八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

「八ッ場ダム完成半年、周辺地域、観光地への飛躍に期待」(上毛新聞論説)

 八ッ場ダムが今年3月末に完成して、半年がたとうとしています。
 ダム事業者の国土交通省と群馬県は、水没などの甚大な犠牲を被ってきた地元に対して、ダムが完成すれば、ダムが観光資源となると説明し、関係都県は水没予定地域の地域振興のために多くの事業費を負担してきました。

 今朝の上毛新聞の「論説」は、ダム観光の現状を伝えています。東日本有数の観光地である草津温泉や軽井沢などを訪れる観光客が往来する八ッ場は、集客しやすい立地条件にあり、水陸両用バスは二カ月で6000人もの観光客が利用したとのことですが、テーマパークのようにダム湖周辺各所に整備されつつある地域振興施設の中には、今年の観光シーズンにオープンが間に合わないところもあります。
右写真=道の駅八ッ場ふるさと館の駐車場から発車する水陸両用バス。

◆2020年9月28日 上毛新聞
ー八ッ場ダム完成半年 観光地への飛躍に期待ー

 八ッ場ダム(長野原町)が完成し、間もなく半年となる。ダム本体の観光や周辺施設の開業は新型コロナウイルス感染症の影響で静かな船出となったが、ダム湖「八ッ場あがつま湖」を活用した水陸両用バスが人気となるなど新しい観光スポットが注目を浴びている。次々と完成した建物や工事中の地域振興施設を含め周辺一帯の連帯感を醸成し、観光で栄える地域への飛躍を期待したい。

 観光の目玉となっている県内唯一の水陸両用バスは、町が特定非営利活動法人日本水陸両用車協会(東京都港区)に委託し、水曜を除く1日5便運行している。ダム本来の目的である下流への利水補給でダム湖の水位が低下し約1週間運休したが、7月18日に開始以来、2カ月で6000人ほどが乗車した。協会は、県外で運行している水陸両用バスと比べ、「八ッ場はコロナの影響を感じさせないほど乗車してもらえている。話題、知名度が抜群だ」と説明。新たな観光地づくりに成功している。

 川原湯地区にあるキャンプなどアウトドア活動が楽しめる「川原湯温泉あそびの基地NOA(ノア)は8月に全面開業した。県内客を中心に1カ月間で約900人が宿泊。ダム下流の東吾妻町では、ダム建設に伴って付け替えられた旧JR吾妻線の線路を活用した「自転車型トロッコ」の本格運用が今月12日に始まった。予約がいっぱいになる日が多く、観光客はペダルをこぎながら吾妻渓谷を眺めて楽しんでいる。

 観光客はダム本体の上を見学したり、管理支所近くの「展望デッキ」「やんば見放台」を訪れたりと途切れない。3蜜になりにくい窓のない水陸両用バスや屋外観光が中心で、コロナ時代の観光様式と合致している強みがある。

 各種施設の工事を巡っては当初、ダム完成とともに全て終え、ダムを活用した観光地として出発する計画だった。本年度に事業を繰り越し、現在も工事が続いている施設の開業遅れが心配だ。水陸両用バスが本来発着する拠点で、農産物や土産を販売する「八ッ場湖の駅丸岩」は、見込んでいた夏と秋の観光需要期にオープンが間に合わないという。

 川原湯温泉あそびの基地NOAで提供するカヌーは、水陸両用バスの出入水場所との兼ね合いから自由に利用できない状況が続いている。道の駅「八ッ場ふるさと館」と「八ッ場林ふるさと公園」を結ぶ遊歩道は未完成のままで、公園の利用開始前に行楽シーズンを終えようとしている。

 ダムに伴う各種工事は本年度末までの完成を目指している。ダム建設は68年前の計画以降、地域を分断させた歴史があるのも事実。コロナ禍を考慮しつつ、ダム周辺地域が一丸となって、観光で栄える新しい地域の出発を皆で実感できるような節目の行事も必要だ。周遊観光や滞在時間を延ばす施策などを考案し、全国有数のアウトドア拠点を築いてほしい。

—転載終わり—

写真下=横壁地区の地域振興施設「八ッ場湖(みず)の駅丸岩」。水陸両用バスの発着所でもあることから「湖の駅」と名づけられたが、完成が遅れている。背後の岩山は横壁地区と川原湯地区の境に聳える堂岩山。

写真下=ダムの下流側の吾妻川では、新たに橋が建設されており、吾妻川の右岸側の山中の遊歩道は今も閉鎖されている。

写真下=吾妻渓谷の左岸側の山中を走る付け替え国道内のトンネルは、補修工事のため片側通行。吾妻渓谷の旧国道に工事看板。2020年9月26日撮影。