八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

八ッ場ダム貯水池湖畔の川原湯温泉駅周辺の観測体制についての公開質問書

 八ッ場ダム貯水池周辺は複雑な地層からなり、地盤が脆弱です。ダムの操作による貯水位の変動により、地盤が不安定化しやすいことから、国土交通省はダム湖周辺の各所において地すべり対策と代替地の安全対策を実施しました。また、貯水池周辺に観測機器を設置し、地盤の変動を監視する体制をとっています。

 しかし、国土交通省より観測体制についての資料を入手し、分析を行ったところ、JR川原湯温泉駅が移転したダム湖畔の上湯原地区には、観測機器が設置されていないことが明らかになりました。上湯原地区にはJR駅のほか、地域振興施設「川原湯温泉あそびの基地NOA」や住宅もあり、安全性の確保が最も求められる地域の一つです。
 このため本日、この問題について以下の公開質問書を八ッ場ダムを管理する国土交通省関東地方整備局に提出しました。

 2021年1月27日
 国土交通省関東地方整備局 局長 土井弘次 様

               八ッ場あしたの会     
                技術顧問団 伊藤谷生(千葉大学名誉教授)                                    

 八ッ場ダム貯水池の湖畔にある川原湯温泉駅周辺で
       地盤変動の観測がされていない問題についての公開質問書

 私たちは八ッ場ダム周辺の地すべりの危険性について十数年前から調査を続けてきているものです。
 八ッ場ダムの貯水池運用が2020年4月から始まりました。貯水池の周辺は地質が脆弱であるところが多いため、ダム貯水池周辺の代替地と貯水池斜面には数多くの観測機器が設置されています。
 別紙1(下の画像をクリックすると開きます)は国土交通省の資料で八ッ場ダム貯水池周辺の観測機器の設置箇所を示す図です。1枚目が貯水池斜面の観測体制、2枚目が代替地地区の観測体制を示しています。観測機器は地下水位計、孔内傾斜計、変位杭、垂直伸縮計、地盤伸縮計、パイプ歪計です。

別紙1 八ッ場ダム貯水池周辺の観測機器の設置箇所のサムネイル

 この観測体制図を見ると、ダム完成前から地すべりの危険性や代替地としての安定度が心配されていた川原湯温泉駅周辺の上湯原地区は観測機器が全く設置されていません。別紙1の1枚目、2枚目を見ても、観測機器の設置がありません。
 なぜ、この上湯原地区に地盤変動関係の観測機器が設置されていないのでしょうか。この問題について公開質問書を提出しますので、文書で具体的に真摯に回答されるよう、お願いいたします。

質問事項

1 川原湯温泉駅周辺の上湯原地区には地盤変動と地下水位を観測する機器は何も設置されていません。上湯原地区に観測機器が設置されていない理由を明らかにしてください。

2 川原湯温泉駅周辺の上湯原地区に観測機器がなく、地盤変動が全く観測されていないということは、八ッ場ダム湖の貯水位の急激な変化があっても上湯原地区は地盤変動が起きることはないと国土交通省が判断していることを意味するのでしょうか。このことについて国土交通省の見解を明らかにしてください。

3 2の質問の続きですが、上湯原地区では地盤変動が起きることがないと、国土交通省が判断しているならば、その判断の根拠となる資料を明らかにしてください。

4 上湯原地区の地質は決して良好ではありません。別紙2(右写真)は上湯原地区の地質を示す写真で、金鶏山から崩落した崖錐堆積物が厚く堆積しています。このように地質が良好ではないところに地盤変動の観測機器を設置しない理由を明らかにしてください。

別紙3 H26八ッ場ダム貯水池周辺地盤性状検討報告書の抜粋のサムネイル5 上湯原地区は上述の崖錐堆積物だけではなく、応桑岩屑流堆積物も厚く堆積しており、地質は良好なものではありません。
 別紙3は国土交通省の「H26八ッ場ダム貯水池周辺地盤性状検討業務報告書」の一部です。これは、上湯原地区をJR吾妻線補強盛別紙3り土で貯水池側と金鶏山側に分けて、貯水池側を宅地ではなく、河川管理用地として扱うようにしたことを示すものです。これにより、貯水池側の用地は宅地造成等規制法の安全基準ではなく、河川砂防技術基準を適用することになったと聞いています。その結果、水平設計震度の想定が0.25から0.15に軽減され、安全対策が不要とされました。
 その判断の是非はともかくとして、そのことは決して上湯原地区で地盤変動が起きないことを意味するものではありません。上湯原地区で地盤変動が起きないかどうかを知るための観測機器の設置は最小限必要なことではないでしょうか。このことについて国土交通省の見解を示してください。

6 地盤変動の観測が行われていない現状を地元の方が心配されているという話を聞きます。地元の方の心配に応えられるように、上湯原地区に地盤変動の観測機器を設置する考えはないのか、国土交通省の見解を明らかにしてください。

                                以上