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山鳥坂ダム、21年度政府予算案に39億8700万円  流域では治水効果・環境を懸念

 愛媛県を流れる肱川流域では、一昨年の西日本豪雨の際、国の二つのダムが緊急放流を行い、大水害となりました。国土交通省はこの肱川に三番目の巨大ダムを建設しようとしています。
 流域ではもともと、一旦は中止方針となった山鳥坂ダムが政治的な駆け引きの中で復活したことに対する反発がありました。肱川における大水害の要因の一つは、ダム事業費が優先され、堤防整備や河床掘削などがなおざりにされていたことです。
 流域では、西日本豪雨の大水害により、ダムの危険性が改めてクローズアップされ、より安全で早期に治水効果を発揮する堤防整備や河床掘削を要望する声があります。
 来年度予算には、山鳥坂ダムの本体工事に向けた測量設計費が計上されましたが、地元紙では河口付近の土砂掘削を求める声や、漁協が河川環境の悪化を懸念してダム建設に反対していることを伝えています。

◆2020年12月27日 愛媛新聞
ー山鳥坂ダム 反対根強く 流域 治水効果・環境に懸念 21年度政府予算案に39億8700万円ー

 政府が閣議決定した2021年度当初予算案で、肱川支流・河辺川で進む山鳥坂ダム建設事業(大洲市)に39億8700万円が計上された。
 うちダム本体工事に向けた測量設計費に約8億円を充てる内容で「計画通りに事業を進めるために最低限必要な額が確保された」(中村時広知事)形だが、西日本豪雨による被災を経てなお、流域では治水効果への疑問や河川環境悪化への懸念などから建設反対の声が根強く残る。

 山鳥坂ダムは1982年に旧建設省が予備調査に着手。「コンクリートから人へ」を掲げた2009年からの旧民主党政権下で3年余り建設が凍結されたが、13年1月に事業再開が決定した。
 国土交通省は、堤高約103mの重力式コンクリートダムの26年度完成を予定する。
 本体工事の着工時期は未定だが、水没地域住民の用地補償や付け替え県道の整備などが進む。

 全国のダム建設を巡っては、今年7月の豪雨災害を機に熊本県を流れる球磨川支流・川辺川でのダム建設計画が再始動するなど、ダムによる治水が復権しつつある。
 愛媛県は政府予算への要望・提案でダム建設を含む肱川の治水対策を「再度災害防止に向けた喫緊の課題」と位置付けており、中村知事は今月24日の会見で改めて「ダムや堤防整備、河床掘削などさまざまな対策でコントロールする必要がある」と強調した。

 だが、降雨を安全に流すための堤防整備や河床掘削による治水対策を優先するよう望む声は根強い。
 市民団体「山鳥坂ダムはいらない市民の会」の矢野庄一さん(77)は「ダム建設にかかる予算を河床掘削に充ててほしい」と懇願する。
 矢野さんは、河口の長浜地区にある長浜大橋付近で土砂が堆積し、小型船の航行にもが影響が出ていると指摘。「今回配分された約40億円の予算があれば、掘削はかなり進められるはずなのに」と疑問を呈す。
 下流部の同市多田地区に居住する矢野さんは、18年の西日本豪雨では自宅が約1.3㍍の浸水被害を受けた。
 「河口の土砂を除去し流下能力を上げなければ、再び豪雨の時のような洪水が起こった場合に大きな浸水被害が発生する。不安で仕方がない」と話した。

 15年連続でダム建設反対を議決している肱川漁協の橋本福矩組合長は「鹿野川、野村両ダムの建設後、ハヤやウグイといった魚がいなくなるなどわれわれ漁業者は身をもって河川環境の悪化を感じてきた。
 ダムがもう一つできればどうなるかは目に見えている」と述べ、肱川の生態系の変化や水の濁度の高まりを背景に反対の姿勢を示す。
 下流の東大洲地区などが発展してきた経緯もあるとし「『流域全体の命と財産を守るため』と言われれば、そんな必要がないとは言えない」と複雑な心境も吐露しつつ、水質改善の策などに「具体的な提案がないと(ダム建設に)賛同できない」。対応策について書面での正式な回答を国側に求めたいとしている。 (薬師神亮太、西尾寛昭)