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「内水氾濫」頻発 迫る都市水害の脅威、東海豪雨20年(日本経済新聞)

 都市型洪水で近年特に多いのが内水氾濫です。
 日経新聞は「国土交通省によると、17年までの10年間に全国で起きた水害の被害額(1.8兆円)のうち、41%が内水氾濫によるものだった。東京都に限ると被害額の71%」と伝えており、内水氾濫対策が遅れていることを指摘しています。
 行政は治水予算の多くをダム事業に投じ、ダムの治水効果を過大にPRしてきました。河川の最下流にある東京など大都市の洪水も、八ッ場ダムなど山間の巨大ダムで防げるかのようなデマがいまだに横行しています。
 しかし、ダムはダムから遠ざかるほど、治水効果が減衰しますし、そもそも排水に問題のある内水氾濫はダムでは防げません。

◆2020年9月11日 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63573610Y0A900C2CN8000/
ー「内水氾濫」頻発 迫る都市水害の脅威、東海豪雨20年ー

 気候変動で豪雨災害が激しさを増す中、市街地での「内水氾濫」が頻発している。大規模な内水氾濫で名古屋市の約4割が浸水した2000年の「東海豪雨」から11日で20年となる。大都市の交通インフラを守る対策が十分進んだとはいえず、想定を超える都市型水害への備えが問われている。

 19年10月、武蔵小杉駅(川崎市)周辺を内水氾濫が襲った。甚大な被害をもたらした台風19号の記録的豪雨によって多摩川の水が排水管を逆流していた。一部のタワーマンションは電源設備が水につかり、電気や水道は1週間以上途絶えた。

 内水氾濫は、排水できなくなった雨水が下水道や側溝からあふれ出す現象だ。コンクリートに覆われた都市部は特に起こりやすい。台風19号では武蔵小杉のほかに、130以上の自治体で内水氾濫による浸水が発生。今年7月には福岡県久留米市で大きな被害が出た。

 国土交通省によると、17年までの10年間に全国で起きた水害の被害額(1.8兆円)のうち、41%が内水氾濫によるものだった。東京都に限ると被害額の71%を占める。市街地が水没すれば、密集する家屋や事業所が被災するリスクは大きい。

 こうした内水氾濫の脅威が注目されるきっかけになったのが、東海豪雨だった。名古屋市を流れる新川の堤防が決壊したことに加え、処理能力を超えた雨水が地上にあふれ、市内の浸水面積は市域の38%に及んだ。当時、実家が床上浸水した同市西区の石田音人さん(63)は「見渡す限り、茶色い泥水。言葉を失った」と振り返る。

 それから20年。多くの自治体が排水機能を高めるポンプや、雨水をためる地下空間の整備を進めてきた。だが、気候変動や海面水温の上昇に伴い、これまでにない規模の台風や豪雨の危険は高まっている。名古屋市の防災担当者は「ハード面の対策を進めてはいるが、100%被害を免れるのは難しい」と話す。

 内水氾濫は短時間の大雨で急に起こるため、避難が遅れやすい。大阪市は15年、東海豪雨クラスの雨を想定した内水氾濫のハザードマップを改定。「内水氾濫のハザードマップの重要度が高まっている」としてさらに想定の見直しを進めているが、作製が間に合っていない自治体は多い。

 交通インフラをどう守るかも大きな課題だ。大阪府などがまとめた被害想定によると、1000年に1度の豪雨で淀川の堤防が決壊した場合、地下鉄のトンネルなどから水が広がり、約3時間後に梅田の地下街が浸水する。地下鉄を含む14路線100駅が浸水し、1日あたり約400万人に影響する。

 東京では荒川が大規模な氾濫を起こした場合も、同様に17路線100駅が浸水する。都心の大手町駅も被災し、浸水期間は2週間以上に及ぶとされる。

 東海豪雨では、東海道新幹線が220本運休し、駅と駅の間で34本の列車が停止。約5万人が車両内にとどまって一夜を明かす事態に陥った。

 その後の度重なる風水害の経験を踏まえ、近年は「計画運休」が定着。今回の台風10号では、JR九州と西日本が最接近が見込まれた7日の終日運休について、2日前に発表した。ただ、昨年の台風19号では長野市の車両センターが浸水して新幹線が水没するなど対策は道半ばだ。

 名古屋大減災連携研究センターの高瀬邦夫研究員(気象防災)は「都市では短時間の激しい雨でも低地や地下空間が浸水し、電気設備や交通、物流のインフラに障害が発生する恐れがある」と指摘。「住民は普段から水害の危険性を確かめ、自治体は地域の危険に関する情報提供を徹底してほしい。企業はリスク評価に基づく防災対策を進める必要がある」と話す。(宮田圭)

東海豪雨
 2000年9月11日から12日にかけ、停滞する秋雨前線に向かって台風から暖かく湿った空気が流れ込み、積乱雲が帯状に連なる「線状降水帯」ができた。名古屋市では11日夜に1時間97ミリの猛烈な雨を観測。24時間雨量535ミリは統計開始以来、突出した大雨の記録となっている。
 名古屋市内を中心に7万戸が浸水し、崖崩れなどにより計10人が亡くなった。工場の操業停止が相次いだこともあり、被害総額7715億円は、平成に起きた水害としては18年の西日本豪雨に次ぐ規模となった。
中部電力管轄内では最大3万3400戸が停電し、大部分が復旧するまで5日かかった。