八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

水陸両用バス、無人運航の実証実験 群馬・八ツ場ダム湖

 ダムが完成し、道路や地域振興施設など関連事業も一段落した今、八ッ場ダムの関連ニュースはめっきり少なくなりましたが、ダム湖観光の目玉とされる水陸両用バスのニュースはたびたび取り上げられます。

 八ッ場ダム事業では数多くの施設が整備され、水没地にあった川原湯温泉はダム湖畔に造成した代替地に移転しました。けれども、観光客の多くはダム堤と道の駅に立ち寄るだけで、ダム湖畔で宿泊滞在する人は僅かです。乗船に一人3500円の料金がかかる水陸両用バスは、今のところ最も稼ぐ観光資源といえます。ダム湖観光は地域振興による雇用の創出が本来の目的ですから、無人運航の実証実験が八ッ場ダム湖で行われていること自体、なんとも皮肉です。
 上毛新聞のコラム記事によれば、八ッ場ダムの水陸両用バスは今後も有人による運航で、無人運転の実用化は別の場所で行うそうです。末尾にこの記事を転載しました。

◆2022年3月15日 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC1512H0V10C22A3000000/
ー水陸両用バス、無人運航の実証実験 群馬・八ツ場ダム湖ー

 群馬県長野原町の八ツ場あがつま湖で、水陸両用バスの無人運航実証実験が行われた。日本財団が推進する無人運航船プロジェクトの一環で、IT(情報技術)関連のITbookホールディングス(HD)や埼玉工業大学、長野原町などが構成するコンソーシアムが実施した。水陸両用バスによる無人運航の実証実験は世界初という。

 自動車の自動運転技術を水陸両用バスに応用した。約30分航行し、途中で進路上の小舟を探知して、自動で回避するテストも行われた。

 日本財団海洋事業部の桔梗哲也・海洋船舶チームリーダーは「水陸両用バスの無人運航技術が向上すれば、例えば離島の物流で荷物の積み下ろしを省人化でき、陸上と海上でつなぎ目のない物流のあり方を提案できる可能性がある」とし、2025年の実用化に向けてプロジェクトを進めるとした。長野原町の萩原睦男町長は「八ツ場ダムを問題からブランドに変えていく一歩を踏み出せた」と述べた。

◆2022年3月15日 上毛新聞
ー世界初の無人運航 八ッ場あがつま湖 水陸両用バス 自動で30分間ー

 水陸両用バスを使った無人運転技術の公開実証実験が14日、八ッ場ダム(長野原町)のダム湖「八ッ場あがつま湖」で行われ、自動運転での入出水や水上での障害物回避をこなし、航行に成功した。水陸両用バスの無人運航の実証は世界初という。

 町が保有し、湖面観光に活用される水陸両用バス「八ッ場にゃがてん号」に、車の自動運転技術を応用した運航システムを搭載した。約30分間の航行を3回実施。運転席の人がハンドルなどを操作することなく入水して進み、進行方向にボートを検知すると自動でかじを切り、進路変更した。陸に上がる際も自動で船からバスの運転に切り替え、スムーズに停車した。
 実験は、日本財団が展開する無人運航船プロジェクトに採択され、IT企業のITbookホールディングス(東京都)や埼玉工業大、町、ローカル5G通信のエイビット(東京都)、日本水陸両用車協会(同)の5社・団体でつくるコンソーシアム(共同事業体)が実施した。

 実験後に記者会見したITbookの担当者は「ダム建設で大変な苦労があった地。地方創生という意義はあった」と述べた。萩原睦男町長は「八ッ場ダムを問題からブランドへと変えていく。この事業で夢の第一歩を踏み出せた」とダム活用に意欲を見せた。(前原久美代)

◆2022年3月15日 レスポンス
https://response.jp/article/2022/03/15/355229.html
ー世界初、水陸両用船の無人運航—八ッ場ダムで実証、実用化へ向けて前進ー

 日本国内で、どこよりも早く水陸両用船の実用化にむけたテスト運航が始まった。その現場は群馬県長野原町八ッ場ダム(八ッ場あがつま湖)。2020年夏の発表時には「水陸両用バス」として実用化にむけてスタートしたプロジェクトだ。

 3月14日、八ッ場ダムの実験現場にいた水陸両用バスは、東京湾を行く「スカイダック」(日の丸自動車興業)や、山中湖の「カバ」(富士急行)と似たタイプ。前方にはLiDAR・カメラ・ソナー、ルーフにGNSS・風速計・5G(第5世代移動通信)アンテナ、船内にジャイロセンサーなどが備わる。

 「縦2個と横1個のライダーで110mほど先の障害物を検知できる。今回、注目してほしいのは入水、障害物回避、出水(上陸)の3シーン。入水はオートマチックシフトのD2、出水はマニュアルシフトのM2で出入りする。水中航行中はシフトをニュートラルに入れて、ブレーキを入れてタイヤを回さないで、一般的な船の操舵で航行する」

 そう話すのは、自動運航・運転システムの開発を担う埼玉工業大学 工学部 情報システム学科・渡部大志教授(埼玉工業大学自動運転技術開発センター長)だ。同実証実験は、日本財団が推進する無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」の一環で、同プロジェクトで開発された経路追従・障害物回避・避航システムなどは、船舶の安全航行などに寄与すると期待されている。

 同プロジェクトの八ッ場スマートモビリティのコンソーシアムメンバーは、ITbookホールディングスを代表とする、エイビット、埼玉工業大学、長野原町(群馬県)、日本水陸両用車協会の5者。

 実験公開には、日本財団桔梗哲也リーダーをはじめ、ITbook HDの前俊守社長、埼玉工業大学の内山俊一学長、日本水陸両用車協会の須知裕曠理事長、エイビットの池田博樹執行役員、長野原町の萩原睦男町長も駆けつけ、水陸両用船による無人運航の世界初実証を見届けた。

 実際に入水・障害物回避・出水を、乗ってみて体感。入水は想像以上に勢いよく水面に突っ込んでいくのが印象的。「やや勢いをつけないと水陸両用バスの自重でタイヤ類が湖底に尻もちしてしまう」と埼玉工業大学 渡部大志教授はいう。

 縦横3つのLiDARなどで前方の釣り船の存在を認知し、きれいに回避ルートをリルートし、見事に前方の船を回避する。さらに出水(上陸)時は、水陸境界付近にゆるやかにあるカーブもきれいにトレースし、小さな衝撃もなく上陸する。

 この一連の流れ、すべて自動。船舶免許を持ったドライバーは、ハンドルや操舵スロットルレバー、操舵舵などに1回も触れずに、オートパイロットで航行してしまう。埼玉工業大学の自動運転バスで培った自動運転システムが、水上でもイメージ通りに機能する瞬間を垣間見た。

 いっぽうで、陸上にはエイビットのローカル5Gなどを介した遠隔操舵室(今回はトラック荷室内)を設置。無人自動航行を想定した遠隔操舵の実用化にむけた実験で、埼玉工業大学をはじめ開発チームのエンジニアたちが船の航行状況をモニターで監視し、緊急時は遠隔操舵室から自動運転バスを操舵する。

 こうした各社の技術を結集させることで、無人運航船を実用化できたさいは、こんな利用イメージを日本財団は描いている。

・都市部では臨海部マンションから船で通勤やショッピング
・臨海部にある空港までの空港アクセスを無人運航船で
・地方に点在する離島を結ぶ貨物運搬や通勤通学利用

 こうした想定シーンに無人運航船が実用化すれば、人手不足やドライバーや船員不足の時代につきまとう課題が解決できるかもしれない。また、既存のバス路線や空港アクセス、鉄道路線の混雑緩和も期待できる。

 いよいよ動き出した、世界初の水陸両用船の無人運航実証。船舶免許証や自動車運転免許証の扱いや、海事法・道交法などの法制度整備、サイバー攻撃などへのセキュリティ強化、リスクに対応する保険類の整備など、まだまだ課題があるなか、今後どんなアクションでハードルを突破していくか、楽しみ。

◆2022年3月25日 上毛新聞コラム「三山春秋」
https://www.jomo-news.co.jp/articles/-/92102
ー船の操縦で最も気を使うのは…ー

 ▼船の操縦で最も気を使うのは離岸と着岸だという。ブレーキがないから急に止まれない。かじを切っても車のようにすぐに曲がってくれない。刻々と変化する水や風の動きを読み、船長の経験や勘も必要になる

 ▼有人でも難しい操船を無人でこなす実証実験が、八ツ場ダムの「八ツ場あがつま湖」で行われた。湖面観光で利用される水陸両用バス「八ツ場にゃがてん号」に自動運航システムを搭載し、入着水を含め2キロの航路を無人で動かした。水陸両用車が陸と水上で連続した自動運転に成功したのは世界初という

 ▼実験は日本財団の無人運航船プロジェクトに採択され、IT企業や、バスを保有する長野原町、車の自動運転技術を開発する埼玉工業大など5社・団体が実施した

 ▼町には、実験を知った人から「自動運転はいつから始まるの?」と問い合わせが寄せられるという。しかし、水陸両用車の自動運転が次の段階へと進んだ時の舞台は八ツ場ではない

 ▼実験の目的は、観光利用が主流となっている水陸両用車の自動運転技術を開発し、災害時の技術転用や離島への物流インフラの構築などにつなげることだ

 ▼「にゃがてん号」はこれまでと変わらず、人が動かす。世界初の自動運転を体験できないのは残念な気もするが、内陸の湖で培われた技術が離島や海辺の暮らしを豊かにするために生かされる。感慨深く、誇らしくもある。