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石木ダム「本体着工」のニュース

 さる9月8日、石木ダム予定地では、長崎県が本体工事現場周辺で工事を始め、報道各社による「石木ダム本体着工」のニュースが流れました。
 ニュースの後も、13世帯50人の住民は、これまで通りダム予定地で暮らしながら、県道の付け替え工事への抗議の座り込みを続けています。
 わが国のダム事業は、国土交通省が「公共」の目的にかなうと判定すれば、「公共性」に問題があり、住民が反対していても、住民の土地や家屋の所有権を奪う「強制収用」が可能です。13世帯の住民の土地や家屋も、すでに法的には所有権が住民から国に移されていますが、実力行使で住民を追い出す「行政代執行」が13世帯という規模の住民に対して行われたケースは、過去にないとのことです。
 次の知事選まであと半年となった長崎県の中村知事が世論の反発必至の行政代執行を強行するかどうかが注目されます。

 関連記事を以下にまとめました。 
 なお、記事にも書かれているように、今回の報道の「本体着工」は地元住民に「茶番劇」と見透かされているようです。八ッ場ダムと石木ダムの「本体着工」の違いについて、以下のページで取り上げました。➡「八ッ場ダムでは”本体準備工事”と呼ばれた石木ダムの”本体工事”」
 

◆2021年9月8日 NHK長崎放送局
https://www3.nhk.or.jp/lnews/nagasaki/20210908/5030012688.html
ー住民が抗議活動続ける中 県が石木ダムの本体工事 着工ー

 川棚町で建設が進られている石木ダムについて、建設に反対する地元住民らが座り込みなどの抗議活動を続ける中、長崎県は8日、本体工事に着工しました。
 長崎県は8日午前10時ごろ、川棚町で建設を進めている石木ダムの本体工事に着工し、現場では、重機を使って山の斜面を掘削する作業の様子が確認できました。
 長崎県は9日以降も、引き続き本体工事を進めたいとしています。

 一方、建設に反対する地元住民らは、8日も座り込みなどの抗議活動を続けました。
 住民の岩永正さんは「これまで県が話し合いを持つ姿勢を示していたのは、次に何かやるためだと思っていた。諦めは絶対になく、徹底抗戦したい。工事を止めるためには、現場に座り込みに行くしかない」と話していました。
 また、抗議活動を続ける松口秀之さんは「県は話し合いをすると口では言っているのに、実際はこうして工事を進めている。ただ、工事がどういう進捗なのか県の真意がまだ分からない」と話していました。

 石木ダムをめぐって、長崎県は、中村知事と建設に反対する地元住民との直接の話し合いを模索していたことから、すでに必要な測量などは終えていたものの、昨年度予定していた本体工事への着工をこれまで見送ってきました。
 一方、住民側が求める工事の即時中断などの条件は受け入れられないとして、期間として設定していた先月末までに話し合いは実現しませんでした。 
 長崎県は、すでに建設に必要なすべての用地の収用を終え、家屋の撤去などを伴う行政代執行の手続きにも入れるようになっています。
 地元住民らが反発する中、今後は、目標としてきた4年後・令和7年度の完成に向けて、長崎県が行政代執行に踏み切るかどうかが焦点になります。

◆2021年9月8日 長崎新聞
https://nordot.app/808502961457790976?c=174761113988793844
ー石木ダム本体工事着手 長崎県 反対住民との交渉難航ー

 長崎県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設事業で、県は8日、ダム本体工事に着手した。当初は2月中旬に着工予定だったが、水没予定地に暮らす反対住民13世帯と中村法道知事の対話実現のための「配慮」として半年間見合わせていた。1975年の事業採択から46年で大きな節目を迎えた。
 これまでは、反対住民の抵抗を受け、水没する県道の付け替え工事にとどまっており、本体工事の最初となる掘削の工期を2度延長し、9月末までとしていた。県河川課は、順調に進めば工期内完了も可能として「安全に配慮しながら進捗(しんちょく)を図りたい」としている。
 掘削を始めたのは、ダム堤体両端の上部斜面。昨年12月に本体工事としては初の入札を実施し、測量など準備を終えていた。8日は午前10時ごろ、上流から見て左岸を重機で掘り始め、右岸の木を伐採した。住民らが座り込みを続ける付け替え道路工事現場付近でも伐採をした。
 今回の工事費は2020年度県予算の繰り越し分。県は21年度予算に左岸の下部斜面を掘削する工事費を盛り込んでいる。
 県と住民の対話に向けた交渉は5月以降、文書で条件整理を続けたが、工事中断の在り方を巡って難航した。県は期限を8月末とし「9月以降は着実に事業を進める」と通告。住民側は「県に対話の意思はない」とみなし、中村知事は8月31日の定例会見で「これ以上さまざまな工事の延期は難しい」と述べていた。
 県と佐世保市は土地収用法に基づいて全用地を取得し、19年11月に明け渡し期限を迎えたが、反対住民は応じていない。知事権限で家屋を撤去する行政代執行も可能な状況になっている。
 石木ダムは、川棚町の治水と同市の利水が目的。同市水道局の谷本薫治局長は「早期完成を願う立場としては、進展につながるのではないかと思っている」と期待を寄せた。一方、反対住民の岩下和雄さん(74)は「いかにもダム建設が進んでいると見せるためのパフォーマンス。私たちが同意しない限りダムはできない」と反発した。

https://nordot.app/808500122857357312?c=62479058578587648
ー石木ダム本体工事着手 混迷 一層深まる恐れもー

 長崎県が石木ダムの本体工事に着手したことで、事業は新たな局面に入った。地元住民や支援者の反対運動が活発化し、一層混迷を深める恐れがある。
 県が昨年暮れから模索を続けてきた住民との対話は、先月末に事実上とん挫した。対話当日に限り工事を中断したい県と、即時中断をして対話に臨みたい住民側の思惑は最後まで相いれなかった。
 県と佐世保市には「いったん工事を止めると再開させてもらえない」との懸念があったのは事実だが、結果、一昨年9月の対話以降何の進展もなく、本体工事に着手することになった。
 住民側には、県がこのまま行政代執行に踏み切り家屋などを強制撤去するのかという不安が高まっている。これに対し中村法道知事は先月末の定例会見で「判断を要する状況になれば」と含みを持たせた。当面撤去せずとも工事を進められるのであれば、代執行までまだ時間があるとも取れるが、いずれは突き当たる問題だ。
 その時、知事や佐世保市長が政治的リスクを取り、世論の反発必至で強制撤去するのか。それとも既に土地を明け渡した人や推進派の抗議を承知で事業を断念するのか。ただ、それまで行政と住民が消耗戦を続けても何も生み出さないどころか、対立が一層泥沼化している可能性もある。
 確かに司法判断は事業の必要性を一定認めている。だが最近は水需要を巡り新型コロナという「変数」も加わり、状況が変わった側面もある。県と佐世保市は事業の権限を持つ側として、いま一度住民と真摯(しんし)に向き合う懐の深さを示すことができないか。

◆2021年9月9日 長崎新聞
https://nordot.app/808506477440532480?c=174761113988793844
ー「実績づくりの茶番劇」 石木ダム本体工事着手 反対住民、冷ややかー

 石木ダムは8日、事業採択から46年を経て本体工事に至ったが、長崎県東彼川棚町の現場近くで抗議の座り込みを続ける反対住民は「県の実績づくりのための茶番劇」と冷ややかに受け止めた。事業主体の県は、住民と中村法道知事との対話に向けた調整を打ち切り“強硬路線”を鮮明に。「追い詰めるつもりか」と不安を口にする住民もいるが、徹底抗戦の構えは崩していない。
 同日午前10時すぎ。いつものように本体建設予定地近くで座り込みをしていた住民らが、続々と現れる県職員や業者に気付いた。石木川を挟んだ対岸の山を重機が登り、掘削を開始。動きを察知したマスコミも集まり、カメラを向けた。住民の岩下和雄さん(74)は「あんなのは本体工事でも何でもなく『ダムはできる』と県民に錯覚させるための宣伝。いちいち付き合う必要はない」と意に介さない様子でたばこを吹かした。「県に踊らされるあんたたちもあんたたち」とマスコミへの不満も口にした。
 本体建設予定地に40年近くある通称「団結小屋」では、松本マツさん(94)が窓から重機の動きを見つめていた。「私たちが住んどってもお構いなしに進める。自分が哀れになってくるね」と悲しそうにつぶやいた。10年前にはお年寄り5、6人が連日集まったが、亡くなったり、病気を患ったりし、現在は松本さん1人が週3回通う。「この年になってどこに出て行けというのか。みんなの分まで頑張らんば」と唇を結んだ。
 午後から現場を見に来た住民の石丸勇さん(72)は「歴代知事と同じやり口。後戻りできないようにちょっとだけ手を付けて、仕上げることなく次に渡す。中村知事も自分で完成させるつもりはないのでは」と冷静に分析した。
 付け替え道路工事現場でも重機が木を倒し、土砂を削った。住民はここでも座り込みを続けており、川原千枝子さん(73)は「まるで嫌がらせ。こうやってじわじわ追い詰めて、私たちを出て行かせるつもりやろうか」とため息をついた。

◆2021年9月8日 朝日新聞
https://digital.asahi.com/articles/ASP986KSSP98TIPE017.html
ー石木ダム、長崎県が本体工事に着手 反対派住民「茶番劇だ」ー

 長崎県は8日、同県川棚町で進めている石木ダム建設事業の本体工事に着手した。現場周辺では立ち退きを拒む住民が抗議の座り込みを続けており、県は中村法道知事と住民との直接対話に向けて協議をしていたが、不調に終わったとして踏み切った。

 ダムを巡っては、水没予定地の川原(こうばる)地区の13世帯が立ち退きを拒んでいる。県は昨年度、本体工事の予算を計上したものの、着工には至っていなかった。県河川課によると、この日は左岸側の掘削工事と、右岸側の樹木伐採などの作業に手を付けた。同課は「準備が整ったため再開した。安全に配慮しながら工事を進めていく」と話した。この日、反対住民との衝突はなかったという。

 県は今年5月、事態打開のため住民側に中村知事との対話を持ちかけ、書面のやりとりによる協議が続いたこの間は周辺の関連工事のみにとどめていた。一方、住民側は対話の前提として関連工事の即時中断を主張。結局、県の設けた8月末の期限までに折り合えず、中村知事は「これ以上、本体着工を延期するのは難しい」と、9月以降に着手する考えを示していた。

 住民の石丸勇さん(72)は「誠意をもって話し合いをやる気など最初からなかったと思う。一方的に『期限が切れた』と宣伝し、本体着工するなんて茶番劇だ」と怒りをあらわにした。県が今後どんな出方をするか、警戒を強めていく構えだ。(安斎耕一、原口晋也)

◆2021年9月8日 読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/local/kyushu/news/20210908-OYTNT50069/?utm_source=dlvr.it&utm_medium=twitter
ー【独自】事業採択から46年、石木ダム本体着工…長崎県ー

 長崎県は8日、県と佐世保市が同県川棚町に建設を計画している石木ダムの本体工事に着手した。ダムは1975年に事業採択されたが、建設に反対する地元住民の抗議活動などで着工が見送られてきた。

 石木ダムは治水、利水を目的とした多目的ダム。予定地には建設に反対する13世帯約50人が暮らしている。県収用委員会は2019年5月、住民らの土地の収用を認めており、同11月までに全ての予定地が明け渡し期限を迎え、県は行政代執行による強制収用が可能となっている。

 最高裁は20年10月、反対派住民らが国に事業認定の取り消しを求めた訴訟について、住民側の上告を棄却している。県は25年度の完成を目指しているが、住民らは予定地に座り込む抗議活動を展開。県は住民側との対話に向けて調整してきたが、県が話し合いの期限として設定した8月末を過ぎ、中村法道知事が事業を進める考えを示していた。

◆2021年9月8日 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20210908/k00/00m/010/325000c
ー長崎・石木ダム本体着工 水没予定地の13世帯、座り込み継続ー

 長崎県は8日、同県川棚町に県と佐世保市が建設を計画している石木ダムの本体工事に着手した。同ダムは1975年に国が事業採択したが住民の反対が強く、水没予定地に暮らす13世帯の住民らが現地で座り込みを続けている。既に始まっている県道の付け替え工事に続き、本体工事の着手で住民と県との対立が激化するのは必至だ。今後、県が反対する住民を家屋から排除する行政代執行に踏み切るかが焦点となる。

 県は8日午前10時過ぎ、パワーショベルでダム本体予定地の掘削を開始。また、住民らが座り込みを続けている県道付け替え工事現場では、重機による雑木林の伐採も始まった。

 県と住民は中村法道知事を交えた直接対話による解決を模索してきたが平行線をたどり、県が対話期限とする8月31日までに折り合いがつかなかった。2025年度までの完成を目指す県は9月2日、13世帯に対し「今後、見合わせてきた本体工事を進めていく必要がある」と文書で通知していたが、着工の日時は明記されていなかった。

 この日も現地で座り込んだ住民たちの一人、岩下すみ子さん(72)は「話し合いを掲げながら本体着工するようでは話し合いにならない。県には住民の声を聞こうという姿勢がない」と批判。「石木ダムは必要なダムではない。私たちは中途半端な気持ちで座り込みを続けているのではない。ただここに住み続けたいだけだ」と訴えた。

 県河川課によると、今月いっぱいはダム本体の頂部に当たる山の掘削を続ける。住民に対しては「今後も話し合いの余地は残しており、窓口は閉ざしていない」としている。一方、住民側は本体着工現場近くに設置している団結小屋と、県道付け替え工事現場の2カ所の座り込みを今後も続ける方針。

 石木ダムは県と佐世保市が同市の水道用水供給と洪水対策目的に石木川に計画する多目的ダム。反対住民側は、佐世保市の人口は減少しており水需要予測が過大だと主張、治水面も河川改修で対応できるとしている。【綿貫洋】

石木ダム
 総貯水容量548万トン、総事業費285億円の多目的ダム。当初は1979年度に完成予定だったが、県は2019年、9度目の工期延長で完成予定を25年度に遅らせた。ダム計画を巡り、住民らが国の事業認定取り消しを求めた訴訟は20年10月、最高裁で住民側の敗訴が確定。県などを相手取った工事差し止め訴訟も同年3月、住民側が1審で敗訴し、福岡高裁で係争中。

◆2021年9月9日 西日本新聞
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/797983/
ー石木ダム本体着工で深まる溝 住民は建設反対貫くが… 長崎県、行政代執行も「選択肢の一つ」ー

 国の事業採択から46年。石木ダム建設に反対する住民側と、「喫緊に必要不可欠」と事業を推し進めようとする長崎県など行政側との溝は8日の本体着工で一層深まった。40年以上も平行線が続く事態の先行きは見通せないままだ。

 「契約分を工期内に完成させたい」。県河川課の担当者は、着手したダム本体の堤体両端にある上部斜面を掘削する工事を9月末までに終える意向を明言した。その後、周辺工事を進め、ダム堤体そのものの建設に本格着工する工程だ。

 ただ、堤体建設を始めるには、住民側が建設反対の象徴として築いた「団結小屋」の撤去が不可欠となる。県は土地収用法の手続きを進め、2019年に13世帯の家屋を強制収用する行政代執行が可能になっている。

 中村法道知事は団結小屋などを撤去する行政代執行を「選択肢の一つ」に挙げる。「最後の手段。他に方法がない状況において総合的に判断する」としているものの、13世帯の家屋を収用するほどの規模の代執行は前例がない。県職員の一人は「ハードルは限りなく高い」と明かす。

 一方、話し合いがないまま開始された本体工事に、住民側の不信は深まった。予定地で毎日座り込んでいる住民と支援者は8日朝、報道陣の姿で本体着工があることを知った。午前10時すぎ、重機が山肌を削り始めると、水没予定地に住む岩下和雄さん(74)は「立ち退かない住民に圧力をかけたいのだろうが、反対の意思は変わらない。本体工事に着手したという実績が欲しいだけのパフォーマンスだ」と憤った。

 県が住民側への「配慮」を理由に控えていたダム本体以外の一部工事もこの日、2カ月半ぶりに再開された。「何十年も反対運動をしてきた。死ぬまで踏ん張ってやるけんね」。岩下さんの妻すみ子さん(72)は反発を強めた。

 住民の理解を得ないまま工事を進めるのか。それとも「最後の手段」に踏み切るのか。県とともに事業を進める同県佐世保市の職員は懸念する。「地元理解を得られないまま40年以上が経過した。本体着工の重要局面でも、理解を得るという最も重要な問題が先送りされてしまった」(岩佐遼介)

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/797981/
 住民の反対運動が40年以上続く長崎県川棚町の石木ダム建設事業で、県や同県佐世保市は8日、先送りしていたダム本体の工事に着手した。国の事業採択から46年になるが、水没予定地13世帯の住民の理解は得られていない。今後は県が予定地の土地や建物を強制収用できる行政代執行に踏み切るかどうかが焦点となる。

 県は2025年度のダム完成を目指している。着工したのはダム本体の堤体両端にある上部斜面を掘削する工事。午前10時ごろから重機で作業を進めた。工期は9月末に迫っており、県河川課は「衝突を避けるため事前に告知はしなかった。9日以降も工事を進める」としている。

 本体工事は20年度に初めて予算化。県は中村法道知事と住民との対話を目指して着工を見送ってきたが、条件面で折り合わず、県が対話の期限とした8月末を過ぎていた。中村知事は8月末の定例記者会見で「反対運動が高まる可能性はあるが、安全を確保しながら進めていきたい」と本体着工の意向を示していた。 (泉修平、岩佐遼介)

【ワードボックス】石木ダム事業
長崎県と同県佐世保市が治水と市の水源確保を目的に、同県川棚町の石木川流域に計画。1975年度に国が事業採択し79年度に完成予定だったが、水没予定地の住民と支援者が反対運動を展開。県は82年、土地の強制測量に県警機動隊を動員し、座り込む住民らを排除して対立が深まった。住民らが事業認定取り消しを求めた訴訟は最高裁で住民側敗訴が確定。別の工事差し止め請求訴訟は一審で敗訴したが、福岡高裁で係争中。