八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

大戸川ダム建設を大阪府知事が容認 

 大阪府の吉村知事が凍結されていた大戸川ダムの建設を容認したと報道されています。
 大戸川ダムは国が淀川水系の大戸川に計画したダムで、建設予定地は滋賀県大津市にあります。
 大戸川ダムの基本計画が告示されたのは1991年。当初は利水と治水を兼ねた多目的ダムとして計画されましたが、利水(大阪府などへの都市用水の供給、水力発電)が不要となり、治水のみを目的としたダム計画となりました。2008年には事業に参画する淀川流域の滋賀県、大阪府、京都府、三重県の知事が中止を求めたため、事業主体の国土交通省近畿地方整備局は本体工事を凍結しました。水没家屋は55戸ありましたが、すでに20年以上前に移転を完了しています。

◆国土交通省大戸川ダム工事事務所ホームページより
 大戸川と淀川の流域図
 https://www-1.kkr.mlit.go.jp/daido/know/gaiyo.html

 淀川流域4府県の中で、もともと大戸川ダムの凍結に最も積極的であったのは、環境社会学者である滋賀県の嘉田由紀子知事でした。嘉田氏の後継者として2014年に滋賀県知事に就任した三日月大造氏は、当初は嘉田氏の方針を守ると明言していましたが、二期目の知事選の際、自民党の支持を取り付けるために大戸川ダム推進に転換しました。
 これまでに滋賀県と三重県の知事が推進の姿勢を明らかにしていますが、大戸川ダム事業における両県の負担金は僅かです。大戸川ダムの本体工事費1000億円余りのうち、三割にあたる324億円を大阪・京都・滋賀県が負担することになっており、186億円余を負担する大阪府の拠出が最も多く、次が128億円余を負担する京都府です。
 京都府でも方針転換を図る準備が進められているようで、熊本県の川辺川ダム計画と同様、国交省がめざしてきた大戸川ダムの凍結解除が一層現実的になりつつあります。

 しかし、大戸川の流域面積193㎢に対して、淀川本流の枚方の流域面積は7281㎢もあります。大戸川は瀬田川に合流し、天ヶ瀬ダムから下流では宇治川と名前を変え、やがて桂川、木津川と合わせて淀川となります。淀川本川まで流下するまでの間に、数多くの支川が流入しますので、大戸川ダムの洪水ピークカット効果は下流の大阪府を流れる淀川では減衰します。治水効果はわずかなものです。

【参考ページ】 大戸川ダム等の中止を妥当と結論づけた淀川水系流域委員会(2005年)の委員長を務めた今本博健京都大学名誉教授による講演要旨
 http://www.nature.or.jp/h_koza/ShiminDaigaku_2010/Imamoto_KinenKoen/ImamotoLec-4.htm
 いまこそ抜本的転換を ―これからの河川行政― (4)  大戸川ダムをめぐる攻防

◆2021年1月20日 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20210120/k00/00m/040/248000c
ー大戸川ダム建設を大阪知事が容認 治水効果を評価 事業凍結の解除へ加速もー

  国が建設を凍結した淀川水系の大戸川(だいどがわ)ダム(大津市、総貯水容量約2200万立方メートル)について、大阪府の吉村洋文知事は20日の記者会見で、建設を容認する考えを示した。府は治水効果の検証が必要だとして建設に慎重だったが、専門家会議で効果を認める答申がまとまる見通しになり方針転換した。

 大戸川ダムを巡っては2008年、大阪と滋賀、京都、三重の4府県知事が建設の凍結を求める共同見解を発表。国は09年に事業凍結を決定した。滋賀と三重両県は既に建設容認に転じており、建設費の負担割合が最も大きい大阪府が容認を決定すれば、凍結の解除に向けた動きが加速する可能性がある。

 府の河川整備審議会の専門部会は20日、府内で過去最大の水量が淀川に流れ込んだ1972年の台風20号と同じクラスの水害が発生した場合の被害想定を公表した。大阪市東淀川区や旭区の堤防決壊で約4800ヘクタールが浸水し、計約9兆円の経済被害や最大240人の死者が出る恐れがあると分析。治水専用の大戸川ダム建設で被害の回避が見込めるとして、「十分な治水効果がある」と評価する答申案を作成した。

 吉村知事はこうした動きを踏まえ、「一定の治水効果がある。(建設容認を)前向きに検討していく」と述べた。審議会は20年度中に吉村知事に答申する見通しで、府はこの内容を踏まえて方針を最終決定する。

 大戸川ダムの総事業費は約1080億円。国が7割、残り3割を大阪、京都、滋賀の3府県の財源で賄い、うち6割弱を大阪が負担することになっている。

 一方、京都府も20年12月、滋賀県の方針転換を踏まえて有識者会議を設置。西脇隆俊知事は「近年の気象状況も踏まえて検討したい」と述べており、建設容認に含みを持たせている。【上野宏人、石川将来、小田中大】

★大阪府の吉村知事が大戸川ダムに言及した定例会見(1月20日)に関する報道より、関連個所抜粋
 https://news.yahoo.co.jp/articles/55814a93695092c07e25978d3e21afd43020af4f?page=3

大戸川ダムに関して国への働き掛けは?

読売新聞:読売新聞の太田です。先ほどの質問にありました、大戸川ダムに関してなんですけれども、知事のほうから効果が認められるなら、で、前向きに検討というお話をされましたけれども、過去には凍結を求めて国が凍結した経緯もあるんですけれども、今後の他府県との連携であったりとか、国への働き掛けに関しては、何かお考えになっていることはありますか。

吉村:他府県でもそれぞれ分析をするというふうに思いますので、それはもう他府県に任せたいというふうに思います。大阪として、結局、大阪にメリットがあんのっていうところが一番大切で、大阪にメリットがないんであれば、これはわれわれとしても、大阪府民の皆さんの税金ですから、そう簡単に使うわけにはいきません。大切な税金です。そうなると使わないということにはなります。

 前回、嘉田知事のときも慎重な判断ということにはなりましたが、ただやっぱり一定、治水効果は認めているので、その前にやることがあるでしょうというのが基本的な考え方、府の考え方だと思っています。その前にやるべきことの、いわゆる大阪府で最も必要だと、大阪府の下流域のなんば線の高架化というのが実現しましたんで、これからちょっと時間掛かるんですけどね、それやるのは。実現しましたので、じゃあ上流域の大戸川ダムを、仮にそこで整備したらどのぐらい効果があるんですか、整備しなかったらどうなるんですかっていうのを想定したときに、やっぱり専門家の意見は聞くと。

専門家の意見を参考に判断したい
 今回、専門家の意見として、200年に一度の大雨が降り、そして33パターンのうちの2パターンに該当すれば、9兆円の被害が大阪府内で生じると。それを、大戸川ダムを建設することで、いわゆる防ぐことができるということであれば、やはりここは大戸川ダムについて前向きにも考えていかなければならない。それは府民の財産を守るという観点からも、前回、橋下知事のときに、いったんは凍結したわけですけれども、その後の経過、先ほど申し上げた事実経過から考えると、状況の変化というのは出ていますから、考えると、1つこれから前向きに検討するというのも必要なんじゃないかというふうに思っています。

 京都のほうも、桂川はよく氾濫をしますので、京都においては課題があると思いますし、そこはちょっと一体で判断していくということにはなろうかとは思います。まず大阪府として、メリットあんのということを、専門家の意見を聞いて、府民の命、財産を守るのが仕事ですから、そういった意味では専門家の意見を、判断の参考にしながら、僕自身も判断をしていきたいというふうに思います。

読売新聞:大阪府として判断されたあとに、今後としては例えば政府のほうへなんらかの働き掛けを行っていくとか、そういう感じになる?

吉村:今後どうするかはたぶんその先で、河川改修計画をどうするかとかっていうことをたぶん国で決めていかれるので、ちょっと具体な計画が進むのは少し先になるんじゃないかというふうには思います。今度はこの河川改修計画について、大阪府の判断はどうやねんというような意見を求められることになると思うので、そのときに判断するということになると思います。

 今の現状では専門家の意見も聞いて、大阪府にとって、府民にとってプラスになるのかどうか、そこを中心にして判断していきたいと思いますし、やっぱり橋下知事のときに判断されたっていうのは、当然行政は連続しているわけですし、僕も非常にそれを尊重しますので、それを尊重した上で、その後なんば線なんかも非常に改修の方向性決まりましたので、そういった意味では府民にプラスがあるんであれば考えていかなきゃいけないのかなというふうには思っています。

◆2021年1月21日 NHK関西
https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20210121/2000040228.html
ー大阪知事 大戸川ダム容認で検討ー

 建設計画が凍結されている大津市の大戸川ダムについて、大阪府の吉村知事は、府の専門家会議が、下流の淀川で十分な治水効果があるとする答申案を取りまとめたことを踏まえ、建設を容認する方向で検討する考えを示しました。

 大戸川ダムは、大津市の南部を流れる淀川水系の大戸川の中流域に国が建設を計画しましたが、平成20年に滋賀、大阪、京都、三重の4府県の知事が、「河川の整備計画での優先順位は低い」と異議を唱え、計画が凍結されています。

 こうした中、滋賀県の三日月知事はおととし、「治水の効果があり必要だ」として、県の方針を転換し、早期の建設を求める考えを示しました。
 また、大阪でも、府の専門家会議が治水効果を検証した結果、200年に1度の大雨が降った場合、府内でおよそ9兆円に上る被害などが発生するおそれがある一方、ダムを建設すればこうした被害を防ぐことができるとして、「府域で十分な治水効果がある」とする答申案をまとめました。

 これについて、大阪府の吉村知事は21日、記者団に対し、「府民の命と生活を守る効果があるのであれば、前向きに検討しなければならないというのが今の僕自身の考え方だ」と述べ、建設を容認する方向で検討する考えを示しました。

 大戸川ダムをめぐっては、京都府も先月、有識者会議を設置して対応を検討しています。

◆2021年1月21日 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOJB1557W0V10C21A1000000
ー大戸川ダム 大阪府が建設容認へ、京都も近く判断ー

 本体工事が凍結されている淀川水系の大戸川(だいどがわ)ダム(大津市)の建設計画について、大阪府の河川整備審議会の専門部会が治水効果を認める答申案をまとめた。これまで慎重だった吉村洋文知事も建設容認の考えを示した。建設費の地元負担割合が最も高い大阪が容認を決めれば、建設再開に向けた環境がさらに整う。判断を示していない京都府も近く判断する見通しだ。

 昨年10月に大阪府から治水効果について諮問を受けた専門部会が20日、「十分な治水効果があることが確認できた」との答申案をまとめた。吉村知事は21日、記者団の取材に専門家が治水効果を認めたとして「前向きに考えていきたい」と述べた。審議会は2020年度内にも正式答申する予定だ。

 大戸川ダムは琵琶湖から発して淀川につながる瀬田川の支流、大戸川に国が計画する治水ダム。総事業費は1080億円程度の見通しだが上振れする可能性もある。負担割合は国が7割、地元自治体負担のうち大阪府が6割弱と最も大きい。

 本体工事の凍結解除には淀川水系6府県の同意が必要となるが、5府県が容認の方向となった。滋賀県の三日月大造知事は21日、大阪府が容認に転じることについて「大戸川ダムが河川整備計画に(再び)位置づけられる一歩になる」と評価した。

 京都府は「残るは京都だけなので、急ぎつつもやるべき検討はしっかりしていく」(建設交通部)としている。現在、有識者らによる技術検討委員会で京都の治水に与える影響を検討中で、1月末にも委員会を開いたうえ年度内には府知事への提言をまとめる方針だ。京都も建設容認となれば、地元での同意ができたとして、国は淀川水系の河川整備計画を見直したうえ、各府県に原案を提示する。

◆2021年1月22日 京都新聞
https://this.kiji.is/725123326029774848?c=39546741839462401
ー「大きな一歩」と滋賀県知事は歓迎 大阪府知事の大戸川ダム建設容認発言にー

 滋賀県の三日月大造知事は21日、大阪府の吉村洋文知事の大戸川ダム建設容認発言を受け、「国と上流下流中流の府県で(建設へ)合意できるとするなら、私どもにとっても大変大きな一歩」と述べた。

 三日月知事は「大阪府域での治水効果という意味で(吉村知事が)ダムの意味を理解されるなら、上流と下流の協力関係が進む前提になる」と歓迎。京都府については「府県それぞれの治水リスクや課題がある。科学的、客観的に(府が)判断する、その推移を見守っていく」とした。

 京都府は有識者による「技術検討会」を昨年12月に設置し、大戸川ダムを含めた淀川水系の今後の方向性を検証している。本年度末までに同検討会の提言を受け、府としての方針を決定する見通し。

 これまで西脇隆俊知事は「上下流とのバランスを取り、河川整備を進めていくことが課題」とし、ダム建設の是非については言及していない。