昨日、国土交通省は球磨川の治水対策に関する学識者懇談会を開き、球磨川支流の川辺川でよみがえらせた国のダム計画の事業費の試算を示しました。
従来の川辺川ダム計画は、道路の付け替えや水没住民の生活再建など関連事業がほぼ終了しているため、あとは本体工事を残すのみとこれまで説明されていました。実際、これまでに費やされた事業費は約2200億円に上り、従来計画の総事業費は約3300億円でした。しかし、国交省の新たな試算によれば、ダムを完成させるにはさらに約2700億円必要ということです。
事業費が膨張する理由について、国交省九州地方整備局は「物価や消費税の上昇、追加の調査などの影響」としています。八ッ場ダムもそうでしたが、事業が続く限り、事業費は増え続けそうです。
ちなみに八ッ場ダムの事業費は5320億円でしたが、国と利根川流域一都五県が負担しました。川辺川のダム計画は熊本県のみが関係します。
球磨川の治水対策はダム計画以外に約1500億円かかるということで、総額4200億円に上ると試算されています。2016年に大地震があり、2020年夏の豪雨からの復興途上でもある熊本県は、治水対策以外の復興事業にも予算を投じなければなりません。国の巨大ダム計画は熊本県に過重な負担を強いることになります。
関連記事をまとめました。
◆2022年2月17日 熊本日日新聞
https://kumanichi.com/articles/562363
ー川辺川の流水型ダム、事業費2700億円 国交省、複数の治水対策で「最適」 球磨川水系の整備計画ー
国土交通省は17日、2020年7月豪雨で氾濫した熊本県の球磨川の治水対策を議論する学識者懇談会を熊本市で開き、支流の川辺川で新たに建設する治水専用の流水型ダムの事業費が約2700億円に上ると明らかにした。川辺川のダム事業には旧計画で既に約2200億円が投じられている。
新たなダムを軸に河道掘削や堤防整備、宅地かさ上げなどを組み合わせた対策には概算で約4200億円かかるとした。その上で、複数の代替治水案と比較した場合、事業費や工期の面で流水型ダム案が「最も適切」との見解を示した。
国交省は旧川辺川ダム計画が中止になる前の2008年、事業費約1200億円の流水型ダム案を提示した経緯がある。その時から金額が2倍以上に膨らんだことについて、同省九州地方整備局は「物価や消費税の上昇、追加の調査などの影響」と説明した。
流水型ダムは、総貯水容量約1億3千万トンのうち約1億1900万トンを洪水調節に充てる。ゲート付きの放流口を本体下部と中段付近に設置。洪水時は下部のゲートを閉めて一時的に水をため、水位が上がれば中段のゲートを操作して放流量を調節する方式とする。
一方、国交省は流水型ダムの代替案として(1)大規模な河道掘削を中心とする案(概算事業費約1兆1500億円)(2)広範囲の堤防かさ上げが軸の案(同約4900億円)(3)球磨川と八代海をつなぐ放水路などの案(同約1兆8500億円)─の3案を学識者懇談会に提示した。
このうち(1)(2)は30年後も完成せず、(3)はコストが膨大などとして、ダム案を適切と評価した。流水型ダムの完成時期は「(22年度から)10年後には完了しないが、20年後までには完成している」とした。
国交省は、こうした考え方を球磨川水系の中期的な治水目標として策定中の河川整備計画に位置付ける方針。近く原案をまとめ、流域住民から意見を聴く。(内田裕之)
◆2022年2月12日 熊本日日新聞
https://kumanichi.com/articles/556698
ー川辺川の流水型ダムに開閉ゲート 国交省方針 洪水調節を強化ー
2020年7月豪雨で氾濫した熊本県の球磨川の支流・川辺川で建設を計画する治水専用の流水型ダムについて、国土交通省が、ダムの放流口に開閉式の可動ゲートを設置する方針を固めたことが11日、関係者への取材で分かった。ダムからの放流量を人為的に操作できるようにして洪水調節の効果を高める狙い。通称「穴あきダム」と呼ばれる流水型ダムでは全国でも珍しい仕組みになる。
ダムの放流口は、ベースとなる本体下部に加えて中段付近にも設置する。洪水時は下部のゲートを閉めて水をため、水位が上がれば中段のゲートを操作して放流量を調節する。
建設中の立野ダム(南阿蘇村、大津町)のような一般的な流水型ダムは比較的小型で、普段は上流から集まった水を本体下部の放流口から自然に流し、増水時は容量の範囲内で水をためて下流を洪水から守る。貯留型ダムのように水を常時ためないため水質は悪化しにくいが、治水効率は人為操作を前提とする貯留型ダムに及ばないとされる。
一方、川辺川の新たな流水型ダムは高さ107・5メートル、幅約300メートル、総貯水容量約1億3千万トンを予定し、多目的の貯留型ダムとして計画された旧川辺川ダムと同規模の大型ダムになる。国交省は既存の市房ダム(水上村)と合わせて球磨川の洪水抑制の“切り札”と位置付けており、河川の状況などに応じて放流量を変えられる開閉式ゲートを付けて治水機能を高めることにした。
国交省は、こうした流水型ダムの構造を含めた球磨川水系の河川整備について、17日に熊本市で開催する学識者懇談会で説明すると見られる。
川辺川の新たな流水型ダムは、20年7月豪雨災害を受けて蒲島郁夫知事が「命と環境の両立」を図る手段として国に整備を要請した。建設予定地は旧川辺川ダム計画と同じ相良村四浦の峡谷。国交省は建設に向けた環境影響評価(アセスメント)を進めており、本体着工の時期は未定。(高宗亮輔、嶋田昇平)
◆2022年2月12日 NHK熊本放送局
https://www.nhk.or.jp/lnews/kumamoto/20220217/5000014784.html
ー球磨川の治水対策 国が「流水型ダム」に可動ゲート設置説明ー
おととし7月の豪雨で氾濫した、球磨川の治水対策のもとになる河川整備計画の策定に向け専門家の意見を聞く会が開かれ、国は検討を進めている「流水型ダム」について、開閉式の可動ゲートを設置して洪水調節機能を高めることを明らかにしました。
国や県は、おととし7月の豪雨を受けて、今後球磨川流域での治水対策のもとになる河川整備計画の策定を進めていて、17日は、土木工学や環境などが専門の学識経験者らから意見を聞く会が熊本市内で開かれました。
この中で国は、従来の川辺川ダムの予定地だった相良村に建設する「流水型ダム」について、新たに開閉式の可動ゲートを設けて洪水調節機能を高めることを明らかにしました。
ダムの下部に開いた穴から川の流れを止めないように平常時は水を流しますが、大雨で水位が上がった際には、ダムの下部と中間部に設けたゲートを開けて放水の量を増やすということです。
また、ダムの整備総額は、実施済みの工事を除くとおよそ2700億円に上る見通しだということを初めて明らかにしました。
河川整備計画では合わせて河川の掘削や遊水地の整備などの対策も盛り込み、おととしの豪雨と同じ規模の雨が降ったとしても、下流の人吉市で水が堤防を越えて被害がないと説明していました。
国は、治水対策のもとになる河川整備計画の原案を次回の会議で示すことにしています。
◆2022年2月17日 テレビ熊本
https://www.youtube.com/watch?v=HM99XmWbU6o&t=3s
ー川辺川に建設が計画されている流水型ダム事業費約2700億円ー
球磨川の治水対策として支流の川辺川に建設が計画されている流水型ダムについてです。
国土交通省は、この流水型ダムについて事業費がおよそ2700億円に上るとの見通しを初めて公表しました。
これは、17日開かれた球磨川の河川整備計画の策定に向けた学識者懇談会で国交省が明らかにしたものです。
流水型ダムは従来の川辺川ダム計画と同じ相良村に整備する予定で、高さは107・5メートル、総貯水容量はおよそ1億3000万トンを予定しています。
国交省は、この流水型ダムの事業費について従来の川辺川ダム計画ですでに実施済みの工事分を除きおよそ2700億円かかるとの見通しを初めて公表。
また、流水型ダムを含む河道の掘削や堤防・遊水池の整備、宅地のかさ上げなど球磨川の河川整備計画に盛り込む治水メニューの事業費は概算でおよそ4200億円かかるとしました。
このほか現在、国が検討を進めている流水型ダムの構造について、放流口を本体最も下の河床部と中段付近に設置。
治水効果を高めるためいずれも開け閉めが可能なゲートを設けることを明らかにしました。
平常時はダムに水をためず自然に水を流しますが、大雨で増水した際にはゲートを閉めてダムに水をため、水位が上がれば中段付近のゲートを操作して放流量を調整するとしています。
◆2022年2月18日 毎日新聞西部朝刊
https://mainichi.jp/articles/20220218/ddp/041/040/008000c
ー川辺川 ダム事業2700億円 国交省発表 総額4900億円にー
2020年7月の九州豪雨で氾濫した熊本県の球磨川の支流・川辺川に建設する新たなダムについて、国土交通省は17日、今後必要となる事業費が概算で約2700億円に上ると発表した。ただし、09年に建設中止が決まった旧ダムの土地取得費などで支出済みの約2200億円を合計すると4900億円程度に膨らむ見通しで、旧ダムの建設費用として見込まれた約3300億円を大きく上回ることになる。
国交省が熊本市で開いた球磨川水系の治水対策に関する学識者懇談会で示した。国は、一般的な貯水型ダムより環境への影響が小さいとされる「流水型ダム」を、同県相良(さがら)村の旧ダム建設計画地に造る方針。河床部と中段部の計2カ所に開閉可能なゲートを設置して平時は川の水を流し続け、洪水時は水をためて下流に流す水量を調節できるようにする。規模は高さ107・5メートル、幅約300メートル、総貯水容量約1億3000万トンで、国内最大の流水型ダムとなる。
国交省によると、旧ダム建設のためこれまでに約98%の土地が取得済みで、周辺の道路などもほぼ完成。これらの費用として既に約2200億円が投じられている。基本的には新たに建設が決まったダムの用地や道路として使われることになるが、この日発表した約2700億円の概算費用には含まれていない。
国交省はまた、約2700億円のダム費用に河道掘削や堤防整備なども加えた球磨川流域の治水対策全体の概算費用は約4200億円になると発表。10年後には球磨川の中流区間や人吉区間の宅地かさ上げや河道掘削は完了しているとの見通しを示した。ダムの着工時期や完成時期は明示しなかった。【吉川雄策】
◆2022年2月18日 読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/local/kyushu/news/20220218-OYTNT50019/
ー熊本・川辺川の流水型ダム、今後2700億円必要…国交省公表、総事業費4900億円にー
2020年7月の九州豪雨で氾濫した熊本県・球磨川の治水対策で支流・川辺川で検討されている流水型ダムについて、国土交通省は17日、今後、必要な事業費が2700億円に上るとの試算を公表した。実施済みの整備費を加えた総事業費は4900億円となり、従来の川辺川ダム計画から1000億円以上の増額となる。完成時期は2032年度以降との見通しも示した。
同日、熊本市で開いた球磨川水系学識者懇談会の中で明らかにした。同省は2008年、従来の川辺川ダムの総事業費について3300億~3400億円との試算を示しており、大幅な増額となった理由については物価上昇や消費税の増税、貯水型ダムから流水型ダムへの構造変更などを挙げた。
また、会議では、検討中の流水型ダムについても治水効果を高める目的で、ダム本体の下部のほか、中段にも放流口を設け、それぞれにゲートを付けて洪水量を調節する方針も示した。
川辺川ダム計画は旧建設省が1966年に発表。事業費は当初350億円とされていた。その後、事業費が膨らみ、「脱ダム」を掲げる民主党政権が09年に中止したが、九州豪雨を受け、国や県、流域市町村は昨年3月、流水型ダムを柱とする治水対策をまとめていた。