2008年に蒲島熊本県知事が川辺川ダム計画の白紙撤回を表明したのは、球磨川流域で川辺川ダムの恩恵を最も受けるとされる人吉市の田中信孝市長がダム反対を表明したからでした。
田中氏へのインタビュー記事は先に熊本日日新聞が掲載していますが、このほど西日本新聞が掲載した記事では、一旦は中止された川辺川ダム復活の新たな切り札とされる「流水型(穴あき)」ダムの問題について、田中氏の言葉が次のように紹介されています。
「市長時代に島根県の穴あきダムを視察した。アユで有名な川だったのに、ダム完成後は土砂が堆積し、魚がすまなくなったということだった。穴あきであっても土砂はたまる」
球磨川は尺アユで代表されるように、豊かな恵みをもたらす川であることから、流域住民がダム建設に反対する大きな理由は「河川環境の悪化」です。ダムを推進する側は「流水型(穴あき)ダム」にすれば、河川環境の悪化は回避できると説明していますが、わが国で最初に建設された穴あきダムである島根県の増田川ダムは、河川環境を悪化させているということです。
田中氏による「今からダムを作るとしても、環境アセスメントから始めなければいけない。漁業補償の問題もある。5年や10年では簡単に作れない。土砂撤去などの対策や減災を徹底した方が早いし、コストもかからない」という指摘も耳を傾ける必要があると思われます。
◆2020年11月13日 西日本新聞
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/663733/
ー「減災へソフト対策徹底を」 ダム建設に反対した前人吉市長語るー
7月豪雨で氾濫した球磨川流域の治水の方向性を巡り、熊本県の蒲島郁夫知事は近く川辺川へのダム建設容認を正式表明する見通しだ。2008年9月、蒲島氏の白紙撤回表明直前に川辺川ダム反対を表明した前人吉市長の田中信孝氏(73)が西日本新聞のインタビューに応じ、「ダムの効果には限界がある」として、減災に重点を置いたソフト対策を徹底するよう訴えた。
-県が、ダム建設を容認する方向で調整している
「来年も同じような大雨に見舞われる可能性があるのに、今なぜダムなのか。土砂撤去や堤防かさ上げ、引堤など(ダムより)すぐできる対策をなぜ優先してやらないのか。ダムについては、被災者の生活再建が落ち着いた段階で、きちんと判断材料を提供して民意を問うべきだ」
-川辺川ダムの最大受益地の人吉市長として、建設反対を表明した
「市長就任後、公聴会や書面による意見聴取など、さまざまな形で市民の意見を聞いた。ダムに賛成する声はほとんどなかった。ダムのメリットやデメリットに関する論文も読み込み、危険性が大きすぎるという結論に至った。ダムは限定された地域で、想定雨量に対しては機能する。だが想定外の雨が降った場合には対応できない」
-表明では「減災」を重視してさまざまな治水策を組み合わせることが大切と訴えた
「当時と思いは全く変わっていない。災害から全ての財産を守ることはできないが、命だけは助けないといけない。それには、事前避難しかない。今回の豪雨でも、各自治体の避難勧告や指示のタイミングが適切だったのかどうか、検証が十分にされていない」
-事前避難以外で、できる対策は
「流域自治体が協力して防災センターを設置すべきだ。衛星利用測位システム(GPS)や人工知能(AI)を駆使し、地形などを科学的に分析、情報収集ができる時代になっている」
-12年前と違い、明確にダム反対を訴えている流域の首長はいない
「今の首長で、ダムの政策論争を経て当選した人はだれもいない。市町村長の意見が市民の意見を代弁しているとはいえない」
-環境への影響が少ないとされる流水型ダム(穴あきダム)案が浮上している
「市長時代に島根県の穴あきダムを視察した。アユで有名な川だったのに、ダム完成後は土砂が堆積し、魚がすまなくなったということだった。穴あきであっても土砂はたまる」
「今からダムを作るとしても、環境アセスメントから始めなければいけない。漁業補償の問題もある。5年や10年では簡単に作れない。土砂撤去などの対策や減災を徹底した方が早いし、コストもかからない」
(聞き手は中村太郎)