長崎県の石木ダム予定地では、ダム事業者である県が強制収用の手続きを済ませていますが、13世帯の住民が立ち退きに応じていません。住民と支援者はダムに関連する工事に抵抗するために、毎日座り込みの抗議行動を行っています。この現場で昨年11月に小学生の社会科見学を行った長崎市の教員が、社会科見学から半年以上過ぎた今年7月に訓告処分を受けました。10月、教員が処分の取り消しを求める審査請求を行ったことがニュースになっています。
ダム建設のメリットのみを学習する社会科見学は全国各地で行われています。今回の報道記事を読むと、引率した教員が小学生の感想文を現地で説明を行った住民や市民団体に提供し、その感想文が児童名を伏せて公表されたことが問題になっているように受け取れますが、ダムを礼賛する感想文が公表されて問題になったという話は聞いたことがありません。
感想文を一時掲載した市民団体のブログや、現地に通うカメラマンのSNSでは、報道とはかなり異なる情報を伝えています。
★石木川まもり隊ブログより
http://ishikigawa.jp/blog/cat21/7696/
「処分をめぐる4つの不思議」
★石木川に通い続けているカメラマンの村山嘉昭さんの連続ツイート
https://twitter.com/_murayama/status/1459845309014573061
関連記事をまとめました。
◆2021年11月9日 NHK長崎放送局
https://www3.nhk.or.jp/lnews/nagasaki/20211109/5030013234.html
ー石木ダム見学の感想文めぐり教員処分 取り消し求める審査請求ー
長崎市の小学生が社会科見学で川棚町の石木ダムの予定地を訪れ、男性教員が児童が書いた感想文を保護者からの許可を得ずに学校外に提供したなどとして、訓告処分を受けました。
男性教員は、処分の理由は事実無根だとして、長崎市に処分の取り消しを求める審査請求を行いました。
これは9日、男性教員が弁護士とともに記者会見し、明らかにしたものです。
それによりますと、男性教員は去年、当時、勤務していた長崎市立矢上小学校の6年生を引率して、社会科見学で長崎県と佐世保市が川棚町で建設を進める石木ダムの水没予定地などを訪れ、建設に反対する地元住民から話を聞くなどしました。
このあと、男性教員は児童たちに感想文を書かせて、その感想文のコピーを建設に反対する地元住民やその支援者に渡したところ、児童数人の感想文が匿名で支援者のブログに掲載されました。
男性教員について長崎市教育員会は、保護者からの許可なく、校長の確認もないまま児童の感想文を学校外に提供したなどとして、ことし7月に文書訓告の処分にしました。
一方、男性教員は「事実無根の事由を処分理由としている」などとして、処分の取り消しを求める審査請求を先月7日、長崎市の公平委員会に提出し受理されました。
男性教員からの審査請求について、長崎市教育委員会の学校教育課は、NHKの取材に対し「審査中なのでコメントは控えさせていただきたい」と話しています。
◆2021年11月9日 長崎文化放送
https://news.yahoo.co.jp/articles/c30dde9944ae884948fe308a2e6bfb521319cdad
ー石木ダム見学企画した教諭が文書訓告処分とした長崎市教委に対し処分不当の審査請求ー
長崎県と佐世保市が建設する石木ダム水没予定地への社会科見学を実施した小学校の教諭が、児童の感想文を外部に流出させたとして文書訓告処分とした長崎市教委に対し、処分を不服とする審査請求を起こしました。
長崎市公平委員会に審査請求をしたのは長崎市立小学校の50代の男性教諭です。教諭は去年11月、当時勤務していた長崎市立矢上小学校で6年生の児童82人を引率し、東彼・川棚町川原地区を訪問。地域を流れる石木川での希少生物探しや、戦争遺構の見学、ダム建設に反対する住民たちから話を聞くなどしました。その様子が報道されると、事前に見学の概要を伝えていた学校長が「聞いていなかった」と態度を変えたり、外部のブログに児童の感想文が掲載されたりしたことを理由に市教委から文書訓告処分を受けました。
教諭は「児童の個人情報は分からない加工がされており、問題ない」として処分に至る経緯の説明と処分の取り消しを求めています。
記者会見で教諭は「教育行政が教育内容にまで介入することは不当行為なので今後一切やめていただきたい」と話しました。
審査請求は先月7日に提出、20日付で受理され、今後、公開での審査が行われる見込みです。教諭側の代理人弁護士は「処分は県の公共事業を取り扱ったことによる報復的なもの」として審査請求が棄却された場合、訴訟を起こすとしています。
◆2021年11月10日 長崎新聞
https://nordot.app/830974288328048640?c=174761113988793844
ー児童の石木ダム感想文提供 長崎市教委が訓告 教諭側「無効」求め市公平委に審査請求ー
長崎市立小の50代男性教諭が、昨年勤務していた市立小の社会科見学で東彼川棚町の石木ダム建設予定地を訪れ、児童の感想文を住民に渡したことなどを理由に、市教委は今年、文書訓告とした。教諭側はこの処分を「無効」として取り消すよう、市公平委員会に審査を請求。9日会見し、請求が認められなかった場合、市を相手に訴訟も検討していることを明らかにした。
審査請求書などによると、教諭は昨年11月11日、担任のクラスを含む6年生を引率し、県と佐世保市が石木ダム建設を計画する同町川原地区を訪問。建設に反対する住民から話を聞くなどした。後日、児童の感想文を住民に提供。感想文は、住民を支援する市民グループのブログに一時掲載された。
市教委は、保護者の許諾や校長の確認がないまま学校外に感想文を提供したこと、経緯確認のための文書作成を拒否するなど校長の命令に従わなかったことを問題視。今年7月に教諭を文書訓告とした。
これに対し、教諭側は会見で、保護者の許諾がないまま感想文を提供することは「これまで慣行上許容され、プライバシーにも十分配慮した」と主張。ブログに児童の名前は掲載されなかった。命令に従わなかったとの指摘には「事実無根」と反論した。代理人弁護士は「石木ダム問題を取り扱ったことへの報復的な処分。今後この問題を教員が取り上げられなくなる」と強調した。
審査請求は10月7日付で、同20日付で受理された。市教委学校教育課は取材に「審査中のためコメントできない」としている。
◆2021年11月10日 毎日新聞長崎版
https://mainichi.jp/articles/20211110/ddl/k42/040/330000c
ー「長崎市教委は処分取り消しを」 小学校教諭が審査請求ー
石木ダム建設予定地の川棚町川原(こうばる)地区で社会科見学を実施し、児童の書いた感想文を保護者の許可なく学校外に提供したなどとして、長崎市教委から文書訓告処分を受けた市内小学校の50代男性教諭が、処分取り消しを求め市公平委員会に審査請求した。男性教諭と弁護士が9日に記者会見し、「処分は石木ダムを取り扱ったことへの報復処分だ」と訴えている。
請求は10月7日付。男性教諭は2020年11月11日、当時勤務していた市立矢上小6年の児童約80人を対象に「自然、平和、人権を考える」を趣旨とした川原地区での社会科見学を校長と相談した上で企画、実施。終了後、児童が書いた感想文を見学のお礼として地元住民などに手渡した。
12月4日に石木ダム問題について取り組む市民グループが児童の感想文を氏名を伏せてブログに掲載し、学校側の指摘で同日中に投稿を削除した。これを問題視した市教委は今年7月、「児童が書いた感想文を保護者の許諾を得ず学校外に提供した」などを理由に、男性教諭を文書訓告処分とした。
男性教諭は「教諭の判断で児童が授業で作成した文章や作品を外部に提供するのはこれまで慣行上許容され、ブログ掲載も児童のプライバシーに配慮したものであり法令違反ではない」と主張。「社会科見学は中立性を配慮したもので、学校の理解も得ていた。市教委の処分は教育の自由への侵害、教育裁量権への介入である」と取り消しを求めた。市教委は「審査中なのでコメントを差し控える」としている。【田中韻】