7月末の豪雨では、山形県・最上川流域で大氾濫があり、多くの支川でも水害が発生しました。
この氾濫の状況を詳しく伝える記事をお知らせします。8月28日の記事にある河川地図➀が上流部、29日の記事にある河川地図②が中流部を示し、②が➀の上につながります。
4月23日に完成した最上小国川ダムは洪水対策専用ダムですが、今回の豪雨では最上小国川流域の雨量は特に大きくなく、記事では最上小国川ダムは取り上げられていません。最上小国川ダムは②の地図の舟形町を流れる最上小国川の上流側(最上町)にあります。
最上小国川ダムは釣り人らに愛されてきた清流で、山形県が事業を強行する中、ダムに反対する漁協組合長が追い詰められて自死するという痛ましい経緯がありました。山形県は最上小国川ダムの建設ではなく、県管理の支川の河道整備に力を注ぐべきであったと思います。
◆2020年8月28日 朝日新聞山形版
https://digital.asahi.com/articles/ASN8W6S6TN8SUZHB00M.html?iref=pc_ss_date
ー「死ぬと思った」 最上川氾濫、知られざる支流での被害ー
山形県内で最上川などがあふれた7月末の豪雨から1カ月となった。最上川だけでなく50本以上の河川があふれ、住宅被害だけで26市町村計700棟余りに上った。支流のそばの住民からは「全然ニュースになっていませんが、この近所も大きな被害があったんです」という声も聞いた。そのとき、何が起きていたのか。現場を訪ねた。
住宅の浸水被害が県内最多だった河北町。谷地橋下流にある谷地地区の下野(したの)水位観測所では7月28日午後6時10分ごろ、最上川が氾濫(はんらん)危険水位(16・70メートル)に達した。午後7時までに、堤防が危険な状態になる計画高水位(16・99メートル)も超え、午後9時10分には17・55メートルに。1967(昭和42)年の羽越水害時の15・94メートルを大きく超え、過去最高水位を更新した。
「濁流がおなかにばんばんぶつかって。死ぬと思った」。最上川左岸の支流、古佐川が通る谷地地区押切の農業太田勝志区長(67)は振り返る。住民がほぼ避難し終えた午後6時半ごろ、低地にある下釜(したがま)排水機場から戻る際、濁流で前に進めなくなった。消防団員に手を引っ張ってもらって回り道したという。
最上川左岸は古佐川の合流地点から下流側513メートルが、堤防の整備されていない無堤区間。古佐川に水門もない。最上川の水は午後5時半ごろに集落北部の水田へあふれ出し、古佐川も含めた湖のようになって集落に流れ込んだという。
田の冠水対策が目的の下釜排水機場のほか、建設業者や消防団のポンプ計5台で排水にあたったが、水かさは減らず、午後7時ごろには避難した。太田さんは「人の命が無事だった。それだけが救いだ」と話す。
古佐川沿いでは羽越水害後、道路ごとかさ上げした集落もあったが、今回は押切や吉田地区改目などで住宅約60棟が浸水。押切の2棟は大規模半壊と認定された。
修繕工事だけでなく、乾燥作業の続く住宅がいまもある。60センチの床上浸水だった福田始さん(72)宅では冷蔵庫や洗濯機が倒れ、浴槽も浮かんだ。天童市内の長女宅から作業に通っている。いつ自宅に戻れるのか。「今のところ見通しはないな」
谷地橋上流で最上川に合流する槇川(まきがわ)では28日午後5時前に水門が閉鎖され、田井(だい)地区や谷地地区杉の下で住宅70棟ほどが浸水した。
水位観測員は、今月急逝した町議の石垣市雄さん(71)と、大工の今田雄一さん(70)。10年近く務める今田さんにとって、水門の閉鎖は初めてだった。最上川の泥水が槇川に逆流し始めたのを見て「一刻も早く落とさないと」。電動では時間がかかるため、ギアを外し、水門自体の重さで閉めた。
最上川は観測員が避難する退避水位にも到達したが、堤防上以外は通れる車道がなくなっていた。なるべく早く開門するためにとどまり、夜通しで30分ごとに水位を測り続けた。開門は29日午前6時。「まる一日ぐらいいたが、いつあふれるかわからない緊張感があり、眠いとも思わなかった。あっという間だった」
町内では、用水路があふれ、最上川の無堤区間もある左岸の溝延(みぞのべ)地区や、右岸の新吉田地区荒小屋でも住宅が浸水。左岸の法師川や寺川も氾濫した。
被災した6世帯は現在も町営住宅で生活しており、町は9月には民間アパートを借り上げる方針。国土交通省は、槇川の水門付近などで堤防の強化工事を進めており、古佐川近くの無堤区間では堤防整備をめざして今年度に用地測量を実施する予定だ。(上月英興)
外水氾濫の危険、ポンプ止める
中山町では、最上川右岸に注ぐ石子沢川、さらにその支流の新堀川が氾濫。新堀川と石子沢川の合流地点北側のあおば地区で住宅約60棟、合流点より上流の新堀川西側の長崎地区元町、上町、新町で計約60棟の浸水被害があった。
町は町内全域を対象に、28日午後3時半に避難勧告、午後5時50分に避難指示を出した。避難した町民らによると、午後6時より前のまだ明るい時間帯には、すでに浸水が始まっていたという。
石子沢川と最上川の合流地点近くにには、国土交通省が運用する石子沢川排水機場と古川水門がある。最上川から石子沢川への逆流が確認された午後2時20分に水門を閉鎖。10分後には毎秒8トンの排水能力がある排水機場のポンプを運転し、最上川への排水を始めた。
その後も最上川の水位は上がり続けた。同町の長崎水位観測所では午後6時までに計画高水位(15・96メートル)を超え、排水を続けると最上川自体が氾濫する危険があるため、ポンプを止めざるをえなかった。午後6時半に同観測所の水位は過去最高水位となる16・22メートルに。排水を再開できたのは、水かさが計画高水位を下回った午後8時。その間、石子沢川の水は完全に行き場を失い、あふれ続けた。水門を開けたのは、翌29日午前10時20分だった。
国交省山形河川国道事務所の藤原孝徳・河川管理課長は「最上川本流(外水)で氾濫が起きたら、流量、流速とも内水氾濫よりはるかに大きく、家屋流失なども考えられる。一義的には(住民を)外水被害から守ることが大事だ」と説明する。(三宅範和)
被害額は計277億円、過去最大に
山形県が27日午前9時現在でまとめた被害状況によると、住宅被害は710棟に上る。被害額は、道路・河川関係(県管理施設のみ)が220億6千万円、農林水産関係が56億2800万円の計約277億円。現時点ですでに1976年8月豪雨の約243億円を上回り、風水害の被害額として過去最大という。
住宅被害は26市町村に及んでいる。内訳は全壊1棟、大規模半壊7棟、半壊52棟、一部破損3棟、床上浸水145棟、床下浸水502棟。市町村別では、河北町140棟、中山町118棟、大石田町98棟、村山市67棟、山形市、大江町、大蔵村の3市町村がそれぞれ33棟、鶴岡市28棟、東根市と山辺町が24棟、白鷹町21棟などとなっている。
また、河北町で約3100トン、村山市で約2900トン、大石田町で約2400トンの計8400トンの災害廃棄物が依然、仮置きされたままだという。
◆2020年8月29日 朝日新聞山形版
https://digital.asahi.com/articles/ASN8X73YMN8SUZHB00P.html?iref=pc_ss_date
ー最上川逆流、支流で決壊 羽越水害より上流で発生ー
7月末の豪雨で、山形県東根市では同月28日午後6時前に24時間降水量が152ミリに達し、過去最大を更新した。最上川右岸の支流、白水川では最上川の水が逆流し、松沢橋上流の同市長瀞地区で右岸の土がえぐれて決壊した。決壊は1967(昭和42)年の羽越水害以来で、当時よりも上流で発生したという。
「速くて異常な増え方」。羽越水害でも消防団員として決壊時に土囊(どのう)を運んだという市議の清野忠利さん(79)は28日、堤防の見回りをしていた。最上川は午後3時ごろには「水面が丸くなり、ごみが上を通る」という、伝え聞いた危険な兆候を示していた。
午後9時ごろ、白水川の左岸で水があふれ出した。清野さんは土囊を積むよう急きょ業者に連絡。午後10時半ごろ、松沢橋を通る県道が冠水し、近くの東北中央道東根北インターチェンジを出た車は通り抜けられなくなった。右岸が崩れたのは翌29日午前2時20分ごろ。ただ、「暗くて手をつけられなかった」。
住宅は左岸の松沢地区、右岸の長瀞地区などで浸水。桃園など、冠水した農地は羽越水害よりも広いといい、建設中の東北中央道からはコンクリート片が砂利ごと流入した。市特産の桃は8月から最盛期。水に弱く、冠水していない実も徐々にうるんだ。
決壊地点の対岸や松沢橋の下流は堤防の上面が舗装されていたが、決壊地点は未舗装だった。松沢地区の農業杉浦好一さん(84)は「堤防を強靱(きょうじん)化しないと、住宅を建てる若い人もいなくなるのではないか」と懸念する。
市内では村山野川を経て最上川に注ぐ荷口川、小見川でも水があふれ、農地などが冠水した。荷口川では2011年に樋(ひ)門を改良し排水機場が造られたが、今回は操作員が退避する水位に達し、排水を一時停止。操作員の一人、農業鷲康文さん(48)は「これまで外水の上昇は多い時でも1時間50センチだったが、今回は1メートルペースが続いた。増えるのが速くて怖かった。あんな経験はもういいです」と振り返る。(上月英興)
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大石田町では、町中心部近くの水位観測所で、最上川の水かさが28日午後11時までに、堤防が危険な状態になる計画高水位(17・90メートル)を超えた。翌29日未明から朝にかけて町内3カ所で氾濫(はんらん)。さらに支流の五十沢(いさざわ)川、朧気(おぼろげ)川、野尻川、支流などにつながる水路からも水があふれ、五十沢川が流れる今宿(いましゅく)地区では住宅41棟が浸水した。
町は28日正午ごろから、増水した支流の水が農業用水路などに逆流するのを防ぐため、支流と用水路をつなぐ樋管を閉め始めた。
通常は樋管を閉めた際、行き場を失う水路の水を電動式のポンプで川に排水する。このため、町はポンプ用の配電盤を町内8カ所に設置していた。
だが、最上川右岸に面した今宿地区と豊田地区では、地面から約1・6メートルに設置された配電盤が浸水。ポンプを稼働できなかった。急きょ消防団員らが小型ポンプで排水にあたったが、最上川や支流の水かさは増え続け、団員らは午後11時半ごろ退避。ポンプは稼働させたままだったが、やがて燃料切れなどで排水できなくなったという。
町まちづくり推進課の関崚太主事は「排水できなかったことによる被害も生じてしまった」と話す。町は配電盤を堤防上など高い場所に移せないかを検討していくという。
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大蔵村南山地区にある肘折温泉では、最上川支流の銅山川があふれ、住宅14軒が浸水する被害があった。銅山川のさらに下流や、その支流の赤松川でも水があふれ、農地が冠水した。
県河川課によると、カルデラ地形の肘折温泉がある一帯は崩れやすい地質で、大雨などで土砂が川に流入すると、流れをせき止めるので氾濫が起きやすい。防ぐには砂防堤の設置などの方法があるという。
村や浸水被害を受けた住民らは、こうした対策のほか、銅山川の護岸の早期修復などを県に要望している。(鷲田智憲)