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球磨川豪雨で被災したJR肥薩線、一年たつも復旧の議論始まらず

 昨夏の熊本豪雨で被災した肥薩線は、熊本県と鹿児島県を結ぶJR九州の路線です。その肥薩線の復旧のめどが立たない状況が続いていると報道されています。
 沿線にある人吉市の松岡市長は、肥薩線は「地元住民にとっても単なる移動手段ではなく、精神的な支えとなっている」と復旧を訴えていますが、財政状況が悪化しているJR九州の腰は重いようです。肥薩線は地域住民はもとより、多くの将来の観光客にとっても大切な資源です。このまま放置されるのはあまりに残念です。

◆2021年10月7日 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOJC08ADF0Y1A900C2000000/
ー風光明媚なJR肥薩線、復旧へ視界不良 1年超議論なくー

 2020年7月の豪雨で被災した、熊本県と鹿児島県を結ぶJR肥薩線の復旧のめどが立たない状況が続いている。1年以上不通の八代―吉松間について、JR九州は球磨川の治水計画で最大流量や堤防の高さ・位置などが十分に示されていないとして、自治体との議論の前提となる復旧費の算定に着手できていない。地元は早急な結論でバスなどへ転換するより、鉄路での復旧を粘り強く求める構えだ。

 肥薩線は並行して流れる球磨川の氾濫で、土砂流入や橋梁流出など450カ所が被災した。ゆがんだレールや倒れた信号機、水につかった駅舎などは今もそのままだ。9月中旬に現地を再訪したJR九州の青柳俊彦社長も「今回の水害のひどさ、すごさを目の前にして驚いた」と話す。

 被災前から同線の魅力を発信して利用を促してきた、沿線市町村による協議会は20年10月、鉄路での復旧を同社に要望した。協議会会長を務める熊本県人吉市の松岡隼人市長は「答えが返ってきていないので……」と、その後両者の協議がないことを明かす。

 JR九州は21年度末までに復旧費の概算を示し、自治体などとの議論に入りたい考えだ。17年7月の豪雨で被災し、20年にバス高速輸送システム(BRT)での復旧が決まった日田彦山線では、被災後4カ月には復旧費を公表した。今回、議論の前提を示せないのは、球磨川の治水計画によっては橋の設計やルート選定など「新線を引き直すほど」(青柳氏)の作業が必要になるからだ。

 「肥薩線は地域のアイデンティティー」(松岡氏)と地元が求める鉄路復旧は、採算性の判断が重要になる。山岳地帯を縫って走る風光明媚(めいび)な同線にJR九州は多くの観光列車を投入し、テコ入れしてきた。

 だが被災前の19年度の営業赤字は八代―吉松間で約9億円に達し、平均利用者は1987年度のJR発足からの32年間で8割減った。沿線人口の減少率よりも大きく、同社は鉄道離れが進む路線の一つだとみなしていた。

 同社の運輸事業も厳しさを増している。新型コロナウイルスは稼ぎ頭の駅ビルやホテルに大きな影響を与え、2021年3月期の連結決算は大幅な最終赤字になった。都市部の路線を含め稼いだ黒字で赤字路線を支える構造に黄信号がともる。

 松岡氏は「一定の時間がかかるのは、ある意味必要なこと」と述べるなど、時間をかけてでも鉄路での復旧を求める。だが、その要望通りになるか視界は不良だ。

人吉市長、肥薩線は大きな観光資源 住民の「精神的支え」
 人吉市の松岡市長は日本経済新聞のオンラインインタビューで、肥薩線は観光面と移動手段確保の両面から、鉄路での復旧が必要だと訴えた。主なやりとりは次の通り。

――1年以上不通が続き、どのような影響が出ていますか。

 「沿線住民の移動手段の一つが失われ、球磨村から人吉に来たり、人吉から八代に行ったりする、通勤や通学の動きに支障が出ている。観光面では観光列車が球磨川沿いを走り宮崎県えびの市まで抜けていたが、そういう手段で人吉に来てもらえなくなっている」

――なぜ鉄路での復旧を望むのですか。

「肥薩線の魅力は景観だ。八代―人吉間の『川線』は球磨川と山が織りなす風景、人吉―吉松間の『山線』は霧島連山を望むパノラマで、大きな観光資源となっている。地元住民にとっても単なる移動手段ではなく、精神的な支えとなっている」

――BRTやバスではだめでしょうか。

「逆にバスにする理由はどこにあるのか。公共交通として(九州縦貫自動車道経由での)高速バスが走っている。それを利用する人がいる一方で、川線・山線のニーズも大きい」

 ――鉄路での復旧は、地元に求められる支援も大きくなるのでは。

「まだそういった方向の議論は全くされていない。国には肥薩線の存在意義を十分理解していただいており、復旧に向けて全力で支援したいという声をいただいている」

――肥薩線の乗客は約30年で8割減りました。

「モータリゼーションの進展や人口減で、地方の鉄道・バスの利用率低下は著しい。そのなかでもマイカーでの移動ができない人をどうするかは、大きな課題だ。協議会としては鉄道利用や駅周辺の魅力を高める活動を(被災前から)やってきた。お願いばかりではなく我々も努力する」

(今堀祥和、石原秀樹)

▼肥薩線 八代(熊本県八代市)―隼人(鹿児島県霧島市)間の124キロメートルを結び、途中宮崎県も通る。全線開通は1909年で、当初は鹿児島本線とされた。急流や山を越える難工事で、国際記念物遺跡会議(イコモス)国内委員会は青函トンネルや東海道新幹線と並ぶ「日本の20世紀遺産20選」の一つに選んでいる。
JR九州は2004年の九州新幹線部分開業の効果を波及させる狙いもあり、肥薩線に「SL人吉」「特急いさぶろう・しんぺい」など多くの観光列車を投入してきた。

◆2021年10月11日
https://www.yomiuri.co.jp/national/20211010-OYT1T50054/
ー「生活の足」復旧願う気持ちアピール、線路の雑草取り…豪雨被災のJR肥薩線ー

 昨年7月の九州豪雨で甚大な被害を受けたJR肥薩線の不通区間で9日、地元住民らによる線路の清掃活動が行われた。今も復旧の見通しは立っていないが、住民らは背丈ほどにも伸びた雑草を取り除いた=写真、田中勝美撮影=。

 この日は熊本県八代市坂本町の住民らでつくる「坂本住民自治協議会」のメンバーら約140人が参加。不通区間にある段駅や葉木駅周辺で、線路を覆った雑草を抜いたり、刈ったりしていた。

 同協議会の上村明事務局長(69)は「肥薩線は生活の足。一日も早い復旧を願う住民の気持ちをアピールできた」と話した。