淀川水系の大戸川(だいどがわ)ダムは、2009年に国土交通省近畿地方整備局が建設凍結を表明しましたが、今年2月、淀川流域の知事らの了承を得て凍結が解除されることとなりました。
国土交通省は手回しよく、3月3日には大戸川ダム建設を明記した河川整備計画の変更原案を発表し、3月末を〆切としてパブリックコメント(意見募集)を実施。昨日27日には滋賀県と大阪府で住民公聴会を開催しました。
ダム行政では意見募集は「聞きおくだけ」の儀式にすぎず、ダム建設への反対意見が行政の決定に反映されることは殆どありませんが、治水の役に立たず、デメリットが大きい大戸川ダム建設に対しては、むろん反対意見が出されています。
【参考ページ】国土交通省近畿地方整備局 淀川水系河川整備計画(変更)について
〇淀川水系河川整備計画 (変更原案 )
https://www.kkr.mlit.go.jp/river/iinkaikatsudou/yodogawakasenseibi/index.html
(88~89ページに大戸川ダムの位置づけが書かれています。)
〇【パブリックコメント】意見募集期間:令和 3 年 3 月 1 日(月) ~ 令和 3 年 3 月 31 日(水)
https://www.kkr.mlit.go.jp/daido/upload/20210226_1400.pdf
(9~11ページが意見募集のページです。)
全国のダム問題に取り組む水源開発問題全国連絡会(水源連)共同代表の嶋津暉之さんが提出した意見が水源連のホームページに掲載されています。
http://suigenren.jp/news/2021/03/27/14460/
要旨は次の通りです。
① 淀川本川の治水対策として大戸川ダムは意味を持たない。
〇 大戸川ダムは淀川本川で計画洪水ピーク流量を400㎥/秒削減する効果があるとされているが、これは下流に行くほど、ダムの洪水ピーク削減効果が減衰していことを考慮しないきわめて過大な数字であり、実際は100~150㎥/秒以下であると推測される。
〇 仮に400㎥/秒の削減効果があるとしても、最大で約15㎝の水位低下である。淀川本川は現況堤防の余裕高が2.5~3m以上あり、必要な余裕高2mは十分に確保されるので、淀川本川では大戸川ダムの小さな治水効果は意味を持たない。
〇 この淀川本川対策の費用を除くと、治水対策代替案の河道掘削案や堤防嵩上げ案の事業費は大戸川の分だけとなり(それぞれ210億円、230億円)、大戸川ダム案の事業費478億円(残事業費)を大幅に下回るので、これらの代替案を選択すべきである。
② 自然にやさしくない流水型ダム(穴あきダム)
〇 大戸川ダムが建設されれば、流水型ダムの副ダムの存在が水生生物の行き来を妨げる障害物になる。さらに、洪水後の川の濁りが長期化し、魚類の成育や生態に対して少なからず影響を与えることも危惧される。
③ 流水型ダムは大洪水時には閉塞して洪水吐きが洪水調節機能を喪失
〇 流水型ダムについて強く心配されることは、大洪水時に流木や土砂などで洪水吐きが詰まって、洪水調節機能が失われてしまうことである。大戸川ダムが閉塞すれば、大戸川ダム下流の河道はダムの洪水調節を前提として計画されているから、大氾濫の危険にさらされることになる。
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関連記事を転載します。
◆2021年3月27日 NHK大津放送局
https://www3.nhk.or.jp/lnews/otsu/20210327/2060007177.html
ー大津市 大戸川ダムの建設めぐり地元住民の意見を聞く公聴会ー
長年、計画が凍結されていた大津市の大戸川ダムの建設をめぐって、地元住民の意見を聞く公聴会が27日に開かれ、ダムの整備に賛成・反対、双方の立場から意見が出されました。
公聴会は、国土交通省の近畿地方整備局が開いたもので、大津市の会場では事前に応募した6人が意見を述べました。
大戸川ダムは、平成20年に、滋賀や大阪など4府県の知事が建設に異議を唱えて計画が凍結されました。
しかし、おととし以降、各府県が容認する姿勢を示したことから、国土交通省が計画を進めるため、先月、ダムによる治水対策を公表しました。
これについて、参加した60代の男性は「大戸川は大雨が降ると水があふれ、周辺の住民は何度も被害を受けてきた。安心して暮らせるよう、ダムの整備は必要だ」と話しました。
一方、30代の女性は「ダムができても、容量を超えれば一気に大量の水が下流に流れるおそれがある。ダムの建設よりも下流域の堤防の強化こそ喫緊の課題ではないか」と話しました。
国土交通省は、今後、こうした意見などを踏まえて、整備計画の作成を進めることにしています。
◆2021年3月28日 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20210328/ddl/k25/010/195000c
ー大戸川ダム 河川整備計画 住民側から賛否の声 大津で公聴会ー
国土交通省近畿地方整備局は27日、国が建設を凍結した淀川水系・大戸川(だいどがわ)ダム(大津市)の建設を明記した河川整備計画の変更原案についての住民公聴会を滋賀県と大阪府で開いた。滋賀会場となったピアザ淡海(大津市におの浜1)では同市在住の6人が登壇し、ダム建設の賛否や、治水対策に対する考え方を述べた。
大戸川近くに住む70代男性は「浸水被害を受ける地域住民が安心して眠れるように大戸川ダムの整備を強く要望する」と主張。「気候変動は各地で水害リスクを高めており、ダムを根幹に据えた治水対策が必要だ」などの意見も上がった。
一方、別の男性は「既存のダムを有効活用することで、素早く安価に洪水調節ができる。特に変更原案では、ダムの凍結を解除する理由と既存ダムの有効活用についての説明が不十分だ。住民の意見を踏まえて議論を深めてほしい」と求めた。「事業費1080億円をかけても微少な効果しかない。ダムがあることで安心してしまい、容量を超えた場合に危険だ」との意見もあった。
近畿地整は31日までパブリックコメントを受け付けている。有識者による淀川水系流域委員会での議論を経て、最終的には流域の6府県知事の意見を確認し、計画を正式に変更する。変更後、詳細な地質調査や設計などを行うのに4年、ダム工事に着工してから完成まで更に8年ほどかかる見通しだという。【諸隈美紗稀】
◆2021年3月28日 京都新聞
https://this.kiji.is/748754001997217792?c=39546741839462401
ーダム整備案に住民賛否 淀川水系の大戸川ダム、国交省が滋賀で公聴会ー
国土交通省近畿地方整備局は27日、大戸川ダム(大津市)整備を盛り込んだ淀川水系河川整備計画の変更原案について住民から意見を聴く公聴会を、大津市のピアザ淡海で開いた。6人の公述人が意見を述べ、豪雨対策として同ダムの早期着工を求める立場と、ダムの治水効果を疑問視する立場の両論が出された。
公聴会は河川法に基づく手続きで、21人が傍聴した。公述人のうち大津市の70代男性は、大戸川流域では2013年の台風18号で橋の流出や道路崩壊などの被害が生じたとし「一刻も早く枕を高くして眠れるよう、ダム整備を強く望む」と訴えた。同市の60代男性も、気候変動が災害リスクを高めているとし「ダムを治水の根幹に据えた対策が必要」と述べた。
一方、同市の別の男性は、同ダムが下流域の洪水防止に発揮する効果は小さいとし「新たに建設するより、既存ダムの有効活用の方が早く安価に洪水調節できるのでは」と疑問を投げかけた。同市の女性は、ダムの緊急放流で犠牲が生じた18年の西日本豪雨を挙げ「異常気象の今だからこそダムは危険」と建設撤回を求めた。
公聴会は28日、京都市内でも開かれる。同整備局は13年の台風18号時の雨水を安全に流下させることを目標に、事業凍結していた大戸川ダムの整備推進などを今年2月、淀川水系河川整備計画の変更原案に盛り込んだ。