2008年に川辺川ダム計画を中止に追い込んだ球磨川流域の運動は、川の恵みで生計を立てる川漁師らの反対が大きな力となりました。しかし、流域では高齢化と人口減少が進み、漁業組合もかつてのような勢いがないようです。
川辺川ダム計画復活の動きに対して、漁協は悩み多き対応を迫られています。
熊本県は球磨川治水に関して、流域の団体等の意見聴取を行っています。
漁協以外の意見聴取についての記事は、こちらのページにまとめています。
https://yamba-net.org/53213/
◆2020年10月15日 熊本日日新聞
ー球磨川漁協、治水触れず 熊本県の意見聴取 ダム巡る混乱避けー
熊本県が15日に人吉市で開いた球磨川治水対策に関する意見聴取の会合では、参加団体から川辺川ダム建設を求める声が相次ぐ中、球磨川漁協の堀川泰注組合長は「治水対策については触れない」と述べるにとどめた。同漁協内ではこれまで、ダム建設を巡る賛否が激しく対立。慎重姿勢の背景には、混乱を避けたい思惑がある。
「過去に大変なもめ事があった。ダムに推進、反対と明言することで組合員が混乱するのは避けたい」。会合終了後、報道陣の取材に答えた堀川氏は言葉を選び、複雑な立場をにじませた。
球磨川水系の漁業権を持つ同漁協内では長年にわたり、対立が続いた。2001年には、ダム本体着工に向けて国土交通省が提示した漁業補償契約の締結案を、総代会、臨時総会と2度にわたり否決。
着工に“待った”を掛けたが、その後も総代選挙などで、ダム容認派と反対派が激しい多数派工作を繰り返した。現在の組合員数は約千人で、締結案を否決した当時の約6割弱まで減っている。
堀川氏は「賛否両論があると思っている。国や県が治水対策を示す前に漁協の考えを表明することはない」と明言。組合員の意見集約は、ダムを含む治水案が提示された「後」との考えを強調した。(小山智史、内田裕之)
◆2020年10月16日 西日本新聞
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/654791/
ー漁業者側、ダムの賛否触れず 熊本豪雨の被災地で意見聴取会ー
7月豪雨からの復旧・復興と治水の方向性を決めるため、15日始まった熊本県の蒲島郁夫知事による被災地の意見聴取会。初回は農林水産関係8団体10人が発言し、「ダム容認」が大半を占めた。ただ、過去にダムを巡る内部対立を経験した球磨川漁協の堀川泰注(やすつぐ)組合長は「あまり刺激せずに進めたい」と慎重な発言に終始。国や県の方向性が示された後、意見を集約する考えだ。
会合では、球磨地域農協など5団体がダム建設を求め、「自然環境に配慮した流水型の穴あきダムの検討を」と踏み込んだ提案もあった。背景にあるのは、ダムの代替案となる「遊水池」への警戒感。優良農地が犠牲となるため「農家の理解は得られない」という。
一方、堀川氏は「発言を慎重にしないといけない立場」と断った上で、兼務する人吉球磨木材協会長として「森林は『緑のダム』とも言うが、今の山の状況を見ると保水能力はなくなっているのではないか。何らかの治水対策は必要だ」と言及。漁協組合長としては漁業被害を訴えるにとどめ、「治水対策にどうのこうのとは触れない。組合員と協議して一番良い選択をしていきたい」とした。
会合後、堀川氏は取材に応じ「漁獲量は減った。組合員は千人を切り、高齢化も進んだ」と球磨川の漁業の窮状を訴えた上で「『ダムに反対してくれ』という声はある。だが、反対ばかりではない。(普段は貯水しない)流水型なら、との意見はある」と明かした。
胸の内は複雑だ。川と直接関わるだけに「ダムは川にとって良くない」との立場は変わらない。それでも「国、県が(ダム建設を)決めれば、いたずらに対抗はできない」とも考える。
「(意見集約は)国、県の方向性が出てから。ダムを造るとなれば漁業補償の問題もある。時間はかかる」。補償案の議決には投票した組合員の3分の2の同意が必要。堀川氏は「ハードルは結構高い」とみる。
会合には、県たばこ耕作組合▽球磨畜産農協▽球磨酪農協▽人吉球磨地域土地改良区連絡協議会▽球磨地方森林組合連絡協議会-も出席した。(古川努)