川辺川ダム問題 住民が心配する緊急放流 熊本県知事「市房ダム改良」表明に波紋

 7月の熊本豪雨の際には、球磨川上流の県営・市房ダムが満杯に近くなり、緊急放流の寸前まで追い込まれました。川辺川ダム建設に反対や慎重意見の住民が口にするのが、ダムの緊急放流によって川の水位が急上昇することへの恐怖です。市房ダムの緊急放流がテレビなどで予告された時点で、すでに球磨川は氾濫しており、市房ダムの緊急放流が実施されれば、被害はどれほど拡大したかしれません。
 ダムを推奨する側は、緊急放流は川にダムがないのと同じ状態になるだけだから、ダムによって被害が拡大するわけではないと主張していますが、ダムの緊急放流による被害を目の当たりにした人々は、一気にダム堤の高いところから放流される水の破壊力の凄まじさを訴えています。
 蒲島郁夫・熊本県知事はここにきて突然、市房ダムの緊急放流を回避できるようにダム本体の改良を検討する考えを示しましたが、どこまで回避できるのかよくわかりません。

◆2020年11月4日 熊本日日新聞
https://this.kiji.is/696547275892622433?c=92619697908483575
ー市房ダム、事前放流を強化へ 熊本県が検討ー

 球磨川水系の熊本県営市房ダム(水上村、多目的ダム)について、蒲島郁夫知事は3日、大雨時にダムへの流入量と同じ分を下流に流す「緊急放流(異常洪水時防災操作)」を回避するため、事前放流の強化に向けた施設改良を検討していることを明らかにした。

 同日、人吉市の県球磨地域振興局であった意見聴取会で、緊急放流に対し「被害が拡大する」「恐怖が消えない」との声が相次いだのに対する説明。蒲島知事は「不安を最小化するため、(洪水調節)容量を増やす検討をしている」と述べた。

 県河川課によると、市房ダムは国、県、関係自治体や企業と協定を結び、一定の降雨量が予測されると、必要に応じて事前放流することを取り決めている。

 ただ、標高264・7メートルにある既存の放流口2カ所(幅7・1メートル、高さ15・2メートル)は、水位が270メートルを下回ると水圧低下で放流量が落ちる。このため、確実に放流量を確保するため、ダム本体の下部に放流口を新たに設置する検討をしているという。

 一方、今月中に球磨川治水の方向性を示す方針の蒲島知事は、選択肢の一つとする川辺川ダムについて「(緊急放流を回避する仕組みが可能かどうかは)これから検討する」と述べた。(高宗亮輔)

◆2020年11月5日 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20201105/k00/00m/040/246000c
ー川辺川ダム問題 住民が心配する緊急放流 熊本県知事「市房ダム改良」表明に波紋ー

  7月の九州豪雨で氾濫した球磨川の治水対策として浮上している川辺川ダム建設に反対や慎重意見の住民が口にするのが、一般に「緊急放流」と呼ばれる「異常洪水時防災操作」によって川の水位が急上昇することへの恐怖だ。今回の豪雨でも球磨川上流の市房ダムが緊急放流の寸前まで追い込まれた。熊本県の蒲島郁夫知事はここにきて突然、市房ダムの緊急放流を回避できるようにダム本体の改良を検討する考えを示したが、反対住民からは川辺川ダム建設の布石と受け止められている。

 「ダムへの不信感は消えていない。市房ダムは緊急放流する可能性があった。雨の状況次第では犠牲者はさらに増えたと思われる」。蒲島知事が球磨川の治水対策について住民から直接意見を聞くため10月から続けている意見聴取会。11月3日に人吉市であった会で、市内の旅館・ホテル9軒でつくる「人吉温泉旅館組合」の堀尾謙次朗組合長が語気を強めた。

 熊本県南部が記録的な豪雨に見舞われた7月4日午前6時半、県は市房ダムの貯水容量を超える恐れがあるとして、2時間後の同8時半に緊急放流を予定していると発表し、ダム下流の人吉市などの住民に警戒を呼びかけた。その後、雨が弱まったため、緊急放流は回避されたが、貯水位は標高280・6メートルまで上がり、緊急放流を開始する水位まであと10センチ、最大限ためられる水位まで2・4メートルに迫っていた。

 最終的に県が「緊急放流しない」と発表したのは午前10時半。それまでの間、住民は球磨川の氾濫による浸水被害を受けながら、防災無線などで繰り返し「緊急放流」の予告を聞き、更なる被害の拡大を心配していた。

 堀尾組合長は意見聴取会で、市房ダムで緊急放流した可能性に加え、2018年の西日本豪雨で氾濫した愛媛県の肱川(ひじかわ)の例も挙げて、川辺川ダム建設への反対を訴えた。肱川では上流の野村ダム(西予(せいよ)市)と鹿野川(かのがわ)ダム(大洲(おおず)市)で流入量とほぼ同量が緊急放流された。両市では氾濫により8人が死亡しており、被災者や遺族は、国の不適切なダム操作が原因で浸水被害を招き、両市の住民への周知も不十分だったなどとして、国と両市に損害賠償を求める訴訟を起こしている。

 球磨川の流域では、7月の豪雨まで戦後最大の被害とされた1965年7月の豪雨被害についても「市房ダムの緊急放流で被害が拡大した」と話す住民が多い。ただ、熊本県によると、同ダムが緊急放流したのは71年、82年、95年の3回だけで、65年にはしていない。県は「むしろダムの洪水調節機能で被害を軽減した」と説明し、「市房ダム被害拡大説」を「都市伝説だ」と否定する。

 そうした中、県が最近になって打ち出したのが市房ダムの改良だ。市房ダムに限らず国内の多くのダムでは、大雨が予想される際、事前にダムの水を放流して貯水容量を増やし、緊急放流を回避する措置が取られるが、放水口を広げたり、増やしたりすれば短時間での事前放流が可能になる。蒲島知事は人吉市での意見聴取会終了後の取材に「市房ダムへの恐怖感が人吉球磨(地方)にはあると感じている。変更(放水口の改良)が可能かも含めて考えたい」と話した。

 突然浮上した市房ダムの改良案。県河川課は「川辺川ダムにつなげようとは思っていない」と語るが、ダム建設に反対する「子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会」の中島康代表は「川辺川ダムを造りたいという思惑が透けて見える。ダムアレルギーを取り除くために市房ダム改良を持ち出してきたのだろう」と指摘する。【城島勇人、平川昌範】

ことば「市房ダム」
 熊本県が放水口改良の検討を始めた市房ダム。緊急放流を回避しやすくするのが狙い=熊本県水上村で2020年11月4日午後1時50分、吉川雄策撮影
 球磨川上流の熊本県水上村に1960年に建設された県営の多目的ダム。洪水調節を主目的に、発電やかんがいを目的とした利水も行う。総貯水量は4020万立方メートル。7月の豪雨時は190万立方メートルを予備的に放流することで、1230万立方メートルを貯水できた。一方、球磨川最大の支流の川辺川に計画された川辺川ダムは、2009年の中止当時の計画では総貯水量1億3300万立方メートルの多目的ダムで、規模は市房ダムの3倍以上。

◆2020年11月5日 西日本新聞
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/661312/
ー市房ダム改良検討 熊本知事 球磨川治水策巡りー

 7月の熊本豪雨で氾濫した球磨川流域の治水策を巡り、蒲島郁夫知事は4日の記者会見で、上流の県営市房ダム(水上村)について、洪水前に貯水位を大きく下げて治水容量を増やす「事前放流」を効果的に行うため、ダム本体の改良を検討していることを明らかにした。治水能力を超える大雨の際にも、緊急放流をできるだけ避ける狙いがある。

 市房ダムは緊急放流を過去3回実施したが、熊本豪雨時は回避した。蒲島氏は流域住民からの意見聴取で「市房ダムの緊急放流が今回の水害を起こした」との誤解があると知り、「住民には緊急放流の恐ろしさが染みついている。恐怖感を最小化したい」と述べた。

 県によると、市房ダムは総貯水量約4千万トン。熊本豪雨の際は前日から利水分を予備放流し、1620万トンの容量を確保。限界寸前まで貯水し、下流域の水位を下げる効果を発揮した。

 事前放流は、予備放流よりも貯水位を下げ、一時的な治水能力を上げる方法。放流ゲートの下まで迅速に貯水位を下げるため、ゲートの下部に新たな放流口の設置を検討し始めたという。 (古川努)