国土交通省近畿地方整備局の大戸川ダム事業は、2008年に事業に参画する滋賀県、大阪府、京都府、三重県の知事が中止を求めたため、本体工事が凍結されました。
しかし、先に滋賀県と三重県が推進に転じ、そして今年に入って事業費の大半を負担する大阪府と京都府が一気に舵を変え、推進を鮮明に打ち出しています。
大戸川ダムは、当初は利水と治水を兼ねた多目的ダム計画でしたが、現在は治水のみを目的としています。しかし、京都府は京都府内での治水効果を示すことができず、大阪府においても治水効果は洪水流量計算の誤差範囲(ピーク流量を0.9%~3.5%低減)に過ぎません。
〈参考記事〉「大戸川ダム建設を大阪知事が容認」
この問題について、2月4日の大阪府の定例知事会見において、ジャーナリストの横田一さんが吉村知事に質問しました。
質疑応答の全文が大阪府ホームページで見られます。2000年代に大戸川ダムなど淀川水系の巨大ダム計画の見直しが進められたのは、近畿地方整備局が設置した淀川水系流域委員会が科学的な検証を行ったためでした。横田さんの質問によれば、当時、委員長を務めた今本博健京都大学名誉教授(河川工学)が大阪府の方針転換について、吉村知事あてに意見書を提出したとのことです。
大阪府ホームページ
「令和3年(2021年)2月4日 知事記者会見内容」より、「大戸川ダム関連について」を以下に抜粋します。
http://www.pref.osaka.lg.jp/koho/kaiken2/20210204.html
記者
フリーの横田一ですけども、先週も質問に出た大戸川ダムについてなんですが、京大の名誉教授の今本さんが知事宛ての意見書を2月1日付で出したんですが、お読みになったのかということが1点と、その中で特に提案しているのが、意見が異なる専門家同士の議論を聞いて決めてほしいと。橋下知事時代も同じようなことをやったということなんですが、この提案に対するお考えと、特に意見書の中で問題視しているのは、国交省の基準がいいかげんというか、十分チェックされていないんじゃないかと。府の河川整備審議会の議事録は議事要旨しかなくて、国交省の基準を検討したのかどうかよく分からないと。この国交省の基準こそダムの効果を過大に評価して、約9兆円の損失がさも出るかのようにでっち上げているというか、非現実的な想定を出しているというふうに今本氏は指摘していて、堤防の高さより4メーターも低いところを1センチでも越えたら堤防が必要だと。実際は14センチ今越えているんですけども、それよりも堤防を強化したほうがずっと安くて、早く整備、府民の命が守れると、そっちのほうが有効だというようなことを言っていて、例えて言えば、金もうけ主義のお医者さんが年数も費用もかかる大手術を勧めて、安価ですぐ効く薬を勧めないと。堤防強化を勧めないというようなものだと言っているんですが、この国交省の基準について検証するお考えがあるのか。
意見書を読んだかということと、意見の異なる専門家の議論を聞いた上で判断するのかということと、国交省の基準についてどう考えるのか、3点お伺いしたいんですが。
知事
まず、その専門家の方の意見書自体、僕のとこに、手元にも来てないし、読んでもいません。それが大阪府に届けられているんだったら、大阪府の担当は読んでいるかもしれませんが、僕自身のところに、僕自身が読んだということはありません。これは別にダムに限らず、いろんな要望というのが数多く大阪には寄せられますから、知事が一つ一つ全部見るということはまずないと。実務の中でもそうですし、9,000人の組織ですから、これは、もしかすると部局としては把握しているかもしれませんが、僕は読んでいません。
そして、まず判断としては、それは最終決定ではありませんが、専門家によっていろんな意見、立場の考え方があると思います。それは、山のように日本には専門家がいますから。その中で大阪府としては、府の方針決定をする上では、大阪府の専門家の意見、これを重視していきたい。きちんと府として選定しているわけ、選任して、そして府の専門家の会議があるわけですから、それを重視する。府の専門家も様々な専門的な立場からいろんな意見がある中で判断をされていると思うので、それを尊重していきたいというふうに思います。
今回の大戸川ダムについても、200年に1度の大雨が生じると。そのときに、33回中2回のパターンに当てはまれば9兆円の被害が東淀川区、旭区に生じると。お亡くなりの方も多数出てくるということですので、それを防ぐための効果があるという判断ですから、それを基に、大阪府としては、僕は府民の命・財産を守る責任がありますから、適切な判断をしていきたいというふうに思います。
記者
橋下知事時代は、ダムに関する意見が異なる今本教授のような脱ダム派というか、ダムに慎重な専門家と推進派の専門家の議論を聞いて是非を最終判断したんですが、そういうことはやるお考えはないんでしょうか。というのは、国交省及び国交省の意見を尊重する御用学者と言ったら言い過ぎかもしれないんですが、国交省の基準をそのままうのみにするような専門家が府の専門家に多いんじゃないかという疑念から、立場の違う意見を聞いて、意見を戦わせた上で決めるべきじゃないかと今本教授は言っているんですが、そういうことは全くなされるお考えはないんでしょうか。
知事
大阪府の専門家は御用学者でもないと思っていますし、適切に判断をいただいていると思っていますので、大阪府の専門家の意見というのを尊重した上で、最後は大阪府として判断をしていきたいと思います。世の中に専門家は、いろんな専門家が山のようにいますけど、いろんな専門家の立場で僕も政治的に、僕のことを一生懸命批判する専門家もたくさんいますけど、そこはある意味言論の自由でいいのかなと思っていますが、ダムに関して大阪府の方針決定をしていくという意味では、きちんとした、やっぱり専門の方についていただいていますし、そこの意見というのを尊重した上で判断したいと思っています。
記者
実際、大戸川ダムの堤防の高さよりも4メーター低いところを国交省はダムの必要性の基準としているんですが、そこから14センチちょっとだけオーバーするぐらいでダムが必要だと、こういうのが国交省の基準なんですが、これについても認めるというお考えなんでしょうか。税金の無駄を省くと、撲滅するという維新の副代表でもある吉村知事とは思えないような発言だと思うんですが、堤防強化でもっと安上がりで済む方法があるのに、そこにはメスを入れるお考えはないんでしょうか。
知事
僕自身の考え方というのは、当然、税金の無駄遣いは絶対しないという立場です。47都道府県で僕が一番給料を、一番カットしている立場の知事ですから、税金に対しては厳しく見ていくというのは当たり前の考え方だし、現に僕自身もやっているということです。
その中で、やはり、府民の財産・命を守るというのが非常にやっぱり僕に課せられた仕事だし、そういった意味で権力も委ねられているんだというふうにも思っています。なので、府民の財産・命というのを守るというのをまず大前提に置きながら、今回の9兆円の損害であったり、多くの、200人以上のお亡くなりになる方の数値というのを見たときに、このダムで防げるということであれば、費用対効果も考えた上で、最終的には専門家の意見を聞いた上で府としての方向性、最終決定ではありませんが、そういった観点から判断をしていきたいと思います。
ちなみに、河川改修も、橋下知事のときに河川改修も槇尾川でやりましたけども、かなりこれは大変な作業の中で完了したということもありますが、河川改修も決して簡単なものではないというのもご理解いただけたらと思います。