「球磨川治水方針案 住民が納得できる説明を」(熊本日日新聞社説)

 昨年7月の熊本豪雨で50名の犠牲者が出た球磨川では、国交省が支流の川辺川のダム建設を蘇らせる治水方針の変更案を提示しています。
 しかし、この変更案では、球磨川の下流部で昨夏と同様の豪雨が再来した場合、氾濫を防げないことから、流域では大きな波紋が広がっているということです。

 国交省の変更案に関する資料と市民団体の抗議文は、こちらのページに掲載しています。
 ➡「川辺川のダム建設めざす、球磨川治水方針の変更案(9/6国交省審議会資料)」

 変更案の問題点を指摘した地元紙の記事を紹介します。

2021年9月2日 熊本日日新聞 社説
https://kumanichi.com/articles/392475
ー球磨川治水方針案 住民が納得できる説明をー

 昨年7月の豪雨で氾濫し甚大な被害が出た球磨川水系について、国土交通省が河川整備の新たな基本方針案を示した。

 流水型ダムや遊水地などの洪水調節施設を新たに整備しても、昨年7月と同規模の雨が降れば多くの区間で安全の目安となる水位を超える-。こうした検証結果を基に、今後はハード整備だけに頼らず、流域全体でソフト対策も含めた多様な策を講じる「流域治水」を進めるとしている。

 だが、1年前の惨事の記憶が残る流域住民は、ハード整備だけでは同規模の豪雨に対応できないと説明されても困惑するだけではないだろうか。一層の水位低下や被害の最小化を実現するためにどんな対策を講じ、そのためにはどれぐらいの時間が必要なのか。住民の疑問や不安をしっかり受け止め、納得できる説明をするべきだ。

 現在の河川整備基本方針は、国交省が2007年に策定した。1953~2005年の降雨データを基に、人吉地点に80年に1度、八代市・横石地点に100年に1度の大雨が降ると想定。それぞれの12時間雨量と最大流量を計算した上で、上流にダムなどを整備することで両地点の流量を安全の目安となる水位以下に抑える、というものだった。

 これに対し、見直し案では、近年の気候変動の影響によって「雨量が約1・1倍になる」とする全国一律の判断に従って12時間雨量と最大流量を再計算した。その結果、12時間雨量は人吉、横石の両地点とも昨年7月豪雨の実績値を下回り、最大流量も、横石地点では昨年7月の推計値を下回ることになった。

 昨年の豪雨の規模が過去の大雨と比べて突出して大きかったため、将来に備えて算出した値の方が低くなったという。国交省は昨年の被害を踏まえて方針の見直しを急いだはずだが、ここまでの説明では、昨年と同規模の大雨にどう対処するのかすら明確に示されていない。

 ただ、蒲島郁夫知事はこの見直し案を受け入れる考えを表明した。理由の一つとして、流域住民が早期の計画策定を求めている点を挙げている。

 流域住民に、被災した自宅周辺が安全になるかどうかを早く見極めたいという思いがあるのは確かだ。とはいえ、再び水害に遭う恐れが残ったままでは、見直し案を受け入れようがあるまい。

 国交省が取り組むとした流域治水には、水田に水をためる「田んぼダム」や遊水地の整備、住宅の高台への集団移転などがある。こうした対策を実施するためにも、住民の理解と協力は不可欠だ。前提となる住民の合意形成のプロセスをおろそかにしてはならない。

 住民の賛否が分かれている流水型ダム建設を既定路線とし、専門家だけで議論するやり方も、住民の納得が得られるか疑問だ。方針を決めた後に報告するのではなく、住民の意見を先に聞き、反映させたり理解を得たりする場を設けるべきではないか。
 

◆2021年9月13日 熊本日日新聞
https://nordot.app/809898007313629184?c=62479058578587648
ー球磨川治水 想定最大流量に波紋広がる 国交省「洪水時、安全に流せぬ区間も」ー

 球磨川流域に昨年7月豪雨と同等の雨が降れば、全ての対策を講じても安全に水を流せない区間が生じる-。熊本県の球磨川水系の治水対策を検討中の国土交通省は、全国の1級水系でも過去に例がない河川整備基本方針案を示した。従来の国交省の姿勢とは一線を画す案に、関係者の間に波紋が広がった。

 「ウソだと思った。大雨をもたらす気候変動の影響が生じている以上、いつかは、とは思っていたが、こんなに早いとは」

 今月6日、東京・霞が関。河川整備基本方針案を検討する小委員会の小池俊雄委員長は、会合終了後、国交省が示した案に対する驚きを隠さなかった。

 新たな基本方針案は気候変動を加味。洪水時に球磨川に流れる想定最大流量について、人吉(人吉市)で現行の毎秒7千トンを8200トンに、下流の横石(八代市)では毎秒9900トンを1万1500トンに引き上げる。

 支流の川辺川で検討中の流水型ダムや遊水地といった洪水調節施設を整備すれば、7月豪雨と同規模の洪水でも堤防は越えない。しかし、人吉より下流の大部分では安全に水を流せる目安となる「計画高水位」は超えてしまい、堤防や護岸が危険な状態になる恐れがある。

 国交省河川計画課は「過去のパターンを考慮して設定した雨の降り方に比べ、7月豪雨は降り方に偏りがあり、球磨川中・下流域の雨量が大きく上回ったためだ」と説明する。県幹部は「国交省はダムなどの洪水調節施設によって安全に水を流す目標の設定を“金科玉条”としてきたが、今回、大きく転換した」と受け止める。

 小委員会メンバーでもある蒲島郁夫知事は6日の会合後、報道陣に囲まれた。洪水時に安全に流せない方針案を受け入れるのかとの質問に「昨年の豪雨に対応する計画にしないのかという疑問は出てくると思うが、委員会が最大限に努力した結論だ」と答えた。

 蒲島知事は7月豪雨を「500年に1度」の異例な事態にたとえ、「千人にテストを作る時、500年に1人の天才のために作れば誰も答えられない。それより、999人の平均に合わせないといけない」。地元知事として方針案に理解を示した。

 洪水時に安全に流せない区間が生じる危険性に対し、国交省と県は「被害の最小化を図る」との考えで一致する。リスク情報の提示や避難体制づくりなどのソフト対策を強化し、地元住民を巻き込んだ「流域治水」を推進すると強調する。

 しかし、長期的な治水対策の目標が過去の実績に届かない現実は横たわる。「実際に起きた洪水に対応できない目標では住民は安心できない。異常気象が続く中、もっとひどい豪雨の発生も念頭に置くべきではないか」。球磨川流域を地盤とする県議の一人は疑問を口にした。(嶋田昇平、内田裕之、潮崎知博)