球磨川の中流域にある人吉盆地は、「九州の小京都」と呼ばれる風光明媚な観光地です。
7月の球磨川の洪水の際、人吉では球磨川沿いの旅館なども甚大な水害に見舞われましたが、このほど蒲島県知事が同地で行った意見聴取では、温泉旅館組合が川辺川ダム建設に反対の意思を示したとのことです。以下の記事で伝えられている「「(川辺川ダムができれば)観光面での衰退を招く」という旅館主らの想定は、川に寄り添って観光を営んできた旅館だからこそ、わかることだと思います。
◆2020年11月3日 NHK熊本放送局
https://www3.nhk.or.jp/lnews/kumamoto/20201103/5000010462.html
ー川辺川ダム建設に反対意見ー
7月の豪雨で氾濫した球磨川の治水対策について、熊本県の蒲島知事が観光業の従事者から意見を聞く会が人吉市で開かれ、焦点となっている川辺川ダムの建設について川の環境が悪化するとして建設に反対する意見が出されました。
人吉・球磨地方は、温泉や球磨川の急流を下るラフティングなど、観光業が主要産業となっていますが、7月の豪雨で多くの旅館やホテルが浸水被害を受けて営業休止に追い込まれるなど大きな打撃を受けています。
3日、人吉市の会場には観光協会や旅館業の組合などから10人が集まりました。
この中で川辺川ダムの建設について、人吉市の9つの大手ホテルなどが加盟する人吉温泉旅館組合の代表は、ダムの建設で川の環境が悪化し、観光面での衰退を招くとしてダムの建設には反対だと述べました。
また、ラフティングの団体の代表はダムの建設で観光資源としての美しい川の価値が変化しないのか心配だとして、ダムを建設した場合に想定される影響をきちんと説明してほしいと話しました。
会合に参加した球磨川ラフティング協会の大石権太郎会長は「豪雨で14社のうち9社が被災して、どこも再開できていない。川が今後どうなるかは我々の今後の仕事に大きく関わってくるので県にはダムの影響をきちんと示してほしい」と話していました。
◆2020年11月4日 熊本日日新聞
https://this.kiji.is/696486849293173857?c=92619697908483575
ー「ダムによらない治水を」 人吉市で最後の住民聴取会、建設容認もー
熊本県の蒲島郁夫知事は3日、7月豪雨で被災した人吉球磨地域の観光や商工団体などを対象に、球磨川の治水対策や復旧・復興への意見聴取会を人吉市で開いた。川辺川ダムについては明確な賛成意見はなく、清流を守るためダムによらない治水を求める声が目立った。
地元住民や団体からの意見聴取会は今回が最後。会合は球磨地域振興局で2回に分け、計26人が参加した。
人吉市の旅館やホテルでつくる人吉温泉旅館組合の堀尾謙次朗組合長は、ダム計画について「環境が破壊され、日本一の清流が失われてしまう」と建設反対を主張。「ダムがあっても今回の被害は防げなかったと国も説明している。ダムによらない治水を検討すべきだ」と述べた。
球磨焼酎酒造組合の鳥飼和信代表理事も「なぜ、今すぐダムなのか。周囲の被災者はダムが必要と言っていない。球磨川は母なる川で美しい川」と訴えた。
一方、人吉商工会議所の岩下博明会頭は「人吉市は球磨川下りとアユ釣りが観光のメイン。それらができるような水量を常に調整できるようであれば、ダムは必要だ」と、条件付きでの建設容認を示した。ダム建設予定地となる相良村の堀川匠太商工会長は「川辺川の治水対策が決まらないと村の方向性も決まらない。県が決断した治水対策に協力する」と述べた。
観光業への支援を求める声も。相良村の第三セクター「茶湯里[さゆり]」の支配人、平川栄治さんは国の観光支援事業「Go To トラベル」に触れ「人吉球磨には恩恵がない。対策を急いで」と要望した。
球磨川ラフティング協会の大石権太郎会長は「協会としての復興は、球磨川がツアーができるきれいな川になること。きれいな川が守られる治水を望みたい」と語った。
終了後、蒲島知事は「人命や財産だけでなく、清流や環境を守ってほしいという強い思いがあると感じた。両方に沿った治水対策をやらないといけない」と述べた。(臼杵大介、澤本麻里子、小山智史、吉田紳一)
◆2020年11月4日 西日本新聞
https://this.kiji.is/696541083149272161
ー「きれいな川辺川を」流域の観光関係者 治水巡りダム建設に反対ー
7月の記録的豪雨で氾濫した熊本県の球磨川流域の治水を巡り、蒲島郁夫知事は3日、人吉球磨地域の観光・商工団体の関係者から人吉市内で意見を聞いた。観光団体からは観光資源の球磨川や川辺川の環境が悪化するとして、川辺川ダム建設に反対する発言が相次いだ。
観光・文化関係の会合には10団体が参加。人吉温泉旅館組合の堀尾謙次朗組合長は、ダムができればアユが育たなくなるなどとして「川と住民が共生できる自然環境を守るのが私たちの責務だ」と訴えた。人吉温泉観光協会によると、市内にある37宿泊施設中26施設が豪雨で被災。堀尾氏はそれでも、線状降水帯が多発して従来の治水対策は通用しないとして「自然環境を破壊するダム建設には断固反対」と述べた。
球磨川ラフティング協会の大石権太郎会長は「きれいな球磨川や川辺川が守られ、子どもたちが楽しく遊べる環境を望みたい」と、川辺川ダムが建設された場合に川の水位や水質がどう変化するかデータで示すよう求めた。蒲島氏は「生命財産と球磨川の環境、両方を守る治水対策を考えていく」と応じた。
商工団体との会合もあり、16団体の代表者からは事業再建に向けた補助金申請期間の延長や、災害時の迂回(うかい)路整備などを求める声が上がった。(中村太郎)
◆2020年11月3日 朝日新聞
https://digital.asahi.com/articles/ASNC26QZ5NC2TIPE016.html
ー川辺川ダムめぐり賛否分かれる 人吉では慎重意見もー
蒲島郁夫知事は2日、球磨川の治水対策や復興プランについて、五木村に続いて、錦町や人吉市で意見を聴いた。川辺川ダムをめぐって賛否両方の意見が相次ぎ、2008年の知事の「白紙撤回」の判断について疑問視する意見も出た。
錦町役場では、隣接のあさぎり町民とあわせて31人が意見を述べ、川辺川ダムを求める声が目立った。
川辺川と球磨川合流点に近い錦町・浜川地区の農業、西嶋健一さんは、農機具や自家用車の浸水被害が出たのは、川の合流で流れがせき止められるバックウォーター現象が原因だと指摘。「球磨川沿いの優良な農地を子や孫の世代につなげるためにも、被災者としてダムの重要性と必要性を感じている」と話した。
あさぎり町区長会の松下英人副会長は、豪雨災害以前は川辺川ダムに反対だったと明かした上で、「被害を受けて今はダムが不可欠だと思っている。下流の人たちを安心させていただきたい」と訴えた。
県球磨総合庁舎(人吉市)では、人吉球磨地域の医療・福祉・教育関係者15人が意見を述べた。
人吉市医師会の岐部明廣会長は会員78人へのアンケート結果を提出。川辺川ダムについては回答のあった50人中、反対32人、賛成8人、どちらでもない10人で、県や国の説明が不十分との答えが37人にのぼったことも紹介し、時間をかけた議論を求めた。
一方、球磨郡歯科医師会の向江富士夫会長は個人の意見として、「このような事態になったのは、治水整備が有効にできていなかったということ」と指摘。「もっとも短期間で有効なのはダム。川が死なないためには、人が死んでも良いのか」と訴えた。
この日の参加者からは「知事があの時にダムを建設していたら、このような大災害にならなかったのでは」と蒲島知事の判断への疑問も呈された。
会合後の報道陣の取材に蒲島知事は、県民から責任論を直接問われたのは初めてと明かし、「白紙撤回をした本人として重く受け止めている。だから、(近く示す)決断はより重要であると考えている」と話した。(竹野内崇宏)