ダムの「事前放流」という菅官房長官の”実績”

 間もなく首相に就任するといわれる菅義偉氏は、官房長官時代の実績として、官邸主導でまとめた「事前放流」のルール作りを挙げています。

 近年頻発するゲリラ豪雨や線状降水帯による洪水では、既存の治水ダムで貯水しきれず、洪水の最中に「緊急放流」を実施しなければならない可能性が高くなっているため、豪雨が予測される場合はあらかじめ、水力発電や農業用水・都市用水に利用するために貯水していた水量も放流して、治水容量を増やすのが「事前放流」の目的です。
 菅氏は増加する「治水容量」が大きいことを示すために、今春完成した八ッ場ダムをたとえに使っています。総裁選が近づいた8月には、わざわざ群馬県北部にある利根川上流の須田貝ダムを視察して、須田貝ダムのコンクリートの壁を背景に「事前放流」の実績をアピールしました。
(右画像=BLOGOS「洪水対策:縦割り行政の弊害を排除し、ダムを活用して水害に備える」より)

 しかし、実際に「事前放流」がどれほどの効果があるかは、まだ未知数です。「事前放流」をするためには、豪雨の数日前から予測する必要がありますが、気象予測は進歩しているとはいえ、正確な予測はそれほど易しいことではありませんし、ダムの構造によっては事前放流ができないダムもあります。

 第一、ルールの変更によって八ッ場ダム50個分もの治水容量を確保できるのであれば、八ッ場ダムを造るための68年の歳月と地元の多くの住民の何世代もの犠牲はなんだったのか、ということになります。

 巨大ダムはスケールの大きさで見るものを圧倒しますが、ダムの治水効果はきわめて限定的です。
 菅氏の以下の文章は、まるで江戸川の水害を利根川上流ダムで防げるように書かれていますが、利根川上流ダムで利根川下流や利根川から分派する江戸川の洪水を防ぐことはできません。

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◆2020年8月13日 BLOGOS より一部引用
https://blogos.com/article/477777/
ー洪水対策:縦割り行政の弊害を排除し、ダムを活用して水害に備えるー

「この利根川水系は下流に首都東京を抱え、一旦氾濫が起きれば、特に江戸川流域では大きな被害が出かねません。
これまで須田貝ダムは洪水対策に全く使えませんでしたが、今回の見直しで須田貝ダムの約9割の水量(東京ドーム16個分の水量)が台風が来る前に事前放流できることになりました。さらにこれを含めて利根川水系全体で八ッ場ダム3個分、東京ドーム217個分の洪水対策のための既存ダムの水量が確保できました。水害防止に大きく貢献できるものと考えています。」

◆2020年6月6日 BLOGOS
https://blogos.com/article/462893/
ー洪水対策:縦割り行政を排し、新たに八ツ場ダム50個分の洪水調整機能を確保ー

◆2020年8月17日 BLOGOS
https://blogos.com/article/478535/
ー洪水・水害対策:縦割り行政の弊害を排し、ダムの活用見直しで秋の台風シーズンに備えるー

◆2020年8月12日 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62548770S0A810C2PP8000/
ー洪水対策「AIで水量管理」 菅氏、発電ダムで貯水強化ー

 菅義偉官房長官は12日、群馬県みなかみ町で、ダムの貯水機能を使った洪水対策を強化する考えを示した。治水に利用してこなかった発電用や農業用などのダムを全国的に活用して洪水を防ぐ。人工知能(AI)によるダムの水量管理も検討する。

 菅氏が発電用の須田貝ダムを視察後、記者団に語った。「全国900のダムは洪水対策に使われてこなかった。縦割り行政の弊害を除去して方針を見直した」と述べた。

 須田貝ダムは水力を利用して発電する「発電ダム」にあたる。豪雨が予想される場合は事前に放流し、ダムにためられる水量を増やして洪水リスクを下げる仕組みを今夏から導入した。

 政府はダムの運用方法を変えた。発電ダムについては豪雨対応の放流で発電量が減った場合、電力会社に補償する仕組みを創設した。電力各社は1級水系にあるダムについて治水に利用する協定を自治体などと結んだ。

 さらに政府が発電ダムを含めた全国すべてのダムの運用を見直した結果、洪水調整可能容量は46億立方メートルから91億立方メートルに増えた。

 菅氏は都道府県管理の2級水系にあるダムも治水協定を結ぶと明らかにした。「近年に水害が生じた水系や貯水容量の大きなダムがある約80水系について合意が得られる予定だ」と語った。