昨夏の水害を機に国の川辺川ダム計画がよみがえった熊本県の球磨川水系では、今後30年間の具体的な治水対策を確定させる河川整備計画の策定作業が進められています。河川整備計画はダム計画の上位計画であり、ダム計画は河川整備計画に書き込まれることで、法的に位置づけられることになります。
さる13日、球磨川水系の治水を管理する国土交通省九州地方整備局が河川整備計画の原案を提示し、学識者に意見を求める懇談会を開催しました。
懇談会の資料は国土交通省九州地方整備局八代河川国道事務所のサイトに掲載されています。
http://www.qsr.mlit.go.jp/yatusiro/river/gakusiki_kondankai/index.html
第2回 球磨川水系学識者懇談会 令和 3年12月13日開催
上記の資料の中の「資料4」に国土交通省九州地方整備局がまとめた河川整備計画の原案が掲載されています。
以下の文字列をクリックすると資料のパワーポイントが開きます。
資料4
「令和3年度 第2回 球磨川水系学識者懇談会 説明資料
球磨川水系河川整備計画(原案)に盛り込むべき
河川整備の考え方の整理【国管理区間】」
昨年7月の水害では、線状降水帯が球磨川の中下流に停滞して、50人もの死者を出しました。嘉田由紀子参院議員や市民団体、専門家らの調査結果によれば、たとえ川辺川ダムがあったとしても、死者のほとんどは救えなかったということですが、懇談会ではこうした問題は取り上げられていません。河川整備計画の前提となる河川整備基本方針では、ダム建設に有利な「基本高水流量」がすでに設定されています。
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◆2021年12月13日 NHK熊本放送局
https://www3.nhk.or.jp/lnews/kumamoto/20211213/5000014212.html
ー球磨川の河川整備計画策定に向け 専門家の懇談会ー
去年7月の豪雨で氾濫した球磨川の今後の治水対策のもとになる河川整備計画の策定に向け、13日、専門家の意見を聞く懇談会が開かれました。
国や県は去年7月の豪雨を受け、今後、球磨川流域で行う治水対策のもとになる長期的な基本方針を踏まえた河川整備計画の策定を進めています。
13日は、計画の原案に盛り込むべき内容について有識者の意見を聞く懇談会が開かれ、河川工学や環境などの専門家12人が出席しました。
この中では国の担当者が、計画の理念を「命と環境の両立」としたうえで、今後、20年から30年かけて取り組む治水対策で、洪水時に球磨川を流れる最大流量を人吉市の地点で、対策を行わない場合の半分程度まで削減させることなどを説明しました。
これに対して専門家からは、環境保全についてさらに詳しい記載を求める意見や、治水対策だけでなく平常時の維持管理に向けた住民との連携策も盛り込むべきだといった意見などが出されていました。
九州大学の小松利光名誉教授は「防災と環境を両立するという非常に厳しい条件下で整備計画を作らなければならないが、うまく両立できれば全国でもよい先例になるだろう」と話していました。
◆2021年12月14日 熊本日日新聞
https://kumanichi.com/articles/498053
ー球磨川治水の河川整備計画 人吉「50年に1度」対応 30年間の目標ー
国土交通省は13日、昨年7月豪雨で甚大な被害が出た球磨川水系で策定する河川整備計画について、熊本県人吉市の基準点で「50年に1度」、八代市で「80年に1度」の大雨を安全に流せる治水対策とする目標を示した。支流の川辺川への流水型ダム建設が柱で、計画期間はおおむね30年。
今回の整備計画が完了しても、「数百年に1度」とされる7月豪雨と同規模の洪水では被害を完全には防げない。ただ、人吉市付近では堤防からの越水を、球磨村など中流域では家屋の浸水被害を防げるとしている。熊本市中央区で開いた球磨川水系の学識者懇談会の会合で説明した。
整備計画は、現在見直しを進めている長期的な河川整備基本方針に沿って当面の対策を具体化するもの。基本方針では、人吉市で80年に1度、八代市で100年に1度の大雨を想定している。
整備計画策定に当たっては気候変動を加味。降雨量を従来の1・1倍にして計算した。対策の目標とする流量は、人吉市の人吉地点で50年に1度の降雨時の毎秒7600トン、八代市の横石地点では80年に1度の毎秒1万1200トンとする。
整備計画に位置付ける新たなダムは、普段は水をためない流水型。旧川辺川ダム計画と同じ相良村四浦に本体の高さ107・5メートル、総貯水容量約1億3千万トンの同規模で建設する。
計画にはほかに、遊水地や河道掘削など今年3月に国や県がまとめた「流域治水プロジェクト」の対策を盛り込む。目標達成のため、新たに人吉市やその上流での河道拡幅や堤防整備なども追加。川下りやアユの生育など、河川の利用や環境との両立も図るとしている。(内田裕之)
◆2021年12月14日 朝日新聞
https://digital.asahi.com/articles/ASPDF6T7LPDFTLVB00C.html
ー球磨川水系治水 パブコメ実施など求める声 熊本で学識者懇談会ー
昨年7月の記録的豪雨で氾濫(はんらん)した球磨川水系の中期的な治水対策を定める河川整備計画の策定にあたって、国と熊本県が意見を求める委員会「学識者懇談会」の会合が13日、熊本市であった。出席者からは、パブリックコメントを募るべきだなどと注文が出た。
河川整備計画は20~30年程度を見据えて国や県が河川整備の内容を示す。河川法では、河川整備計画の策定までに学識者や地元住民、首長に意見を聞くことになっている。学識者懇談会は8月に初めて開かれ、この日は計画の原案に盛り込む内容を議論した。
国と県は、計画の対象期間を「おおむね30年間」と説明。球磨川支流の川辺川で整備を検討している流水型ダムを、従来の川辺川ダム計画で建設地になっている相良村に従来計画と同規模の貯水容量で建設する方針も示した。
学識者からは「パブコメの募集をすべきだ」「防災や地域作りにSDGs(持続可能な開発目標)を入れても良い」「専門用語が多くて分かりにくい。市町村にも分かりやすい資料が必要」などの意見や要望が相次いだ。
会合後、懇談会の委員長を務める小松利光・九州大名誉教授(河川工学)は、国が示した流水型ダムの計画地や貯水規模について「妥当だと考えている。ダムの治水効果は治水容量で決まるのでできるだけ大きい方がいい」と報道陣に話した。
国と県は学識者の意見などをふまえて計画の原案を具体化する。(長妻昭明)
◆2021年12月14日 西日本新聞
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/846667/
ー球磨川治水、命と環境どう守る 「新たな流水型ダム」議論本格化ー
球磨川の治水策を巡り、支流川辺川への「新たな流水型ダム」整備の議論が本格化している。課題は、蒲島郁夫知事が提示した「命と環境の両立」。13日の学識者
懇談会(委員長・小松利光九州大名誉教授)で、国は具体案を示さなかったが、終了後の記者会見で小松委員長が私案を披露した。川の環境を再現した環境保全用トンネ
ルを備えた「ハイブリッド型」だ。
流水型ダムは平時は水をためず、洪水時にだけ貯留する。この日の懇談会で国土交通省九州地方整備局は、今後30年間の球磨川整備の目標となる計画の骨子案を学識者に提示。流水型ダムの位置は旧川辺川ダム計画と同じ相良村とし、総貯水容量を約1億3千万トンと明記した。
完成すれば治水専用では国内最大。国、県、流域自治体でつくる流域治水協議会がまとめた流域治水プロジェクトには、可動式ゲートを設置して流量を調節する案が盛り込まれているが、現在はまだ調査・検討の段階だ。
一方、小松氏は「純粋な流水型ダムは環境に優しいが、自然放流方式で治水効率が悪く大型ダムには向かない」と指摘。「短所を補うには通常時は流水型、洪水時は貯留型のように人がゲートを操作する『ハイブリッド型』が適している」と提案する。
小松氏提案のハイブリッド型は、役割の異なる複数の可動式ゲートを備え、平時、中小洪水、大洪水の3パターンで使い分ける。ダム本体最下部の環境保全用トンネルは、川底に自然石を配し、太陽光代わりの照明を設置して自然環境を再現。ダムの上流と下流の河床を連続させ、魚の往来を妨げない構造を想定する。
環境保全用の脇には、中小洪水時に「流水型」の放流口となる治水専用トンネルを設置。大洪水時には環境保全、治水専用の両ゲートを閉じ、一時的に「貯留型」の治水機能を持たせ、放流ゲートで洪水調節を行う。計画を越える洪水の場合には自然に越流するゲートも設ける。
小松氏は「安全安心と豊かな川の恵みを守るため、知恵を絞りたい」と述べた。 (古川努)