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蒲島熊本県知事、球磨川の治水対策について流域市町村長らから意見を聴取

 さる11月6日、蒲島郁夫熊本県知事は7月の球磨川水害を踏まえた治水対策について、流域市町村の首長らから意見を聴取しました。意見聴取で焦点となっているのが、川辺川ダム建設の是非です。

 蒲島知事は国土交通省の意向に沿って、川辺川ダム計画の復活を進めようとしているようです。
 球磨川流域で蒲島知事が行ってきた意見聴取では、被災住民や観光業者らからダム建設に反対する声が上がった一方で、首長らはダム推進の意見が多いとのことです。

 朝日新聞の記事に掲載されている地図では、流域のどの首長が川辺川ダムに賛成・反対であるか確認できます。
右図=11/7付け朝日新聞記事より ①五木村 ②相良村 ③水上村 ④湯前町 ⑤多良木町 ⑥あさぎり町 ⑦錦町 ⑧人吉市 ⑨山江村 ⑩球磨村 ⑪芦北町 ⑫津奈木町 ⑬八代市

 賛成・容認の首長8人のうち、水上村、湯前町は川辺川ダム下流域ではありません。津奈木町は球磨川流域ではありません。五木村は水没予定地ですから、治水対策としての川辺川ダムの恩恵を受けることはありません。つまり、4人の首長はダムの治水効果が期待できない町村の首長ということになります。これらの首長はどうして、川辺川ダムに言及したのでしょうか。
 ダムの治水効果はダムに近いほど発揮されます。ダムの治水効果を考えるのであれば、ダム直下の相良村、球磨川と川辺川の合流地点直下の人吉市の意見が重要になりますが、相良村長と人吉市長は川辺川ダムに言及しませんでした。川辺川ダム計画を巡って、首長の発言だけではわからない、複雑な問題があるのだと思います。
 

◆2020年11月7日 朝日新聞
https://digital.asahi.com/articles/ASNC742FGNC6TIPE00G.html?iref=pc_ss_date
ー流域首長、賛成・容認8人 触れず4人 川辺川ダムー

 7月の記録的豪雨で氾濫(はんらん)した熊本県南部の球磨(くま)川の治水対策などについて、蒲島郁夫知事が流域などの市町村首長や議会議長から意見を聴く会合が6日、熊本県の八代市と人吉市であった。2009年に政府が計画中止を表明した球磨川支流の川辺川ダムについて、建設を求める意見が出る一方、賛否に言及しない首長もいた。

 出席した12市町村長のうち、川辺川ダムへの賛意や容認姿勢を示したのは八代市や球磨村、ダム計画で一部が水没予定地となった五木村などの8人。ダム本体の建設予定地だった相良村などの4人は賛否に言及しなかった。

 五木村の木下丈二村長は席上、1996年にダム本体工事に同意した歴史に触れ、「一番尊いのは人命。半世紀にわたりダムの有効性、必要性については聞いている」と述べた。会合後の取材でも「村としてはダムを受け入れる態度は変わっていない」と話し、豪雨災害後で初めてダムへの容認姿勢を明らかにした。

 豪雨災害で25人が亡くなった球磨村の松谷浩一村長は、村内が賛否で割れているとの認識を示したうえで「ダムを柱として、その他様々な治水対策を行うことで安全度を高めていただきたい」と発言。球磨川最下流域にある八代市の中村博生市長は、災害で失われた人命や財産に言及して「二度とこのようなことがあってはならない」と訴え、「ダムは必要と考えている」と明言した。

 一方、相良村の吉松啓一村長は「住民からは清流を子々孫々までずっと保ってもらいたいという話が出ている」などと発言。ダムの賛否には触れず、「村民の代表として」と前置きしたうえで、ダム以外の治水策である河道の掘削や堤防のかさ上げなどの早急な実施を求めた。会合後の取材に、「村民に賛否があることを考慮した」と述べた。

 豪雨災害で20人が亡くなるなどした人吉市の松岡隼人市長もダムの賛否には触れず、「今後、知事が示される球磨川治水の方針をしっかり受け止める」などと述べるにとどめた。

 蒲島知事は年内の早い時期に治水の方向性を表明する方針。(伊藤秀樹、村上伸一、棚橋咲月)

意見を聴く会、23回のうち平日が18回「参加難しい…」
 蒲島郁夫知事が球磨川流域の住民や団体から意見を聴く会は6日までに23回開かれ、のべ447人が参加した。流域市町村での会合は6日で終了。ダム問題に詳しい研究者や、県議会の各会派代表らが出席する会が、県庁であと2日間開かれる。知事は治水策について「民意」をさぐってきたが、議論の進め方には不満もくすぶる。

 「平日開催は参加が難しい。やっと休みをとって参加した」。10月下旬の金曜日の午後、球磨村で開かれた会で、村の診療所に勤める事務職員の市花保さん(50)が訴えた。

 23回のうち平日に開かれたのは18回。土曜日と祝日だったのは5回で、会場はいずれも人吉市だった。

 市花さんの自宅は濁流にのまれ、妻と娘の3人でみなし仮設に暮らす。診療所も水につかり、泥まみれの書類をめくってパソコンに打ち直す日々だ。仕事を休めば作業は遅れるが、参加しなければ、行政が選んだ一部の人の意見に偏るのではと危惧した。「民意を問うなら、被災者や住民がきちんと参加できるようにしてほしい。拙速に議論が進められることに怒りを覚える」

 知事は、住民らの意見を「民意」として、年内に示す治水案に反映させる考えだ。ただ、県が出席を求めた団体の代表からは、ダムの賛否で組織が割れることを懸念し「ここでは意見を言いたくない」との声も。人吉市では「住民投票で決定することはできないか」などと、広く民意を明らかにすることを求める意見が複数あがった。(竹野内崇宏)

■鈴木桂樹・熊本大教授の話
 民意の問い方には住民集会や世論調査など様々な手法があり、「これが正しい」という基準はない。大切なのは首長が政策を決めるにあたり、住民が納得できるプロセスだったかどうかだ。

 今回の豪雨を踏まえ、知事がダムを選択肢に含む新たな治水政策を考えるなら、ダムへの賛否の問いかけは重要な要素だ。だが、明確に問うことを避けたため、何に対する意見を聴こうとしたのか、あいまいだった。それでは民意を見極めようというより、政策判断の正当性を担保しようとしたように見える。

■流域首長らの主な発言

●川辺川ダム計画に言及
①木下丈二・五木村長    半世紀にわたりダムの有効性、必要性を聞いている。知事は早い決断を
③中嶽弘継・水上村長    (ダム以外の)10案を検討してきたが、人命第一。ダム以外に方法はない
④長谷和人・湯前町長    ダムを基軸にベストミックスで。清流を守る特段の配慮を
⑦森本完一・錦町長     住民の生命と財産を守るには川辺川ダムを柱にした治水以外にない
⑩松谷浩一・球磨村長    ダムによらない治水はない。ダムを柱として様々な治水対策を
⑪竹崎一成・芦北町長    人命を守るためあらゆる方策を。ダム排除の議論は合理的ではない
⑫山田豊隆・津奈木町長   浚渫(しゅんせつ)や堤防のかさ上げがぜひ必要。命を守るにはダムも選択肢の一つ
⑬中村博生・八代市長    人命、財産を守れないことは二度とあってはならない。ダムが必要である

●川辺川ダム計画に言及せず
②吉松啓一・相良村長    まずしなければならないのは河道掘削や堤防かさ上げ。清流も守る
⑤吉瀬浩一郎・多良木町長  今回(の水害では)、昨年行った樹木伐採と河道掘削の効果が表れている
⑥尾鷹一範・あさぎり町長  住民の命、財産を守るのが我々の責務。知事の決断の責任の一端を担う
⑧松岡隼人・人吉市長    安全・安心な暮らしが約束され、すぐにできる治水対策を行って頂きたい

●欠席
⑨内山慶治・山江村長

※発言は会合とその後の取材による

◆2020年11月6日 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20201106/k00/00m/040/307000c
ー川辺川ダム反対「なし」 球磨川流域の市町村長 熊本知事が意見聴取ー

 7月の九州豪雨で氾濫した球磨川の治水対策について、熊本県の蒲島郁夫知事は6日、流域市町村の首長らから意見聴取した。焦点の川辺川ダム建設について、出席した首長11人のうち6人が賛成意見を述べ、反対を明言した人はいなかった。蒲島知事が2008年にダム計画を「白紙撤回」した背景には、建設予定地の相良(さがら)村と最大受益地の人吉市の首長の反対があったが、共に既に交代している。12年前とは情勢が大きく異なる中、知事は首長の意見なども参考に月内にも治水方針を判断する。
 
 流域の12市町村でつくる「川辺川ダム建設促進協議会」の首長のうち、災害調査を理由に欠席した山江村長以外の首長が出席した。協議会の会長を務める錦町の森本完一町長は、知事がダム計画を白紙撤回した後にダムによらない治水策を協議してきたがまとまらなかった経緯を振り返り「ダムによらない対策は非現実的」と指摘。川をせきとめるダムに比べ水質への影響が小さいとされる流水型ダムの建設を求めた。

 25人が死亡した球磨村の松谷浩一村長は、豪雨被害の検証委員会で国が示した「川辺川ダムがあれば、人吉地区での浸水面積を約6割減らせた」との検証結果を踏まえ「ダム以外の効果のある治水はないと思っている。ダム建設を柱にさまざまな治水対策を取ることで安全を高めていきたい」と強調した。他に▽八代市▽芦北町▽湯前(ゆのまえ)町▽水上村――の首長もダム建設に賛成した。川辺川ダムが建設されていれば中心部が水没していた五木村の木下丈二村長は「検証委でもダムの効果があるとはっきり示された」と述べつつ、建設への賛否は明言を避けた。

 一方、ダム反対の前村長を破って3月に就任した相良村の吉松啓一村長は「まずは河川の掘削や堤防のかさ上げをお願いし、清流を守ってほしい」と慎重姿勢を示した。ダム建設に反対した前市長を破った人吉市の松岡隼人市長は「知事が今後出す治水方針をしっかりと受け止めていく覚悟だ」と述べるにとどまった。

 蒲島知事は10月15日~11月3日、流域の団体や住民らの意見を聴取する会を21回開き、422人が意見を表明。ダム建設に賛成の声が出る一方、「自然環境が壊れる」などの理由で反対する住民も多い。知事は6日の意見聴取後、「ダムによらない治水では(今回のような)大きな災害に耐えるだけの方策が出せなかった。ダムの選択肢を排除しないで、命と財産を守り、かつ球磨川流域の恵みを守るという治水対策を考えており、大詰めにきた」と語った。【城島勇人、栗栖由喜】