊田市中心部に浸水想定 矢作川の狭窄部“鵜の首”の危険性ー
台風19号で大きな被害をもたらした、長野・千曲川の氾濫。原因の一つとして、川の流れがボトルネック状に狭まる独特な地形が指摘されています。東海地方でも同じような危険をはらむ川がありました。
台風19号で堤防が決壊し、住宅などが浸水する大きな被害をもたらした長野県の千曲川。現場の地形にある特徴がみられました。
堤防が決壊した地点ではおよそ1000メートルもある川幅が、3キロほど下流では5分の1ほどに急激に狭くなっているのです。
『狭窄部』と呼ばれるボトルネック状のこの地形。河川工学を専門とする名古屋大学の田代特任教授はこの独特の地形が氾濫を招いたのではと指摘します。
名古屋大学 田代喬特任教授:
「この狭窄部というのは天然のダムのような構造を持っている地形であると。自然の地形ですので完全にせき止めているわけでもないですけれども、水の流れる量が超えますと、上流から流れてくるのと同じように流すことが難しくなる。結果、入ってくる量の方が流す量の方よりも多い状況が続きますので、水位が上がっていくと」
実はこうした地形、東海地方の川にもあったのです。
岐阜県から愛知県西三河地方を南北に流れる矢作川。普段の流れはゆったりしているこの川ですが…。
(リポート)
「このあたりは両側に河川敷があり川幅が比較的ゆったりとられていますが、奥の“鵜の首”と呼ばれている部分だけは急激に川幅が狭くなっています」
豊田市の中心部、豊田スタジアムの2キロあまり下流に位置するこの場所。S字状にカーブした形は、上から見るとその名の通り、鵜の首のように見えます。
すぐ上流までは河川敷があり、水の流れる量に比べてゆったりとした川幅がありますが、鵜の首と呼ばれる地点で急に川幅が狭くなり、両側を鬱蒼とした木々に囲まれます。川幅もおよそ100mとすぐ上流の豊田スタジアム付近の半分しかありません。
このため豊田市が作成したハザードマップでも…。
名古屋大学 田代特任教授:
「鵜の首はこちらになりますね。くいっとこう曲がりながら、川幅・谷幅が狭まっていると。鵜の首より上流部について、浸水域が広くなっている。色を見てみますと(浸水)2~5mの範囲がかなり広がっている」
“鵜の首”の上流は住宅地が広がるほか、豊田市役所や名鉄豊田市駅など中心部も含まれ、その一帯が浸水すると想定されています。地元の人も…。
地元の男性:
「(浸水するのは)覚悟はしとるね。逃げてくわけにはいかんもんで」
別の地元の男性:
「決壊する心配がある。だからそこは国が(鵜の首周辺の)山を削り取っちゃうっていう(計画)。計画だけじゃなくて早く実行して欲しいわね、ああいう災害をみると…」
これに対し、矢作川を管理している国土交通省豊橋河川事務所は…。
酒井副所長(電話):
「矢作川の河川を整備するための計画の中に、鵜の首狭窄部の開削をはじめとした、安全に洪水を流すための工事を実施することが記載されております。下流区間の整備の状況にも配慮する必要がありますので、出来るだけ早期に着手したいと考えております」
専門家も、矢作川全体を考えた対策を取る必要があると指摘します。
名古屋大学 田代特任教授:
「狭窄部があるからその上流部が浸水する、じゃあ狭窄部をなくそうと切り開くとたぶん別の場所が浸水する、ということが起こり得るんですね。(どう対策するか)今後課題になってくるのかなという気はいたします」