国土交通省近畿地方整備局が大戸川ダムを推進するための淀川水系河川整備計画の変更案を関係府県に通知しました。
★国交省近畿地方整備局ホームページより
https://www.kkr.mlit.go.jp/news/top/press/2021/20210428-1.html
2021年4月28日 淀川水系河川整備計画(変更案)を公表します ~関係府県知事の意見照会を開始~
関係府県知事への意見照会とありますが、淀川流域の関係府県知事すべてがすでに大戸川ダム推進に転じたことを公表していますので、意見照会は形式的な手続きにすぎません。
大戸川ダムは2005年に国交省近畿地方整備局によって凍結され、その後、利水目的を削除して治水(洪水調節)のみを目的とした計画として2007年に同局によって再提示されました。当時、近畿地方においても水需要の減少が年々顕著となり、都市用水の供給を目的とした利水事業が不要であることが明らかになっていたからです。しかし、大戸川ダムは治水効果も希薄であることから、当時の関係府県知事は反対声明を発表(2008年)。翌2009年、大戸川ダムの本体工事は再び凍結されました。16年間凍結されてきた大戸川ダムが動き出すことになります。
熊本県の川辺川ダム、そしてこの大戸川ダムと、一旦は中止とされながら、国交省が中止手続きを取らず、府県知事が国交省の言いなりになった時点で復活するダム計画が相次いでいます。
★国土交通省近畿地方整備局ホームページ
淀川水系河川整備計画(変更案)72ページより
関連記事を転載します。
◆2021年4月30日 京都新聞
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/555883
ー大戸川ダム、環境影響調査後に工事 国が計画最終案提示ー
国土交通省近畿地方整備局は28日、淀川水系河川整備計画の変更案をまとめた。事業を凍結していた大戸川ダム(大津市)は、環境影響を回避・低減する調査を行った上で本体工事を実施するとした。京都や滋賀など関係6府県の知事に対し、変更案に意見を申し述べるよう同日付で通知した。
同局は今年2月に整備計画の変更原案を作成し、住民や学識経験者から意見を募っていた。今回の変更案は、寄せられた意見を踏まえて修正を加えた最終案にあたる。
変更原案に対しては、大戸川ダムの整備に賛成する意見が26件、否定的な意見が19件寄せられていた。「治水対策への反対はなかった」(同局)として、変更案では環境に配慮した整備を進めるとし、既存ダムの洪水調整機能強化や堤防強化などの記載を充実させることで、ダム整備以外の対策を求める意見に配慮したという。
ダムだけに頼らず、地域全体で治水対策を向上させる「流域治水」の推進や、「淀川流域治水協議会」を通し、企業や住民を交えて防災・減災対策を議論していくことも盛り込んだ。
同局は「各知事の意見を踏まえ、できるだけ早期に計画を決定したい」としている。
◆2021年4月18日 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF121600S1A410C2000000/?unlock=1
ー滋賀・大戸川ダム建設凍結解除へ 治水効果の検証課題ー
建設計画が2度にわたって凍結された大戸川(だいどがわ)ダム(大津市)が再び凍結解除に向けて動き出した。相次ぐ豪雨災害を受け、地元の滋賀県など大戸川を含む淀川水系の流域6府県すべてが容認に回った。下流の大阪や京都での氾濫を防ぐ役割も期待されるが、事業を進めるには治水効果の十分な検証が欠かせない。
「大戸川ダムの整備を行う」。国が示した112ページに及ぶ「淀川水系河川整備計画(変更原案)」には2009年の整備計画にはなかった文言とともに、大戸川ダムの概要などを記した図が加えられた。河川整備計画に総事業費1080億円にのぼるダム建設を明記する変更手続きが進む。
淀川水系は瀬田・宇治川、木津川、桂川の3本の大きな支流が京都府内で一度に合流し、大阪湾に注ぐ。国が多目的ダムとして大戸川ダムの建設を計画したのは1968年だが、2005年に水需要の減少で計画がストップした。07年に治水専用ダムに転換する原案が出された後、全国的に公共事業に対する厳しい見方が強まった。08年に大阪、京都、滋賀、三重の4府県知事が建設反対で合意すると、翌年にダム本体工事の2度目の凍結が決まった。
今回の凍結解除への転換点は滋賀県が18年に立ち上げた「今後の大戸川治水に関する勉強会」だ。三日月大造知事は「水害の頻発に加え、県議会から(ダム着工を求める)決議もあり、次の段階の対策を考えるべき時期だった」と振り返る。勉強会は想定を上回る豪雨に対して大戸川流域の被害軽減や琵琶湖の水位上昇の抑制に、ダムは有効と結論づけた。
三日月知事は民主党の衆院議員だった際、「コンクリートから人へ」と訴えた同党政権の国土交通副大臣として全国のダム事業の検証に関わった。「すべてのコンクリートがダメなのではなく、ダム事業を中止にする基準と手続きをつくることが使命だった。検証して必要なら進めるべきだ」と説明する。
近畿地方整備局は20年7月、大戸川ダムの治水効果の試算を示した。13年の台風18号と同等の豪雨があった場合、大戸川ダムがあれば大阪府枚方市の地点で淀川の水位を20センチ低下させる効果があり、洪水のリスクが下がると試算。一方で淀川が大阪市内で決壊すれば9兆円、京都市内なら3兆円の被害が見込まれるとした。これを受けて大阪府や京都府が建設容認に転じた。
ただ異論も根強い。かつての淀川河川事務所長で、国の第三者機関の淀川水系流域委員長も務めた宮本博司氏は「大戸川ダムの治水効果は限定的だ」と指摘する。「整備局は計画高水位を1センチでも超えると危険というが、大阪市内でも堤防の上端までまだ3.2メートルの余裕がある。1080億円かけたダムで20センチの水位を下げることにどれだけ意味があるのか」。堤防には上端まで浸水対策が施してあり、堤防は容易には決壊しないという意見だ。
近畿整備局が3月末に予定した6府県での公聴会のうち、通常通り開かれたのは滋賀のみ。大阪と京都は新型コロナウイルスのためオンラインで開催。他の3県では公述人の応募がなく開かれなかった。コロナ禍が議論の制約となるなか、河川整備計画の変更に向けて着々と手続きが進む。
近年水害が相次ぎ、濁流がまちをのみ込む光景は大きな衝撃を与える。ただ多大な税金をつぎ込む公共事業を進める以上、慎重な議論が求められる。科学的な根拠を誰にでも分かるようにかみ砕いて、幅広く議論する姿勢まで押し流されてはいけない。(大津支局長 木下修臣)