国土交通省は昨年7月の熊本豪雨で氾濫した球磨川の治水対策を改めて進めるとして、球磨川水系河川整備基本方針を変更することになりました。
変更案を審議するために9月6日に開かれた、国土交通省審議会の資料が同省のホームページに掲載されましたので、お知らせします。
◆国土交通省ホームページより 水管理国土保全局≫ 審議会等≫
第114回 河川整備基本方針検討小委員会 配付資料一覧
国土交通省が審議会で提示した変更案は、洪水時に球磨川に流れる想定最大流量(基本高水)について、治水基準点とされる中流部の人吉(人吉市)で現行の毎秒7千トンを8200トンに、下流の横石(八代市)では毎秒9900トンを1万1500トンに引き上げるものです。
しかし、以下のスライドで国交省が説明しているように、昨年7月豪雨では、人吉より下流の区間の大部分では、変更案で想定されている流量(目標流量)より多くの水が流れたとされます。つまり、今回の変更案で示された川辺川のダム建設をはじめとする、すべての対策事業を完了したとしても、昨年と同規模の豪雨が球磨川を襲えば、氾濫の危険があるということです。国が管理する一級河川の整備基本方針において、実際の洪水規模を下回る目標設定は前例がないということです。
国交省は、今後はハード整備だけに頼らず、流域全体でソフト対策も含めた多様な策を講じる「流域治水」を進めるとしていますが、地元紙の熊本日日新聞は9月2日の社説において、「1年前の惨事の記憶が残る流域住民は、ハード整備だけでは同規模の豪雨に対応できないと説明されても困惑するだけではないだろうか。」と疑問を投げかけています。
今回の河川整備基本方針の変更は、川辺川のダム計画推進を主眼にしているとみられます。新たな方針案では人吉の基本高水流量を8200㎥/秒に引き上げる一方、河床の掘削等で対応しなければならない計画高水流量は変更せずに4000㎥/秒のままだからです。昨年の豪雨を踏まえれば、球磨川とその支川の河道掘削と堤防嵩上げに総力を注入しなければならないはずです。
昨年7月の球磨川豪雨における50名の犠牲は、線状降水帯の長時間の停滞によって球磨川中下流の支川の流域に凄まじい集中豪雨があったことによるものでした。遺族からの聞き取り調査を行った流域住民や専門家は、当時、川辺川ダムが仮にあったとしても、犠牲者の命を救うことはできなかったとしています。
球磨川流域の未来に多大な影響を及ぼす変更案ですが、ここに至るまでの議論は、流域住民を排除した場で進められてきました。住民の理解、協力が欠かせない「流域治水」を進めるならなおさら、公開の場で双方向の議論、問題点の洗い出しをしたうえで住民の納得する結論に至る必要がありますが、ダム利権の温床となってきた河川行政は、依然として住民不在の姿勢を変えようとしません。
関連記事はこちらのページにまとめています。
➡「球磨川治水方針案 住民が納得できる説明を」
熊本の市民団体が連名で提出した抗議文を転載します。
http://kawabegawa.jp/ogt/20210914kihonnhousinnsakuteikougi.pdf
2021年9月14日
国土交通大臣 赤羽一嘉様
熊本県知事 蒲島郁夫様
清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民の会 共同代表 岐部明廣 緒方俊一郎
7・4 球磨川流域豪雨被災者・賛同者の会 共同代表 鳥飼香代子 市花保
美しい球磨川を守る市民の会 代表 出水 晃
子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会 代表 中島 康
球磨川の河川整備基本方針策定に関する抗議文
国土交通省の社会資本整備審議会河川分科会河川整備基本方針検討小委員会(第 114 回)が 9 月6 日に開かれ、球磨川水系の治水の長期目標である河川整備基本方針の見直しの検討は、わずか 2回の会合で終了しました。同省のホームページによる同委員会開催の記者発表が 9 月 2 日、web 上での傍聴申し込み期限が 9 月 3 日 12 時という、傍聴など不可能なスケジュールでした。住民は一部の報道を通してしか小委員会での審議を知ることができない、住民不在の状況です。
私たちは 8 月 29 日に「球磨川水系河川整備基本方針見直しに関する意見書」を、同委員会の小池俊雄委員長ほか 12 名(熊本県知事を含む)と、国土交通大臣あてに簡易書留で郵送しました。意見書では、球磨川の河川整備基本方針見直しに、住民の意見を反映させる場を設けることや、住民の意見を説明する場を設けることを要請しましたが、どのように取り扱われたかも全く分からない状況です。
河川整備の基本方針を検討するのならば、まず昨年 7 月の豪雨災害の被災者をはじめ、その河川の流域で生活している人の意見を聞き、災害の原因を追究すべきです。その手続きをせずに、極論すれば実際の災害や球磨川さえ見たこともない人たちが、国交省の準備する結論をなぞるだけの議論をしても、それは帳面消しにすぎません。
報道によると、人吉の基本高水流量は毎秒 8200 ㎥に引き上げるが、計画高水流量は毎秒 4000 ㎥のままとのことです。国土交通省がまとめた流域治水プロジェクトでは、人吉地区で 70 万㎥、流域で合計 300 万㎥もの河道掘削を行うとしているのに、河道流下能力の目標である毎秒 4000 ㎥が変わらないというのは、非常におかしなことです。
これまで国土交通省は、「計画高水位」を1㎝でも超えれば破堤するとして、ダムの費用対効果などを算出してきました。ところが同省が示した球磨川の新たな基本方針は、ダムなどの整備を進めても、昨年7月豪雨と同規模の雨が降れば多くの区間で安全に流せる「計画高水位」以下に収まらない想定です。ダムと連続堤防にたよる従来の基本方針の在り方は、昨年 7 月の豪雨災害では破綻しています。今後は、どんな規模の洪水が来ても対処できる治水の考え方に転換すべきであり、今回の見直しはその絶好の機会だったはずです。
蒲島知事は「最大限の中身が示された」と発言していますが、本来知事の提唱する流域治水とは「流域のあらゆる関係者が協働し、防災減災が主流の社会を目指す」ものです。ところが、昨年 10月からの球磨川流域治水協議会から今回の小委員会までのメンバーに、流域の住民は全く含まれていません。また、豪雨被災者や住民の意見も一切聞いていません。流域治水とは、流域住民のためになされるものであるはずです。住民不在の流域治水は、まやかしとしか言いようがありません。
住民不在の球磨川の河川整備基本方針の見直しの検討に強く抗議するとともに、住民参加のもと、河川整備基本方針を再度見直すことを強く要請します。
以上