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「宝の山をどう生かす 森林大国・日本 飛躍のカギは」(NHKクローズアップ現代+)

 昨夏の熊本豪雨では、球磨川流域の皆伐地から大量の土砂が流れ出し、水害被害を拡大させました。
 国土交通省は50名もの死者を出したこの水害を機に、球磨川水系最大の支流である川辺川の巨大ダム計画を復活させましたが、流域の市民団体や専門家の中には、川辺川にたとえダムが建設されていたとしても、昨年の犠牲者は救えなかったという意見があります。根本的な問題として、水害の大きな要因となった周辺の森林の荒廃が指摘されています。

 NHKクローズアップ現代プラスでは、さる9月15日に表題の番組で、球磨川流域の森林の惨状を詳しく伝えました。番組では、現地を調査した専門家らの意見も紹介しました。
 気候温暖化により、水害が激甚化する中、国土交通省はこれまでのダム等のハード対策では足りないとして、「流域治水」を新たなキーワードとする治水対策を提唱するようになりましたが、流域治水を考えるのならば、流域面積の大半を占める山林の対策が不可欠です。

 NHKのサイトに番組で伝えた内容が詳しく掲載されています。

◆2021年9月15日 NHKクローズアップ現代プラス
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4583/index.html
ー宝の山をどう生かす 森林大国・日本 飛躍のカギはー

 オリンピック・パラリンピックで使用された国立競技場や木造高層ビルなど木をふんだんに使った建造物が増えている。背景にあるのは林業再生を目指す国の政策。法を改正し補助金の仕組みを整えて林業を強力に後押しし、日本の木材自給率を20年間で、かつての約2倍、40%近くまで上昇させた。しかしその裏で問題が起きている。大規模伐採ではげ山が広がったり、山の所有者に無断で伐採する「盗伐」が発生したり。大規模伐採の一部が、土砂災害などの要因の一つになっているという指摘もされている。国土の7割を森林に覆われた日本で持続可能な林業とは?「自伐型林業」という“小さな林業”の取り組みなども例に、林業の未来を考える。

出演者
蔵治 光一郎さん (東京大学大学院 教授)
佐藤 宣子さん (九州大学大学院 教授)
井上 裕貴 (アナウンサー) 、 保里 小百合 (アナウンサー)

森林大国 日本 貴重な木が盗まれる…
盗伐が起きたのは、宮崎県の中央に位置する国富町(くにとみちょう)です。

盗伐被害にあった 髙野恭司さん
「もうめちゃくちゃですよ、切り方が」

盗伐の被害に遭った、高野恭司さんです。先祖代々受け継いできた、大切な山。ある日、辺り一面、杉の木が伐採され、持ち出されていました。

髙野恭司さん
「びっくりした。ここ見たら土がもう見えているので、『ああ、これはもう盗伐したな』と。おじいちゃん、おばあちゃんと、父と母が一緒に植えた山ですね。悔しいですね」

木を売り払い利益を得ていたのは、民間の林業事業者でした。今、全国で木が無断で伐採されるケースが後を絶ちません。

宮崎県盗伐被害者の会 海老原裕美会長
「もう完璧に諦めています。(盗伐で)山が荒廃する、山村が疲弊化していくんじゃないかと」

なぜ「皆伐(かいばつ)」が広がるのか
近年、数多くの木を一度に伐採する方法が、日本各地の山々で広がっています。生産性を上げるため、一定の範囲にある木をすべて伐採する「皆伐(主伐)」です。

皆伐が広がった背景には、これまで切ったあと捨てていた質の低い木材も国が普及を進めるバイオマスの燃料などとして売れるようになったことがあります。

鹿児島県曽於市森林組合 江口久雄課長
「バイオマス、おがくずと輸出材が単価が上がってきていますから、こちらに置いてあるC材という、傷、曲がり材、持ってくれば売れない材はありませんので。山に捨てるものがないですね」

ことし春まで九州の森林組合で働いていた男性。できるだけ多くの木を伐採すれば、よりたくさんの利益を得られる業態に変化したといいます。

元森林組合 作業員
「利益をいかに上げようかという林業になっている。『全伐(皆伐)しないとやっていけない』と、(上司から)はっきり言われました。量をたくさん出すために、速く、安く。この山がどうなろうと、関係ないわけだから」

木材需要が急増した、戦後復興期。価格は高騰し、林業は花形産業と、もてはやされました。しかし、1960年代に木材の輸入が自由化されると安い外国産の木材に押され、国産材の価格は急落。林業の衰退が進みました。

2009年、国は戦後に植林された木が成熟したとして、政策を大きく転換。

需要を高めるため、公共施設などへの木材利用を促進する法律を制定。

そして林業の生産性を上げるため、補助金の制度を整えました。例えば作業道の整備では、幅2.5メートルの道を1メートル整備するごとに、およそ2,000円。大型の林業機械の購入については、1,000万円以上補助するケースもありました。こうした国の後押しで日本の木材自給率は、この20年で倍の4割近くまで成長できたのです。

“伐採しすぎ”が災害に?
その一方で、深刻な問題が指摘され始めています。去年7月、熊本県の球磨川流域で豪雨による洪水や土砂崩れなどが起き、甚大な被害を受けました。

森林科学の第一人者、蔵治(くらじ)光一郎さんと、熊本県のアドバイザーを務める、河川工学が専門の島谷幸宏さんです。
ことしから、土砂崩れが起きた現場の調査を始めています。

東京大学大学院 蔵治光一郎さん
「昨年7月の大雨の時に、ここの山が表層崩壊を起こしまして、大量の土砂が谷筋に沿って流れ下って、その家を押しつぶした現場です」

蔵治さんが注目したのは、土砂崩れで押し潰された人家の裏山。大規模な皆伐が行われていました。

蔵治光一郎さん
「見ての通り、集落の周りがみんな皆伐地なんです。切ったら切りっぱなし、運び出しっぱなしで。本当に『皆伐=悪』みたいなことが起きちゃったところではありますね」

蔵治さんの考える、皆伐が災害につながるメカニズムです。山の斜面の木々は、豪雨でも雨水が一気に川に流れ込むのを防いでくれます。

しかし、皆伐すると水が短時間で川に流れ込むようになり、川の水量を増加させます。

さらに、皆伐したあとに残った根は5年から20年で腐り、そこに水が入り込むことで土砂崩れの原因になりやすいといいます。

蔵治さんはさらに、大型の重機を通す作業道が災害のリスクを高めると指摘します。傾斜地に幅が広い作業道を切り出すことで、山の表層にダメージを与え、斜面の崩落が起こりやすくなるというのです。

蔵治光一郎さん
「非常に乱暴なやり方、経済優先、効率優先でそうしている。ずっとずるずる崩れ続ける山になる恐れが出てくると思う」

別の調査では、球磨川流域で起きた崩落の多くが、林業と関係していることが明らかになってきました。

「すごい、思いっきり土石流になってますね。これ全部作業道ですね」

斜面の崩落が起きた639か所のうち、全体の7割に当たる440か所以上が作業道や斜面での伐採の跡地だったのです。

自伐型林業推進協会 上垣喜寛事務局長
「この辺りがひどいところですね。道から谷を沿うように、どんどん土砂が流れている。起因になっているのが、(作業)道なわけですね。本来ここに木があれば崩れなかったかもしれない現場で、どんどん崩壊が起こっている」

調査した団体は、こうした状況が九州以外でも東北や中国地方など、全国に広がっているといいます。

上垣喜寛事務局長
「裏山の状況を知らなければ、あしたあさって、自分の暮らしがどうなるのか分からない状況。改めて自治体なり、この地域で(林業による)崩壊が起こるリスクがないのかどうか検証するべき」

災害を防ぐためにも、皆伐された山に木を植える「再造林」が重要です。皆伐跡地に再造林することで、次の世代の山を育てます。

しかし、全国の皆伐面積は年々拡大の一途をたどりますが、再造林は3分の1程度しか進みません。

一番の問題は「コスト」です。再造林には、苗木の代金や下草刈りの人件費など、苗木が成長するまでに多額の費用がかかります。国から補助金が出るものの、すぐに利益には結び付かないため再造林は進まないといいます。

曽於市森林組合 富永昭文参事
「作業自体が非常に過酷な労働条件なんで、なかなか若い世代が参入できない。人が集まらないことと、仕事に対しての給与が、てんかできないというのが一番の原因だと思います」

「木材自給率40%」の裏側で
保里:今回は「いま日本の山で何が!?」、そして「森林大国・日本 飛躍のカギ」についてお伝えしていきます。

井上:森林政策が専門の、九州大学大学院教授の佐藤宣子(のりこ)さんです。佐藤さん、よろしくお願いします。今、見てきたように、ことしに入って「ウッドショック(輸入材が不足し国産材が高騰)」が起きるなど状況が変わったわけですが、実際私たちの暮らしにはどういう影響があったのでしょうか。

佐藤 宣子さん (九州大学大学院 教授)
佐藤さん:アメリカで住宅需要が増加したことが主な原因なんですが、加えて、木材や住宅がアメリカの金融緩和策の中で投機対象になっていることが極端な高騰を生み出したと考えています。住宅メーカーがこの木材不足で消費者に価格を転嫁したり、着工が遅れるなど私たちの生活にとっても木材不足というのが影響をもたらしていることが分かりました。

井上:そうした中で「再造林」されないまま皆伐が起きたり、盗伐が起きたりと、これはいったいどうして起きてしまうのでしょうか。

佐藤さん:20年くらい前の1990年台後半から長期に木材価格が下落する中で、早く伐採してお金を得て、再造林のコストを負担しない、あるいはできない状況というのが続くことによって、皆伐後の再造林の放棄というのが九州を中心に生み出されていました。さらに、それを全国的に広げるという意味でこの10年余り、国の政策で成長産業化ということで主伐、すなわち皆伐にアクセルを踏み、自給率がそのことによって40%くらいまで上がりました。しかしその需要というのが質の低い木材が売れている一方で、質の高い木材が正当に評価されないという現象が起きてしまいました。木材は本来価格の高い建材として利用して、その残りを合板や集成材、あるいはチップ、あとはバイオマスの発電用の燃料として余すことなく活用できるんですが、そういった需要と供給のミスマッチというのが起きて、そのことが盗伐や皆伐増加、効率重視の林業を進めてきたというふうに考えております。

井上:効率重視で言うと、補助金というのも1つ、誘発の要因ですよね。

佐藤さん:VTRにもありましたように、主伐そのものには補助金は出ていないんですが、それを推進するための大型機械に補助金が出るとか、その補助金を効率重視の事業体に限定するといった、そういった中で補助金というのもひとつ十分な要素になっていると思います。

保里:そして、スタジオには森林科学や防災が専門の、東京大学大学院教授・蔵治光一郎さんにもお越しいただいています。蔵治さん、よろしくお願いいたします。

蔵治さん:よろしくお願いします。

保里:災害が頻発し、また激甚化が問題となっている中で、木を切りすぎている。これが災害の一因にもなってしまっているということなんですね。

蔵治 光一郎さん (東京大学大学院 教授)
蔵治さん:豪雨災害は気候変動との関係で起きていますけれども、それに加えて、例えば球磨川流域というところは全国有数の木材産地でして、皆伐地が広がっています。それによって保水力が低下していますし、土砂流出や崩壊も数多く発生しているんです。こういうことが災害の発生につながったり、被害を拡大させたりした可能性というのは否定できないと思います。
この皆伐というのは、国土保全上は急傾斜地であるとか大面積、人家の近くの森林ではできるだけ避けたほうがいい。さらに、その皆伐で伐採した木材を集める方法は、大型の林業機械ではなくて架線で、ワイヤーで木を集めてくる方法が望ましいといわれているんですが、生産性や効率を重視するあまり、そのようなルールを満たしていない場所で皆伐が行われたり、再造林をしないというケースがこの現場では見受けられます。今後、切り株の根がだんだん腐っていきますので、今後20年ぐらいはリスクの高い状態が続くと思います。

保里:この問題、国も重視して新たな課題が生じていると認識しています。ことし6月に発表した「森林・林業基本計画」では、”短期的な効率のみを重視するのではなく、持続可能な取り組みが重要”だと示しています。

蔵治さん、林業の生産性を上げる、そのこと自体は望ましいですし、その木材の自給率も上がっていると。ただ、持続可能でない状況になってしまっているというのはなぜでしょうか。

蔵治さん:一つは木材を生産しやすい場所というのがあって、そこに木材生産が偏った結果、ある場所ではあまり生産されていなくて、特定の場所で過剰に生産されているのかなという状況があると思います。

保里:格差ですね。

蔵治さん:やはり大規模、低コストな林業というのは短期的には効率がよくて合理的に思えるんですが、やはり長期的に見ると国土保全のリスクというものがありますので、しかもそれは林業地だけではなくて下流のほうまで影響することですので、持続性という意味では考えないといけないことです。
大面積ということについては熊本県を例に取りますと、ガイドラインで一度に同時に皆伐できる面積というのは10ヘクタールまでと決められているんです。例えばオーストリアでは2ヘクタールで、それ以上の皆伐は禁止されているんです。

日本の場合、森林は個人とか法人の財産になっていることが多くて、どのぐらいの伐採をするかというのは個人の権利であるという制度になっているものですから、それに対して規制をかけるというのは財産権に対する制限だということになってしまうので、非常に規制をかけるのは難しい状況にあるということです。

井上:こうした大規模な林業の課題が明らかになる中、山にできるだけ負担をかけない「小さな林業」が注目されています。

宝の山をどう生かす 持続可能な林業で付加価値を

鳥取県智頭町(ちづちょう)です。この町で林業を営む、大谷訓大(くにひろ)さん。11年前、故郷にUターンしてきました。

取り組んでいるのは、「自伐型林業(小さな林業)」です。作業道は大規模な林業とは異なり、小型の重機がやっと通れる幅。

傾斜が急な所では土留め(どどめ)を施すなど、丁寧な作業を行うことで崩れにくい道に仕上げています。

大谷訓大さん
「急角度になれば雨は勢いよく流れるので、崩れる原因になるので道は極力緩く、急な勾配の道をつけないとか、そういうとこは意識しています」

智頭町は3年前、記録的な豪雨に見舞われ、林道の8割が被害を受けました。ところが、大谷さんが仲間とつくった作業道はほとんど崩れなかったといいます。

自伐型林業のいちばんの特徴は、長い時間をかけて「間伐」を繰り返すことです。

一定区画の木をすべて伐採する皆伐と違って、間伐は木を間引いていきます。

山への負担を最小限に抑えるため、同じ場所で間伐するのはおよそ10年に1度。伐採する木は、2割以内にとどめます。

大谷訓大さん
「できるだけ100年、200年と残るような木を育てていくんですけれども」

国は生産性を上げるため、およそ50年で木を伐採することを進めています。しかし、大谷さんはさらに先を見据え、品質の高い木がそろった価値の高い山をつくろうとしているのです。

大谷訓大さん
「利益の先取りをしない。利益を小出しにしていくというんですかね。今植えてある木は、50年前の人とか、100年前の人が植えてくれて、僕たちがそれで収入を得ているので、僕たちがもらった恩を次の世代にちゃんと送るというのが自分たちの責任だと思います」

大谷さんは、間伐材の販売や木材の加工などとともに農業も手がけ、年収はおよそ400万円。家族5人が暮らしていくには、十分だといいます。

町は、大切な山の資源を守るために自伐型林業は欠かせないと考えています。

智頭町山村再生課 綱本洋主任
「小規模で小回りが利く自伐型林業は、これからの智頭の山の課題の解決の1つの手段かなと。いかに持続可能な森林を、次の世代へつないでいくという視点が欠かせないのかなと」

自伐型林業の担い手を確保する取り組みを進めているのが、高知県佐川町(さかわちょう)です。自伐型林業を学びたいという人を、経験を問わず全国から募集。「地域おこし協力隊」として、毎年5人ほど雇用しています。

埼玉出身 元服飾関係事務員
「学びながら生活ができるって考えたときに、佐川町ぐらいしか本当になかったので」

東京出身 元住宅設備メーカー社員
「毎日楽しいですし、覚えることも無限にありますし」

東京出身 元保育士
「夫が楽しそうに仕事をしていて、みんなが楽しそうに暮らせればいいという感じ」

雇用期間は3年。林業の基本技術や、安全対策の知識を伝えていきます。町は、集めた人材を地域に根づかせるための仕組みを考え出しました。

「ピンクの網掛けが、契約をすでに結んでいる所有者さんの山になっていて」

町が、山の所有者と20年間無料で山の管理を行う契約を結び、その管理業務を自伐型林業従事者に委託します。

木材の売り上げの1割を山の所有者に支払い、残りの9割を林業従事者が得ることで安定した収入を確保できるのです。

佐川町 産業振興課 下八川久夫課長補佐
「山を活用して、できるだけ多くの雇用を作りたい。雇用ができることによって、地域に定着してくれる。自伐型林業という”小さな林業”を推進している」

この制度を導入したことで、全国から林業の担い手を呼び込むことに成功しました。7年前、家族で移住してきた滝川景伍さんです。東京の出版社で、編集者として働いていました。

滝川さんは林業のかたわら、編集者時代に培った技術を生かし、地域の歴史をアルバムにまとめる仕事もしています。

いわば、半林半X(エックス)で副業を営み、地域の一員として暮らしています。

地域の住民
「もう、おんぶにだっこ。すばらしいものができた」

地域の住民
「新しい感覚を吹き込んでもらって、おかげさんで、このところにぎやか」

編集者時代にはほとんど持てなかった家族との時間を、大切にしています。

滝川景伍さん
「土日は完全に(家族と)一緒ですね。編集者時代はありえなかったので、今は子どもと一緒に遊べる時間が増えたなと。親とよく遊ぶ年代のときに、一緒にいられる時間が長いのはよかったなと」

制度がスタートして8年、全国からやってきた30人近くが新たな林業の担い手として町に根づいています。

国土の7割は森林 豊かな資源を生かすには
保里:この自伐型林業を支援する自治体は、全国で54か所に上っています。

井上:佐藤さん、効率化、大規模化の偏りをなくして、今見てきたような小規模な取り組みを広げていくにはどうしたらいいのでしょうか。

佐藤さん:契約条件についてはいろいろあると思うんですが、2つの自治体ともに、自伐型林業を地域の総合計画に位置づけて支援していることが重要なポイントだと思います。今後そういった自治体の取り組みを広げるとともに、国の林業行政の中でも山村政策として自伐型林業をきちんと位置づける必要があると考えています。

井上:海外に目を向けるとどうでしょう。どう位置づけられてますか、この小規模な取り組みは。

佐藤さん:事例として先ほど挙げられました、オーストリア。急しゅんな山岳地帯が多い所ですが、200ヘクタール以下の小規模な農家・林家を大事にしています。競争力のある林業だけでなく、そういった小さな林業が生産の約4割を担って、地域に人々が住めるといった状況を作り出しています。
さらに国連では、2019年から国連の「家族農業の10年」を制定していますが、ここでは農業だけではなく林業を含む第一次産業の小規模な家族経営を重視していまして、SDGsの核として位置づけられています。
さらに、このSDGsという点では自伐型林業者が環境に負荷を与えない「環境保全型林業」として位置づけられるということが言えると思うんですが、さらに災害が発生した場合には国土保全の守り手としてミニバックフォーや、チェーンソーも使いますので、そういった意味でも国内での自伐型林業の位置づけを高めることが重要だと考えています。

蔵治さん:やはり自治体がIターンの方と、森林所有者の方の間をマッチングをするというのが非常に重要なことで、それでIターンの人がやる場所ができるということが大事だと思います。

井上:佐藤さん、森林大国・日本、ある資源を生かしていかないともったいないですよね。

佐藤さん:そうですね。7割が森林ですし、従来私たち日本人は、木材だけでなくて山菜とか、きのこですとか食料、それからエネルギーであるまきとか炭とか、そういったものを山から得てきましたので、そういった山の恵みを大事にしながら山との関係を取り戻すということが大事だと思います。
海外の話になりますが、ドイツでは学校教育の中で小さいころから森林の持つ役割ですとか、森林管理を担うフォレスターが憧れの職業になるような、そういった教育も重視しているところです。

蔵治さん:今、脱炭素社会ということも言われていますが、木材をたくさん使う社会になっていくわけですが、やはり第一次産業として木を生産している人も考えながら、利益相反でなくて運命共同体で考えてほしいと思います。やはり森林は個人所有である一方で、地域全体の共有財産なんだという観点はとても大事だと思いますので、気象災害も踏まえながら50年後、100年後までの地域の人たちが生きていくためにどうするかということを考える必要があると思います。

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