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凍結中の淀川水系・大戸川ダム建設、京都府の有識者会議が容認提言へ

 淀川水系に国土交通省が計画した大戸川ダムは、これまで本体工事が凍結されていましたが、京都府が有識者会議の提言を採用するという形で推進に転じて、凍結が解除される見通しです。
 大戸川ダムは2008年、事業に参画する滋賀県、大阪府、京都府、三重県の知事が中止を求めたため、本体工事が凍結されてきましたが、負担金が少ない滋賀県と三重県に続き、今月20日に大阪府の吉村知事が方針転換を表明しました。➡〈参考記事〉「大戸川ダム建設を大阪知事が容認」

 京都府の有識者会議によるゴーサインは、最後に残った京都府の方針転換への地ならしといえます。

 淀川水系では2000年代、国土交通省近畿地方整備局と同局の設置した流域委員会、滋賀県の嘉田由紀子知事をはじめとする流域府県の知事が、できるだけダムに依存しない治水対策を追求していました。この方針は先進的な「淀川方式」として注目され、八ッ場ダムなどが従来通り推進されてきた関東地方とはかなり異なる動きでした。しかし、近畿地方整備局が国土交通省本省の意向で大きく方針を後退させ、嘉田知事も退陣し、関東地方と同様、淀川流域でもダム事業を推進する政官財の利権構造が力を取り戻しています。

 有識者会議の資料は、京都府のホームページに公開されています。

★京都府 淀川水系の河川整備に関する技術検討会 
 http://www.pref.kyoto.jp/dam/yodogawa_gijyutukennoukai.html

第3回会議
 日時:令和3年1月28日(木曜日)午前10時00分から12時00分
 議事:・淀川水系の河川整備に関する技術検討会提言案について

 京都府が大戸川ダムを必要とする理由は、桂川における大戸川ダムの治水効果です。掲載資料には、桂川における大戸川ダムの治水効果が示されていますが、この資料について水問題研究家の嶋津暉之さんは次のようにコメントしています。

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 京都府の資料の中で、大戸川ダムの治水効果を示しているのは資料1「第1,2回技術検討会の補足説明について」の3~4ページの桂川の図のようです。しかし、この図では大戸川ダムの効果がはっきり読み取れないように思います。
 大戸川ダムの建設予定地がある大戸川は、瀬田川の支流です。瀬田川は宇治川と名前を変え、京都府と大阪府の境で、桂川、木津川と合流して淀川になります。
 京都府を流れる桂川の治水安全度が大戸川ダムによって高まるという話はかなりの無理筋ではないかと思います。大戸川ダム推進という結論が先にありきの有識者会議であったように思われます。
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 関連記事を転載します。

◆2021年1月28日 京都新聞
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/486471
ー凍結の大戸川ダム、近年の豪雨受け「必要性がより明確化」 京都府検討会、建設へ前向きな提言案ー

 国が事業を凍結している大戸川ダム(大津市)について、有識者でつくる京都府の技術検討会が28日、ウェブ方式の会合で「本体工事に着手するための調査、設計に取り掛かる時期にきている」と前向きな提言案をまとめた。府はこの内容を受け、建設の是非を判断する見通し。

 提言案では、府内に全国初の特別警報が発令され、桂川などが氾濫した2013年の台風18号被害を踏まえ「その必要性がより明確化したと評価できる」と指摘。気候変動の影響によって台風18号と同等以上の雨が降る可能性を考慮し、「大戸川ダムの整備に着手することの緊急性も高まっている」と結論付けた。

 大戸川ダムを巡っては2008年に当時の京都、滋賀、大阪、三重の関係4府県知事が「優先順位が低い」と当面の建設中止を求める意見をまとめ、国が09年に事業凍結を決定した。

 しかし、滋賀県の三日月大造知事が19年、一転して建設推進を表明。今月21日には大阪府の吉村洋文知事が建設を容認する意向を明らかにしており、京都府の判断が注目されている。

 同ダムの総事業費は1080億円で、7割を国、3割を3府県が負担する。滋賀県の8億円に対し、より治水効果がある下流の京都府は128億円、大阪府は186億円に上る見込み。

◆2021年1月28日 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20210128/k00/00m/040/235000c
ー大戸川ダム建設容認提言へ 京都府有識者会議 豪雨想定し「緊急性高まった」ー

  国が建設を凍結した淀川水系・大戸川(だいどがわ)ダム(大津市、総貯水容量約2200万立方メートル)について、京都府の有識者会議(委員長=中北英一・京都大防災研究所教授)は28日、着工を容認する提言案を取りまとめた。近く府に提出する予定で、府が容認する公算が大きくなった。

 大阪、京都、滋賀、三重の4府県知事が2008年、建設凍結を求める共同見解を発表したが、滋賀県の三日月大造知事が19年に建設を容認する方針に転換。三重県も容認に転じ、大阪府の吉村洋文知事も今月20日に建設容認の意向を示しており、これですべての流域自治体が容認する見通しとなった。

 滋賀の方針転換を受け、京都府は近年の気象状況の変化を踏まえて検討するため、20年12月に有識者会議を発足させた。府内の淀川水系流域に戦後最大の豪雨をもたらした13年の台風18号のデータを用い、この時の水量を安全に下流へ流せることを最低限の条件として河川整備の在り方を探った。提言案は「(下流の京都府宇治市にある)天ケ瀬ダムの洪水調整機能を強化するため、大戸川ダムの必要性が明確になった」と指摘。気象変動の影響で台風18号と同等以上の豪雨が発生する確率も高まっているとして、「緊急性も高まった」と結論付けた。

 西脇隆俊知事は28日、記者団に「提言の内容を踏まえて京都府の考え方を検討していく」と述べた。

 大阪府河川整備審議会は近く、府内に治水効果があると吉村知事に答申する。国土交通省近畿地方整備局は今後、兵庫、奈良を含めた淀川流域6府県による会議を開く方針。大戸川ダムを含む河川整備計画案について大阪、京都以外の4県は容認しており、大阪、京都も容認すれば、住民への意見聴取などダム建設凍結の解除に向けた手続きが動き出すことになる。【大川泰弘、上野宏人】

◆2021年1月28日 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOJB285240Y1A120C2000000
ー大戸川ダム「建設が必要」 京都府の有識者委が提言案ー

 本体工事が凍結されている淀川水系の大戸川(だいどがわ)ダム(大津市)の建設計画について、京都府の有識者検討委員会は28日、建設が必要とする提言案をまとめた。工事の凍結解除には淀川水系6府県の同意が必要で、京都以外の5府県が容認の方針を示している。来週をめどに提言を受け取る京都府の西脇隆俊知事は同日、「提言を踏まえ、府として対応を検討していく」とのコメントを発表した。

提言案は、大きな被害をもたらした2013年の台風18号と同等以上の雨が降った場合などを想定。気候変動を考慮し「大戸川ダムの整備に着手することの緊急性は高まっている」「大戸川ダムの本体工事に着手するための調査、設計にとりかかる時期にきている」とした。委員会では提言案への反対意見はなかったという。

大戸川ダムは琵琶湖から発して淀川につながる瀬田川の支流、大戸川に国が計画する治水ダム。08年に滋賀、大阪、京都、三重の4府県が異議を唱え計画が凍結されたが、19年に滋賀県の三日月大造知事が建設を容認する考えを示したことで状況が一転した。大阪府も建設を容認する方向を示した。

◆2021年1月28日 読売テレビ
https://news.yahoo.co.jp/articles/8596c2dae06a5f86537323ea9ed5f9112f101c38
ー豪雨災害の頻発に「建設が必要」と提言 滋賀県の大戸川ダムについて京都府の専門家会議ー

 建設計画が凍結されている滋賀県の大戸川ダムについて、京都府の専門家会議が28日、「洪水被害を防ぐために建設が必要」とする提言をまとめた。流域の滋賀と大阪はすでに容認に転じていて、計画が再び動き出す可能性が浮上している。
 京都府で開かれたのは、河川の治水にくわしい専門家が集まった会議。専門家からは、大戸川ダムの整備に着手する「緊急性が高まっている」などの声があがった。凍結判断が出ていたダムが一転、容認に動き出した背景には何があるのか。

 大津市にある「大戸川ダム」。桂川や宇治川など淀川水系の治水対策のため、国が事業費1080億円で建設を計画した。しかし、13年前、費用の一部を負担する滋賀・京都・大阪の当時の知事らが「河川の改修が先で、ダムの優先順位は低い」として反対した。

滋賀県の嘉田由紀子知事(当時)「地域が責任をもって、川とのかかわりを生み出していかなければならない時代」

大阪府の橋下徹知事(当時)「効果がちゃんとわかるお金の使い方でないと、100万円でも50万円でも出さない」

 しかし、おととし、滋賀県の三日月知事が方針を一転させる。

三日月大造知事「地元の皆様の安心・安全のための治水安全度を上げるためには、大戸川ダムが必要になります」

 全国各地で、これまでにない豪雨災害が頻発していることを受け、早期の建設を求める考えを表明した。

 大阪府の吉村知事も先週、建設を前向きに検討していることを明らかにした。

吉村洋文知事「(大阪では)9兆円規模の被害と240人の死者が出る可能性があるが、大戸川ダムは防ぐ効果があるということが専門家の意見として出たので、大阪府にとってプラスの効果だと思う」

 大阪・滋賀と、大戸川ダムの下流に位置する府県が次々と容認する方向に転じる中、残る京都府の対応が注目されている。

京都府の担当者「桂川の治水安全度は依然として低い水準にとどまっている」「(京都を流れる)桂川の改修を切れ目なく実施するためにも、大戸川ダムの着手するための調査、設計にとりかかる時期にきている」

 会議では、2013年の台風18号と同じ規模の洪水が起きた場合、桂川が流れる京都府だけで約3兆円の被害が出るとの指摘があがり、専門家たちはダムを建設すべきと結論付けた。

京都府の西脇隆俊知事「府民の生命・財産を守る観点が一番重要だと痛感しているので、技術検討会(専門家会議)の提言を尊重する立場にある」

 「提言を踏まえて、さらに検討を深める」とした西脇知事。容認に転じれば、ダムの建設に向けて大きく前進することになる。