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昨秋の水害の一因となった千曲川狭窄部、河道掘削工事へ

 昨年10月の東日本台風豪雨では、長野県を流れる千曲川で堤防が決壊するなど大きな水害となりました。
 被災地住民による国土交通省への熱心な働きかけもあり、水害の再来を防ぐために河道を掘削する工事が始まろうとしています。
 堤防の決壊を防ぐためには、洪水の際の川の水位を下げる必要があります。ダムによる治水対策も、川の水位低下を目的としていますが、山間部のダムの水位低減効果は下流の平野部では大きく減衰しています。その点、河道の掘削工事は、堤防決壊など水害の起きやすい箇所の水位を直接低下させることができますので、ダム建設よりはるかに効果的で、しかも安価に短期間で行うことが可能です。

 岩波「科学」9月号に掲載されている元・建設省土木研究所次長の石崎勝義氏の論考「治水計画をめぐる不都合な真実」には、この千曲川の復旧工事について、以下の記述があります。

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 水害後、政府の出先である(国土交通省)千曲川河川事務所は住民の声に耳を傾ける姿勢をとり始めているように見える。さらに緊急プロジェクトについても誠意ある対応を取り始めている。7月13日に開かれた住民の説明会では、次のようなやり取りがあった。
 
 住民からの質問:狭窄部の河道掘削を実施して、水位を下げられないのか?

 事務所からの説明:狭窄部の掘削については、下流の流量が増えることから、慎重に取り扱う必要があると考えており、信濃川水系河川整備計画の管理者である国、長野県、新潟県で上下流の整備バランスを確保しつつ、一体的に整備を進めることにしております。なお令和2年1月末に取りまとめました信濃川水系緊急治水対策プロジェクトにおいても、狭窄部の河道掘削を実施することとしています。
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◆2020年9月14日 信濃毎日新聞
https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200914/KT200914FSI090003000.php
ー立ヶ花狭窄部2月に掘削へ 千曲川河川事務所 戸狩狭窄部でもー

 国土交通省千曲川河川事務所(長野市)は13日、昨年10月の台風19号により長野市穂保の堤防が決壊した千曲川で来年2月、下流の中野市にある立ケ花狭窄(きょうさく)部の掘削に着手する方針を明らかにした。立ケ花狭窄部は、堤防の決壊や周辺の越水の要因になったとされる場所。同時に飯山市の戸狩狭窄部についても掘削を始めるとした。

 立ケ花狭窄部は、堤防決壊地点の5キロほど下流から始まる。千曲川の川幅は、決壊現場付近で約1050メートルあるが、立ケ花橋付近では約260メートルに狭まる。増水時に大量の水が立ケ花でせき止められる形になり、専門家には、上流の穂保での越水、決壊の要因になったとの見方がある。

 来年2月の着手方針は、決壊から11カ月となる13日、決壊現場のある長野市長沼地区の復興対策企画委員会(柳見沢(やなみさわ)宏委員長)が同市長沼小学校で開いた住民集会で説明した。説明の部分は非公開。同事務所は14日午後に詳細を発表する。

 掘削すれば、下流への流量が増す懸念がある。同事務所の担当者は「上下のバランスをしっかりと見ながら、下流への影響がないよう工事を進める」としている。

◆2020年9月15日 毎日新聞長野版
https://mainichi.jp/articles/20200915/ddl/k20/040/168000c
ー千曲川立ケ花狭さく部、河道掘削着工へ 21年2月めどー

 国土交通省千曲川河川事務所は14日、千曲川の立ケ花狭さく部(中野市)の河道掘削に、2021年2月をめどに着工することを示したロードマップ(工程表)を発表した。

 昨年の台風19号で堤防が決壊した長野市穂保から下流6キロの立ケ花は120~450メートルと川幅が狭く、決壊地点の川幅約1キロと差がある。専門家はこの地形のため、水が逆流する「遡上(そじょう)流」が入り込みやすく決壊の一因になったと指摘していた。

 台風19号による千曲川氾濫を受け、同省北陸地方整備局は今年1月に緊急治水対策を発表した。立ケ花の河道掘削や堤防強化、遊水池の設置などを27年度までに段階的に実施することを盛り込んだ。河道掘削は流水量が変化するため上下流のバランスが重要となるとし、下流の飯山市戸狩も同時に掘削する。

 河川事務所は台風19号による堤防の決壊や越水がなかった場合、立ケ花に毎秒9000トンの水が流れたと試算。河道掘削で立ケ花は毎秒8600トンの水量を流し、遊水池の設置で同400トンをため込むことができる。

 ロードマップは、13日に開かれた長野市長沼地区の住民集会で説明された。同地区復興対策企画委員会の柳見澤宏委員長は「いつまでに何をやるのか進め方も示された。国の姿勢が変わってきたと感じる」と評価した。

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 一方、長野市は住民集会で、9月中に堤防決壊地点から下流500メートル区間の堤防に大型土のうを設置すると明らかにした。台風19号で同地区は80センチの越水があり、台風シーズンを前に同じ高さの土のうを設置して、氾濫を軽減したい考えだ。

 市河川課によると、大型土のうは80センチ四方。千曲川左岸の長沼地区では、台風19号による氾濫で1・4キロにわたり越水した。国交省が堤防強化の工事を実施中だが、市は独自で被害を軽減する「水防活動」として土のう設置を決めた。上下流の計450メートル区間にも台風が接近する数日前に設置する。国が復旧工事をした560メートル区間は堤防が強化されているため設置しない。

 設置期間はいずれも、国が堤防強化の工事を終える23年の出水期前まで。【島袋太輔】

◆2020年9月17日 中日新聞
https://www.chunichi.co.jp/article/122130/
ー千曲川の狭窄部、28年までに掘削 台風19号で堤防決壊ー

 国土交通省北陸地方整備局千曲川河川事務所(長野市)は、増水時の千曲川の越水を防ぐため、昨年十月の台風19号災害で決壊した長野市の堤防から下流五キロの「立ケ花狭窄(きょうさく)部」(中野市)で河道の掘削工事を来年二月に着手する方針を決めた。二八年六月までに完了させる計画。
 狭窄部は、上流の決壊現場付近の川幅と比べて四分の一程度に狭まるため、増水時に大量の水がせき止められ、決壊の原因となった越水につながる恐れがあるとして治水対策の課題に挙がっていた。
 河川事務所は台風19号災害で越水や堤防決壊が起きなかった場合、毎秒九千トンの水が狭窄部に流れ込んだと試算。掘削工事によって毎秒八千六百トンの流量を確保し、同四百トンは設置を計画する遊水池に貯められるようにする。
 掘削工事によってさらに下流への流量が増す可能性があるため、立ケ花から約三十キロ下流の「戸狩狭窄部」(飯山市)でも同時に掘削工事を進め、二五年六月までに工事を完了させる。
 河川事務所は狭窄部の掘削工事を含む千曲川の治水対策の工程表をまとめ、二七年度まで段階的に堤防強化などを進める方針も盛り込んだ。河川事務所の吉田俊康副所長は「昨年の台風被害と同程度の洪水が発生しても堤防・・・(以下略)