熊本県の蒲島郁夫知事は、昨年7月の球磨川水害で被災した仮設住宅入居者との意見交換会を始めたと報道されています。
球磨川の治水対策を担う国土交通省九州地方整備局は、球磨川水害後、凍結していた球磨川支流・川辺川のダム計画を復活させましたが、具体的な治水対策は進んでおらず、復興も道半ばです。
地元紙の記事によれば、知事と被災者との意見交換会の目的は、川辺川ダムを柱とする国の治水対策への住民の理解を深めてもらうことにあるそうですが、完成まで少なくとも10年はかかるダム建設は、生活再建を果たそうとする住民の求めている情報ではないはずです。
球磨川流域の市民団体(「清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民の会」)は、水害犠牲者の調査を行い、死者のほとんどは、川辺川合流点下流で球磨川に合流する支川の氾濫によるもので、当時、仮に川辺川ダムがあっても命を守ることはできなかったことを明らかにしています。たとえ川辺川ダムが洪水被害軽減に役立つとしても、これからダムが完成するまで10年間、球磨川流域は危険な状態のままということになります。
国土交通省は川辺川ダム建設以外の治水対策として、球磨川流域に遊水地をつくる計画を立てていますが、今年1月の第3回球磨川流域治水協議会説明資料(九州地方整備局、熊本県)の「球磨川水系緊急治水対策プロジェクト(案)」を見ると、球磨川流域で計画する遊水池の治水容量は合計約600万㎥にすぎません。国土交通省が計画している流水型の川辺川ダムの容量はまだ決まっていませんが、国交省の資料によれば1億㎥以上です。遊水地の規模はかなり小さなものです。
流域の市民団体からは、支流の対策、引き堤、瀬戸石ダムの撤去、森林整備など、具体的な提言が数多く行われていますが、国と熊本県の治水対策には住民の意見が反映されていないようです。
◆2021年7月26日 熊本日日新聞
https://nordot.app/792202698665328640
ー選定の遊水地、平時の農地活用は困難 国交省が住民に説明 熊本県人吉市ー
昨年7月の熊本豪雨で氾濫した球磨川の治水を巡り、国土交通省は25日、人吉市内に選定した「遊水地」の整備候補地2カ所の全域を、平常時に農地として活用するのは難しいとの認識を明らかにした。同日、市内で開いた住民説明会で報告した。
遊水地は、川からあふれた水を一時的にためる治水策。農地にも使える「地役権補償方式」と地盤を掘り下げる「掘り込み方式」の2案がある。人吉市内の整備候補地は中神地区と大柿地区。
国交省は5月、人吉市内外の整備候補地4カ所を小型無人機ドローンで測量。人吉市の2カ所の地盤の高さと、球磨川の水が安全に流れる最高水位が同程度のため、水をためるのは難しいことが分かったという。
今後は掘り込み方式を軸に検討。ボーリングによる地質調査で地盤掘削が可能かどうか調べ、掘削する場合の深さ、面積などを算出する。土地売却の可否や農業継続などに関する市の意向調査を踏まえ、9~10月の住民説明会で具体案を提示する。
住民説明会には計109人が参加。住民からは、「遊水地が決定事項のようになっている」「治水策の詳細をできるだけ早く示してほしい」といった意見が出た。人吉市外2カ所の測量結果は、今後開く住民説明会で報告する。(小山智史)
https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/kumanichi/region/kumanichi-dr328999?fm=twitter
ー豪雨被災の仮設入居者ら不安訴え 芦北町、津奈木町で蒲島知事と意見交換会ー
熊本県の蒲島郁夫知事は25日、昨年7月豪雨で被災した県南地域の仮設住宅入居者との意見交換会を芦北町と津奈木町を皮切りに始めた。出席者からは「治水対策の具体像が見えず、いつ自宅に戻れるのか分からない」などと不安の声が上がった。
国や県が3月に策定した、川辺川への流水型ダム建設を柱とする球磨川水系の「流域治水プロジェクト」への理解を深めてもらうとともに、復旧復興に向けた課題を把握する狙い。初日は芦北町女島と、津奈木町小津奈木の仮設団地内にある集会施設「みんなの家」でそれぞれ開き、被災者計17人が出席した。
自宅が全壊したという芦北町告の菊井和敏さん(73)は「宅地かさ上げの対象地区だが、具体的なことが分からず不安だ」と訴えた。「公共工事のため自宅に戻れない間に、仮設住宅の入居期限が切れたらどうなるのか」との疑問や、「被災した地元神社の再建も支援してほしい」との要望も寄せられた。
蒲島知事は「公共工事が終わらないまま仮設住宅を退去してもらうことはない。大事な情報はより分かりやすく、繰り返し発信していく」と述べた。
意見交換会は8月1日に球磨村で予定。八代市や人吉市などでも随時開く。(内田裕之)