大戸川ダム建設再開へ 河川氾濫で経済損失9兆円の根拠は?

 首都圏では水需要の減少にもかかわらず、いまだに水源開発事業が進められていますが(八ッ場ダム、南摩ダム、霞ヶ浦導水)、全国の他の地域では、ダム建設の目的はもっぱら「洪水調節」となっています。淀川水系で一旦は中止とされながら復活した大戸川ダムもそうです。
 ダムは100年、200年に一度の大洪水に備えてつくられますが、ダムによる治水には限界があります。ダムには治水容量がありますが、線状降水帯の停滞などでこの容量を超える大雨が短時間に降ると、洪水調節を行えなくなります。
 以下の記事にも書かれているように、大戸川ダム推進のきっかけは、国交省による被害のシミュレーションです。しかし、「死者は、最大240人」、「経済的な損失はおよそ9兆円にも及ぶ」というこの想定は、ダム起業者の国交省が作成したもので、客観的、科学的な検証を行えば、想定が過大であることは明らかです。
 記事では、国交省近畿地方整備局のダム見直し(淀川方式)を主導した宮本博司さんの「淀川に関して、大戸川ダムの効果は全くありません。」という見解を紹介しています。宮本さんは国交省の担当者として、大戸川ダム中止方針に関わりましたが、国交省の方針転換によって本省防災課長を最後に辞職しています。

◆2021年7月6日 読売テレビ
https://news.yahoo.co.jp/articles/bec4b7ca93c46019928861841d4195056c326f55?
ー【特集】大戸川ダム建設再開へ 河川氾濫で経済損失9兆円 必要?ムダ?各地で見直されるダム建設ー

 毎年のように日本列島を襲う豪雨災害。例年より早く梅雨入りした今年、豪雨災害がおきるリスクが懸念されています。近年、激甚化する災害から身を守るため、今再び注目されているのが無駄な公共事業といわれてきた「ダム」。さかのぼること13年前、滋賀県大津市に建設が予定されていた大戸川(だいどがわ)ダムの必要性をめぐり、流域の大阪府、京都府、滋賀県の知事らが共同で、効果が限定的として建設反対を表明し、ダム建設は凍結されました。しかし、近年の度重なる河川氾濫により、再び動き出した計画。必要か、それとも“ムダ”な公共事業か。「ダム」をめぐる議論の行方を取材しました。

一度は凍結した大戸川ダム計画 「効果が限定的」
 滋賀県大津市にある「大戸川ダム」の建設予定地。1978年、洪水を防ぐことを主な目的として琵琶湖から近いこの場所に国が計画した治水ダムです。大戸川は淀川水系の一つで、琵琶湖の南端から流れ出る瀬田川に合流し、京都府南部を流れる宇治川の天ケ瀬ダムへと続いています。大戸川ダムをつくることで、天ケ瀬ダムの水量の調節がより安定して行えるとされましたが、計画から30年後、事態は一変。流域の知事らが建設の凍結を求めたのです。

「地域が責任を持って川とのかかわりを生み出していかなければならない時代」(嘉田由紀子滋賀県知事 2008年当時)

「効果がちゃんとわかるお金の使い方でないと100万円でも50万円でも一切ださない」(橋下徹 大阪府知事 2008年当時)

凍結から一転 流域知事らがダム建設容認
 当時は旧民主党政権。様々な分野での「事業仕分け」が行われる中で、「コンクリートから人へ」のスローガンのもと、大型公共事業は相次いで中止され、大戸川ダムも建設が凍結されました。ところが、滋賀県の嘉田由紀子知事の後を継いだ三日月大造知事がおととし、豪雨災害の激甚化などを背景に「地元住民の安心安全のための治水安全度を上げるためには滋賀県に大戸川ダムは必要」と訴え、建設容認に転じます。そして、今年に入り、大阪府や京都府の知事もこれまでの慎重姿勢を一転させました。

「200年に一度の大雨が降り、9兆円の被害が大阪府内で生じる。大戸川ダムを建設することで、それを防ぐことができるのであれば、前向きにも考えていかなければならない」(吉村洋文 大阪府知事)

「治水事業のひとつとして大戸川ダムを議論の俎上に載せてもよいと考えている。」(西脇隆俊 京都府知事)

淀川氾濫で経済損失9兆円 大戸川ダムで被害軽減
国が大阪府に示したシミュレーション結果

 大阪府都市整備部河川室の冨井浩一河川整備課長によると、いったんは凍結されたダム建設が再開へと動き始めた背景には、国が示したシミュレーション結果があるといいます。それは、過去最大規模の水量が淀川に流れ込んだ場合、流域にある大阪市の東淀川区と旭区で堤防が決壊し、およそ4800ヘクタールが浸水。死者は、最大240人に、経済的な損失はおよそ9兆円にも及ぶというものでした。

「ダムがある場合にはこの被害想定がなくなる。着手されるのであれば早期の完成を目指して進めてもらいたい」(冨井浩一 河川整備課長)

全国各地で進むダム建設再開の動き
 一度中止されたダムの建設を見直す動きは他の地方でも見られます。去年7月の豪雨で一級河川の球磨川(くまがわ)が氾濫し、街が濁流に飲み込まれるなど甚大な被害が出た熊本県。かつて、球磨川の支流の川辺川(かわべがわ)でもダムの建設が検討されていましたが、2009年に中止。しかし、去年の豪雨災害をへて一転、熊本県は建設容認に転じました。熊本県球磨川流域復興局の有働人志政策監は、

「想像もできないような洪水であったために、みなさんの危機意識も非常に高まっている。ダムに対する考え方も少し変化してきた。」(有働人志政策監)

反対派「堤防強化が優先」 賛成派「下流全域に効果」
 国土交通省の官僚をへて、ダムの必要性を議論する「淀川水系流域委員会」の委員長を務めた宮本博司さんは、大戸川ダムの建設凍結が決まったころ、橋下知事らに“脱ダム”を主張していました。大戸川ダム無しで、最も危険な洪水が起きた時、淀川の水位は、安全といわれる計画高水位から約20センチ上昇するといわれています。わずか20センチの水位超過を防ぐために、果たして大戸川ダム建設が必要なのか、宮本さんは今もなお、その効果を疑問視しています。

「こと淀川に関して、大戸川ダムの効果は全くありません。ダムというのは決まった計画の洪水に対して一番有効な操作をして水位を下げるもの。最近は“未曽有の洪水でした”“想定外の洪水でした”と言っている。想定外の洪水が多いから、ダムはやめて他の対策をしましょうという方向に行くべきなんです。」(宮本博司さん)

 宮本さんが、ダムよりも堤防の強化や川底の土砂を取り除く工事を優先すべきだと強調します。一方で、大戸川ダムは有効と主張するのは、京都府が設置した大戸川ダムの治水効果を検討するグループの委員、京都大学防災研究所の角哲也教授です。

「ダムの場合は上流で水を貯めますので、下流の川、全川にわたってその効果が及びます。ところが堤防を高くしても、その場所に限られ、他が高くなるわけではありません。川を掘ると言っても、川底を掘ると洪水は下流に流れていくので、下流が危なくなる。両方必要だが、ダムが水を受け止めるということは、下流全域に効果が及ぶということで非常に有効な方法だと考えられる」(角哲也教授)

 建設予定地周辺の住民の意見は、ダム賛成派が大勢を占めています。

「4、5年前に台風18号で水に浸かったところもあるし、やっぱりダムなしで水をコントロールするのは難しいんとちがうかな。」(賛成派 住民)

「安心できるものがひとつでも増えるのはいいこと。」(賛成派・住民)

 自治会によると、付近の住民は全員、賛成しているとのこと。角哲也教授は、「近年の豪雨災害も影響し、気候変動を考えると大戸川ダムの必要性は高まっている」と指摘します。

ダム以前に重要なのは“一人一人の危機意識と備え”
 大戸川ダムのおよそ30キロ下流を起点とする宇治川(京都府宇治市)は、かつて幾度となく氾濫し、浸水被害をもたらしてきました。1953年には6万4000戸近くが浸水、死者は100人以上に。しかし、1964年、上流に天ヶ瀬ダムが完成して以降は堤防が決壊するなどの被害は出ていません。宇治川の近くに住む、辻昌美さん(85歳)は、自治会の一員として、長年、水害に向き合ってきました。辻さんが住む槙島東地区(京都府宇治市)では天ケ瀬ダムの放流量が毎秒1100トンを超えると高齢者など避難に時間がかかる人は避難を開始すると決めています。1200トンを超えると、住民全員が避難。また、避難する時には、全員無事な家庭は黄色の旗を、手助けが必要な家庭は赤の旗を家の外に掲げて救助を求めるなど、一目で避難行動を確認できる独自の取り組みも行っています。槙島東地区防災対策会議の会長を務める辻さんは、昨年、京都府と共同で、タイムラインで水害時の避難行動を示した一覧表を作成しました。

「大きな雨は自分のところには来ないと思っている人が多いと思いますが、やっぱり一番大事なのは災害が起こった時にどういう身の処し方をするかを、日頃から考えておくことが大切。」(辻昌美さん)

 無駄な公共事業とされたダムを活用する方向へと舵を切り始めた行政。しかし、あす起こるかもしれない想定外の豪雨で最も求められているのは、一人一人の意識と備えだ。

(読売テレビ かんさい情報ネットten.2021年6月1日放送分)