八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

国交省、富士川に「河川維持流量」設定へ 環境改善へ一歩

 水力発電などが川から大量の水を取水するために、「河原砂漠」と呼ばれる状態になっている河川の問題に対処するため、国は発電所の水利権更新時にそれまで許可されていた水量を減らし、川の流量を増やすようになっています。
 八ッ場ダムが建設された吾妻川では、ダムのある区間はもともと東京電力の松谷発電所が流量の大半を取水しているため、流れる水が少ない状態が続いてきましたが、松谷発電所が2012年に水利権の更新期限を迎えたことから、一定量が吾妻川に戻されることになりました。けれども、吾妻川ではこのことは公にされず、八ッ場ダムが建設されたことによりダムからの放流で流量が増えたことになっています。
〈参考ページ〉➡「河川流量の維持」

 山梨県を水源とし、静岡県の駿河湾にそそぐ富士川は、日本軽金属の発電所やダムによって環境汚染が進み、サクラエビ漁などに甚大な影響が及んでいることが問題となってきましたが、このほど発電所の水利権更新に伴い、流量が一定程度回復することになりました。
 このニュースを地元紙が詳しく伝えています。

◆2022年2月20日 静岡新聞
https://www.at-s.com/news/shittoko/1029047.html
ー「河川維持流量」設定へ 富士川の環境改善へ一歩ー

 水枯れや生物激減、支流での汚泥の不法投棄などで河川環境の改善が注目される富士川。国土交通省は、渇水期でも維持すべき流量として「河川維持流量」を設定すると発表しました。長年、声を上げ続けてきた流域住民の声が事態を動かしました。維持流量の設定で富士川の環境はどのように変わるのでしょうか。ポイントや設定の背景をまとめます。 〈静岡新聞社編集局未来戦略チーム・吉田直人〉

来年度中に設定へ 水利権巡り国交省方針 水枯れ改善へ転機
 駿河湾産サクラエビの不漁を契機に注目される富士川の河川環境について、国土交通省は17日、渇水期でも維持すべき流量として「河川維持流量」を設定すると発表した。戦時期から続く日本軽金属の水利権が存在し、これまで調整が難しい面があった。水枯れが伝えられる富士川本流の河川環境にとって大きな転機となりそうだ。

 同日の衆院予算委員会分科会で田中健氏(国民民主党、比例東海)の質問に、井上智夫水管理・国土保全局長が答弁した。井上局長は「2022年度中には維持流量を設定する」と述べた。さらに、20年3月に水利権の更新期限を迎えた日軽金波木井発電所(山梨県身延町)について「取水を減らして河川の水を増量できないか流域自治体や日軽金と合意形成を図っている」と明かした。
 国の固定価格買い取り制度(FIT)を使って売電している波木井発電所の取水量が一定程度減ることで、維持流量の設定が可能になるとみられる。

 富士川水系には1922(大正11)年に水利権を許可された波木井発電所をはじめ、日軽金が自家発電用に使用する施設が多数ある。発電のため取水した水は基本的に川に戻らず、導水管を経て同社蒲原製造所(静岡市清水区)の放水路から駿河湾に注いでいる。このため、富士川本流の水量は慢性的に少なく、釣りやラフティングなどのスポーツを行う人たちが維持流量設定を強く望んでいた。
 上流域の濁りや不法投棄された有害物質は希釈されず、放水路からサクラエビの産卵場の湾奥に注ぎ、漁師らからも水利権を疑問視する声が出ていた。

 田中氏は「住民への説明なくFITでの売電を行うのはガイドライン違反では」と指摘。資源エネルギー庁の茂木正省エネルギー・新エネルギー部長は「違反の場合、法に基づき指導する。改めて事業者に事情を聴き、関係自治体に確認する」と答弁した。(「サクラエビ異変」取材班)

◆2022年2月18日 静岡新聞
https://www.at-s.com/news/article/shizuoka/1028419.html
ー富士川環境改善ここから 維持流量設定 流域住民、国の動き注視ー

 駿河湾奥に注ぐ富士川について、国土交通省は17日、2022年度に「河川維持流量」を設定すると発表した。日本軽金属波木井発電所(山梨県身延町)の水利権更新に合わせ取水量を削減することで物理的に可能になるが、川にどの程度、水が戻るかは見通せないまま。流域住民は河川環境改善につながる維持流量設定を歓迎する一方、国の具体的な動きを注視している。

 20年3月が更新期限の同発電所について、山梨県から意見照会を受けた同県南部、早川両町が富士川水系の流量増を求めたことなどが、河川維持流量設定のきっかけだった。国や山梨県、両町、日軽金で水利権縮減に向けた協議が継続中だ。

 南部町の佐野和広町長は、近年は強い濁りもあってアユがすまないことを指摘し「かつての清流は体をなしていない。維持流量の設定で景観も向上し、町づくりに貢献することを期待する」とした。
 昨夏富士宮市議会に請願が採択された、地元でラフティング会社などを経営するサクラエビ漁師佐野文洋さん(49)は「最大で毎秒75トンある日軽金の自家発電用水利権は3分の2程度に減らすのがフェア。漁業者の立場でも声を上げていかなくてはならない」と述べた。同市議の近藤千鶴氏は「維持流量を民主的に決めるため、関係者で協議会を設置すべき。山梨県側ともつながり、もっと流域の声を大きくしないといけない」とした。

 山梨県側で富士川の河川環境改善を求めて活動する住民団体「富士川ネット」の事務局長の男性会社員(48)=同県南アルプス市=は「戦時期以来『当たり前』だと思ってきた富士川のありようを見直すときがいまそこに来ている。海と川を行き来する生物を保全するために流域住民が立ち上がらなくてはならない」と訴えた。(「サクラエビ異変」取材班)