駿河湾のサクラエビの歴史的不漁との関係で問題視されている(株)日本軽金属の水力発電所について、水利権目的外使用が問題になっています。
一方で、専門家による研究会がサクラエビ不漁原因の仮説を実証するための調査計画を練っているとのことです。
桜エビ不漁問題に精力的に取り組んでいる静岡新聞の記事をお伝えします。
◆2020年9月3日 静岡新聞
https://www.at-s.com/news/article/special/sakura_ebi/007/804448.html
ー日本軽金属、国制度で売電か 富士川水系の水利権目的外使用問題ー
アルミ製錬を前提に富士川水系の水利権を許可された日本軽金属波木井発電所(山梨県身延町、設備・能力2万1900キロワット)が、国の水利権更新許可が認められないまま稼働している問題で、同社が同発電所について、再生可能エネルギー普及のため国が導入した固定価格買い取り制度(FIT)に申請し認定を受けていたことが、2日までの経済産業省などへの取材で分かった。“売電そのものを目的にした発電”に本格的に乗り出していたことが判明し、住民は反発を強めている。
静岡新聞社が水利権の目的外使用を指摘した1月1日付の報道を受け国土交通省は同月、売電の有無や発電の目的と使用実態の相違などを確認した。発電所は3月末に水利権更新期限を迎え今月で半年経過するが、いまだ水利権許可の審査中だ。水利権は失効しておらず、取水を続けている。
1939年に完成した同発電所は、同社が富士川沿いなどに持つ六つの発電所で最古。太平洋戦争期にゼロ戦用航空機素材の製造を支えた同発電所も現在では、支流の雨畑川に不法投棄された凝集剤入り汚泥などに起因するとみられる強い濁りが、発電用導水管を経てサクラエビの主産卵場になっている駿河湾に流れ込む事実上の起点といえる。日軽金はFITによる売電のため2017~19年にかけて巨額を投資し改修工事を行った。
日軽金は売電収入について決算関係書類に明示していない。
■「聞いていない」流域反発
日本軽金属が再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)の認定を受けていることが2日までに分かった。情報公開資料によると、同社は山梨県にFITの利用を報告していたとみられるが、流域の市町には説明がなく、住民は反発を強める。
山梨県内の富士川最下流に位置する南部町の佐野和広町長は「どう売電しているか全く聞いていない」とし、「住民は地震で導水管が破裂しないか心配。富士川に水を戻してほしい」と求める。林業家でサクラエビ漁師の佐野文洋さん(48)=富士宮市=は「日軽金は自社の利益だけでなく、海や川に向き合ってほしい」と憤る。
売電した場合、一カ月に数億円規模の収入になるとみられる。近藤千鶴富士宮市議は「川は地域の共通資本。売電でいくら稼いでいるのか。説明と対策を求めたい」と強調する。
日軽金は静岡新聞社の取材に、FIT認定を受けた事実を認めつつ、売電実績については「経営に関わる事柄であり、回答は差し控える」としている。
■FITの趣旨に反する 諸富徹 京都大大学院教授(環境経済学)
少なくとも水利権の更新期限を過ぎても更新されていないのであれば、失効状態であることは間違いない。現在は河川法の運用で、日軽金と関係者の間で水利権が認められているにすぎないだろう。
FITの根拠となる再生可能エネルギー特措法の趣旨は、福島の原発事故という大きな環境リスクを一つの出発点に、環境に良い電源に変えること。それが富士川の河川環境やサクラエビに損失を与えているとすれば、本来的な矛盾だ。波木井発電所の水利権が正当性を疑われる状態ならば、なおさらFITの趣旨に反しているとも言える。
違法な土地利用の発電所からの電力など明らかに問題があれば話は別だが、今回のように(違法性を帯びていなくても正当性を失ったような)グレーなケースの場合、現行法に基づくFITは問題のある発電所として排除する仕組みになっていないのでは。
ただ、今は個別条文に反していなくても、問題点が明らかになると、経産省が後付けで規制するケースがFITでは多く起こってきた。太陽光パネルで環境問題が起こり、事業者に役割を終えた設備の撤去を含めて義務を負わせたことなどだ。問題が大きければ、法の改正や政省令の見直しが行われるべきだ。
<メモ>再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度 再エネ特措法に基づき、水力や太陽光、風力などを用いて発電した電気について、国が定める一定価格で一定期間、電力会社による買い取りを約束する制度。新規発電事業者が収益の見込みを立てやすく、東日本大震災後に多くが参入した。水力発電の場合、買い取り期間は20年間。
◆2020年9月1日 静岡新聞
https://www.at-s.com/news/article/special/sakura_ebi/007/803489.html
ーサクラエビ不漁原因の仮説実証へ 専門家研究会、調査計画練るー
静岡新聞社取材班と連携する「サクラエビ再生のための専門家による研究会」=座長・鈴木款静岡大特任教授=は31日、主産卵場の駿河湾奥で9月以降行う不漁原因の仮説を実証するための調査の実施計画を、静岡大(静岡市駿河区)で話し合った。メンバー10人のうち実務に関わる6人が集まり、漁業関係者との協力関係を構築しながら海洋調査研究を進めていくことで一致した。
ミーティングでは田中潔東京大准教授が、富士川の河川水が拡散しているとみられる海域に水温や塩分、流速などの計測機器を設置する計画を披露。海の中に一度セットすると、約4カ月間、自動的にデータを取り続ける先端的な機器という。濁りが幼生に与える影響に着目する荒川久幸東京海洋大教授も富士川沖で濁度調査する計画を発表。田中准教授と連携する。
収集したデータをいかに漁業に還元するかも話し合った。田中准教授は「海洋環境の変化がサクラエビやそれ以外の魚種の漁獲の多寡にどう関わるか分かる可能性がある」と述べた。美山透海洋研究開発機構主任研究員は同機構アプリケーションラボが構築中の駿河湾の海面から深層まで見られる海洋予測モデルを披露。「水温躍層(鉛直方向の急な水温変化)の発達や(水深50メートル以浅で18~25度とされる)産卵のための適水温層の伸び縮みの様子が分かる」と話した。田中准教授の実測データとも突き合わせて精度を上げ、将来的に漁師らにも閲覧してもらう。
千賀康弘東海大名誉教授からは「今後収集するデータが持つ意味を専門用語を使わずに、だれでも理解しやすい普通の言葉で説明する取り組みも研究会として必要では」との提言もあった。