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ダム、最善策でない 知事の「選択肢」発言疑問 元人吉市長インタビュ―

 2008年9月、当時の田中信孝・人吉市長が川辺川ダム計画の白紙撤回を表明し、蒲島郁夫知事の白紙撤回表明、翌2009年の前原誠司国土交通大臣の中止表明に至りました。人吉市は川辺川が球磨川に合流する地点の直下にあるため、川辺川ダムの最大の受益地とされていたところです。それだけに、人吉市長の意見表明はダム中止に大きな影響を与えました。

 当時の市長であった田中信孝氏のインタビュー記事が地元紙に掲載されました。田中氏は「ダムよりも河道拡幅や河床掘削、堤防強化の方が安上がりだし、清流が残せる」と語っているということです。

◆2020年9月23日 熊本日日新聞
https://kumanichi.com/feature/kawatotomoni/1617841/
ーダム、最善策でない 知事の「選択肢」発言疑問 元人吉市長・田中信孝氏ー

◇たなか・のぶたか 2007年、人吉市長に初当選。08年9月、川辺川ダムについて「計画そのものを白紙撤回すべき」と表明し、蒲島郁夫知事の白紙撤回、前原誠司国土交通相(当時)の中止表明につながった。市長を2期8年務めた。熊本大大学院で防災をテーマに研究し、19年に修了した。葬祭会社社長。同市在住。73歳。

 7月の豪雨を受け、再び川辺川ダム建設の議論が浮上した。2008年に白紙撤回を表明した蒲島郁夫知事はダム建設を「選択肢の一つ」と発言。被災した球磨川流域の再興を目指す過程で避けて通れないテーマだ。最大受益地である人吉市の市長として反対姿勢を打ち出した田中信孝氏は知事の発言を「評価できない」と批判。「ダムの功罪を検証し、しっかり民意を捉えるべきだ」とくぎを刺す。(聞き手・臼杵大介)

-今回の災害をどう受け止めていますか。
 「地球温暖化による豪雨災害が各地で頻発しており、環境変化がもたらした災害の一つと捉えている。気候変動によって大水害が起きるだろうというのは白紙撤回を表明した時も述べた。そうした中で今回、線状降水帯が人吉球磨を襲った」

-なぜ、白紙撤回に至ったのですか。
 「半年間、いろんな人の意見を聞き、文献を読んだ。重要視したのは住民の意識がどこにあるか。生の声を聞く公聴会を開き、来られなかった人には文書で意見を述べる機会を設けた。公聴会も文書もダム反対だった」

-国土交通省は、川辺川ダムがあれば人吉地点の流量を約4割カットできたと推計しています。
 「ダムを造れば流量は軽減できるが、限定的な地域、予測した雨量にしか対応できない。ダムがあったとしても今回、氾濫は防げなかった。大雨を降らす今の気象現象で、ダムがベストということはあり得ない」
 「ダムは緊急放流という危険な欠点がある。西日本豪雨では愛媛県・肱川[ひじかわ]がダムの緊急放流の後にあふれ、死者が出た。今回を超える豪雨に襲われた時、ダムがあれば緊急放流せざるを得ず、より多大な被害が出るはずだ。河道拡幅や河床掘削、堤防強化であれば、人は亡くならない。この違いは大きい」

-未曽有の水害にどう対応すればいいのでしょうか。
 「降水量が限界を超えると、ダムも、河道拡幅も、河床掘削も、堤防強化も役に立たないことがある。人間は天災を防ぐ手だてを持っていない。天災から逃れる方法は最終的に事前の避難しかなく、人命を守るために一番大切なのはそのシステムだ。前日の夕方までに避難を促すのが首長の重要な行動だが、今回、これがなかった」
 「山の斜面のずれやゆがみ、川の水位などを監視するシステムを構築し、科学的データを根拠に避難させる防災センターの設置が急務だ」

-豪雨を受け、蒲島知事はダムも選択肢の一つと発言しました。
 「ダムよりも河道拡幅や河床掘削、堤防強化の方が安上がりだし、清流が残せる。知事は球磨川を『地域の宝』と発言しておきながら、なぜ川を濁らすようなことをするのか。大いに疑問だ」
 「私が白紙撤回を表明して一番安堵[あんど]したのは、住民の対立、分断が止められたこと。ダム復活の議論になると、再び住民が賛成、反対に分かれ、対立が始まる。私はそれを一番恐れている」

◇  ◇
 7月の豪雨災害から間もなく3カ月。被災地では、街や暮らしの再生に向けた動きが始まっている。「再興 あなたに聞きたい」では、復興の動きが本格化する中、被災地の真の現状や、これからの課題について、地元の人たちやそれぞれの分野の専門家らにインタビューする。