八ッ場ダムを管理している国交省利根川ダム統合管理事務所に取材した記事です。
◆2020年9月28日 FNNプライムオンライン
https://news.yahoo.co.jp/articles/1d8c28a8e6a7551e8ad360f7b1de99b28623518c?page=1
ー台風が来たらどう管理している? ダムの“洪水対応”を八ッ場ダムの管理事務所に聞いたー
昨年10月の台風19号で思い出されるのが、埼玉県にある首都圏外郭放水路が洪水を防ぐ大きな役割を果たしたことだ。そしてその役割は、ダムも担っている。
今月、過去最高クラスと言われた台風10号が日本列島に接近した際には、国土交通省は、洪水対策などのために、73カ所のダムで、事前放流を実施したと発表した。
しかし、観光スポットとしてダムを訪れたことがある人は多いと思うが、実のところ具体的にはどんなことをしているのか分からない人もいるかもしれない。
例えば、今年4月に本格的な運用を開始した八ッ場ダム。群馬県の吾妻川中流部に位置する重力式コンクリートダムで、洪水調節に加え、流水の正常な機能の維持、水道用水・工業用水の補給及び発電を目的としている。
運用開始から約6カ月で、これまでに放流以外では、利水のための用水補給を、8月20日から9月3日まで、梅雨前線の活動による洪水調節を7月8日に行った。
では具体的にダムではどのような管理をしているのだろうか? そして台風が発生した場合には河川の氾濫を防ぐためどのような対応をしているのか? 八ッ場ダムを管理する利根川ダム統合管理事務所の担当者に聞いた。
ダムの管理は大きく分けてふたつ
――ダムの管理とは、基本的にどのようなことをしている?
ダムの管理は、大きく分けて流水管理と施設管理があります。
流水管理は、台風等による川の増水を軽減するためにダムに水を貯留しながら少しずつ放流する洪水調節と、川の流量が減少した際にも安定的に水が使えるように、ダムから水を放流する用水補給があります。流水管理は、1年365日毎日継続して行っています。
施設管理は、ダム堤体や貯水池の点検及び機械・電気通信設備等の保守などを行い、いつでもゲート操作が行えるよう適切な状態に維持しています。
利根川ダム統合管理事務所では、用水補給目的に応じて利根川上流ダム群の運用調整を行い、放流量の配分を効率的・効果的に調整する統合管理を行っています。ダム管理支所では、上流域の降雨やダムの貯水位、流入量等を監視し、流入量の増減によってゲート開度を調整し、放流量を増減する操作や施設管理を行っています。
洪水期には東京ドーム約52個分の水を貯められる
――八ッ場ダムには設備面や運用面、容量などにおいて他のダムと比べどんな特色がある?
八ッ場ダムの特色として、設備面では、選択取水設備があります。
選択取水設備は、貯水池内の深さ方向の任意の高さの水を取水することができ、29段のサイホン管を積み上げた連続サイホン式を採用しています。取水範囲は58mあり、国内最大規模を誇っています。
運用面は、選択取水設備を活用し、ダム下流の水環境の影響を極力少なくするため、ダム湖に入ってくる水と同程度の水質の水を取水し下流へ流す操作を行っています。
容量面では、八ッ場ダムは、利根川上流ダム群の中で最大の6,500万立方メートルの洪水調節容量を有しています。また、ダム上流域の集水面積は711.4キロ平方メートルあり、利根川上流ダム群の中で最も広い面積を有しています。
――洪水期(7月1日から10月5日)では最大でどれたけの治水ができる?
八ッ場ダムでは、洪水期に東京ドーム約52個分の6,500万立方メートルの洪水調節容量を確保しており、他の利根川上流ダムよりも洪水をたくさん貯め込むことができます。
――豪雨による河川の氾濫を防ぐには「事前放流」が重要になると思う。「事前放流」の判断はどのようにして決めている?
事前放流は、既存ダムの有効貯水容量を洪水調節に最大限活用するにあたり、現行の洪水調節容量に加えて一時的に洪水調節するための容量を利水容量から確保するものです。具体的には、令和元年の台風19号相当の豪雨が想定される場合等、利水容量の一部を放流し、空き容量を確保するものです。
台風性降雨の場合、台風が接近する前から事前放流を開始するので、晴天時から放流することとなります。事前放流の実施にあたっては、関係機関へ通知すると共に川に入っている人に対し警報を行います。
なお、事前放流を実施する場合、利根川ダム統合管理事務所のホームページで公表しますのでご確認ください。
――昨年の台風19号では、八ッ場ダムの試験湛水中の貯留を発表していたが、同様の降雨があった場合、どうやって調節する?
洪水調節は、操作規則でルールが決まっており、流入量の状況によって放流量が変わります。流入量が毎秒200立方メートルまでは、流入量と同じ流量を放流します。
その後、流入量がピークに達するまでの間は、毎秒200立方メートルを放流しつつ洪水を貯めていきます。その後は次第に放流量を増加させ、最大で毎秒1,000立方メートルを放流します。流入量が放流量とほぼ同程度となった段階で洪水調節は終了です。
なお、これは通常の調節となり、洪水時最高水位(洪水時、一時的に貯水池に貯めることが出来る最高の水位)を超える予測がされると、流入量と同量の水を放流する「異常洪水時防災操作(緊急放流)」を行うこともあるという。
そして、24日に関東に最接近した台風12号では、少しだけ事前に貯水位を下げる放流を行ったという。また同管理事務所では、23日に洪水警戒体制を執ったが、洪水の可能性がなくなったとして翌24日の午前9時に解除した。
大雨時には全国各地のダムではこのようにして洪水対策を行っているというが、今後も発生する可能性のある台風だけでなく、短時間に激しい雨が降ることも珍しくなくなっている日本において、ダムの役割は大きくなっているといえるだろう。