2020年の球磨川水害をきっかけに蘇った国の川辺川ダム計画は、堤体に穴のある流水型ダムに変更されました。「流水型ダム」は洪水時以外は川の水が流れることから、河川環境への負荷が通常のダムより少ないことが期待されています。
川辺川ダムは2008年に一旦は熊本県により白紙撤回され、翌2009年、民主党政権が中止を宣言したため、五木村の水没地では清流を生かした宿泊施設や公園が整備され、観光客が増えていました。流水型ダムでは、通常は「水没地」が沈みませんが、洪水時には洪水の規模によって沈む土地が広がります。国土交通省はこのほど、五木村の住民を対象に洪水規模による水没範囲のシミュレーション結果を説明しましたが、住民からは当然のことながら不安の声が上がっているようです。
◆2022年4月11日 熊本日日新聞
https://kumanichi.com/articles/619378
ー五木村の旧中心部「10年に1回水没」 川辺川の流水型ダム貯水で国交省試算ー
国土交通省は10日、熊本県の球磨川支流・川辺川に治水専用の流水型ダムが完成し、洪水に備えてゲートを閉めて貯水した場合、10年に1回以上の頻度で、旧川辺川ダム計画で水没予定地とされたダム上流の五木村中心部が水没するとのシミュレーション結果を明らかにした。流水型ダム建設による水没の程度を示したのは初めて。
旧ダム計画上の水没予定地にあった住宅や公共施設の大半は、既に代替地へ移転した。旧ダム計画が2009年に事実上中止された後、水没予定地に振興策として宿泊施設「渓流ヴィラITSUKI」や、公園「五木源[ごきげん]パーク」が整備された。
国交省川辺川ダム砂防事務所は、1953~2020年に球磨川流域で起きた202回の洪水時に流水型ダムがあったと仮定し、雨量などのデータを基に水没予定地への影響をシミュレーションした。
その結果、1年に1回以上の規模の洪水では、貯水による影響はなかった。2年に1回以上の規模では、村中心部の下流に整備されたシイタケ生産団地が水没した。5年に1回以上では、村中心部の一部が漬かった。
10年に1回以上の規模になると、川辺川からやや離れた五木源パーク以外、渓流ヴィラITSUKIなど村中心部はほぼ水没した。15年に1回以上になると、五木源パークを含む全域が水没した。
国交省と県は10日、五木村で説明会を開き、住民ら約100人にシミュレーション結果を示した。
流水型ダムは、20年の熊本豪雨で氾濫した球磨川の治水策として、旧ダム計画と同じ相良村四浦の峡谷に建設を計画する。平常時は水をためずにダム堤下部の放流口から川の水を流し、下流の洪水を防ぐ際はゲートを閉めて貯水する。
高さ107・5メートル、総貯水容量約1億3千万トンで、治水専用ダムでは国内最大級。国交省は環境影響評価(アセスメント)などを経て27年度に本体着工し、35年度の完成を見込んでいる。(中村勝洋)
◆2022年4月12日 熊本日日新聞
https://kumanichi.com/articles/620709
ー「清流守られるのか」 五木村民、観光振興に不安もー
満々と水をたたえるダム湖ではなく、清らかな川辺川の清流のみでもない。10日、国土交通省と県が五木村民に示した流水型ダム完成後の姿は、明確にイメージで
きる材料に乏しかった。地元説明会に出席した住民からは、疑問の声や意見が相次いだ。
頭地地区の佐藤正忠さん(83)は「流水型ダムで村は観光地となり得るのか」「村民の自慢でもある川辺川の清流は守られるのか」と矢継ぎ早に質問。国交省川辺川ダム砂防事務所の齋藤正徳所長は「(平常時は貯水しないため)ダム湖はないが、代わりに清流を生かした観光を最大限検討したい」「環境調査をして対応したい。清流を守りたい皆さんの思いは十分理解している」と答えた。
流水型ダムは下流の洪水防止のため一時的に水をためる。「木の葉などに付着した泥や砂が乾いて舞い上がることはないのか」と環境への悪影響を心配する声もあったが、川辺川ダム砂防事務所は「流水型ダムをどう運用するかを含め、しっかり検討していく」と述べるにとどまった。
国交省のシミュレーションでは、一定の規模を超えた洪水が起きると、「渓流ヴィラITSUKI」など村振興のため整備された施設が水没する。
施設の一つ、シカ解体所の運営に携わる頭地の犬童雅之さん(86)が「ヴィラも解体所も五木にとって大事な施設だ。今後どうするのか。村の再建計画も聞きたかった。いつ示されるのか」といら立ちを募らせると、県河川港湾局の里村真吾局長は「具体的に検討して改めて説明したい。もう少し時間をいただきたい」と理解を求めた。
木下丈二村長は最後に「村の振興は重要な課題だ。今後も住民にしっかり説明してほしい」と国、県に注文した。(中村勝洋)
◆2022年4月12日 読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/local/kyushu/news/20220412-OYTNT50010/
ー五木村の旧中心部「10年に1度想定の洪水で水没」川辺川流水型ダム貯水で、国交省試算ー
熊本県・球磨川流域の治水対策として支流・川辺川で建設予定の流水型ダムに関連し、国土交通省は11日、10年に1度ほど想定される洪水時にダム湖に貯水した場合、旧川辺川ダム計画で水没予定だった五木村旧中心部の大部分が水没するとした試算を明らかにした。国交省が具体的な想定をもとに水没の規模を示すのは初めて。
流水型ダムは平時は水をためずにダム下部の穴から水を流し、大雨時に流水量を調節してダム湖に貯水する仕組み。国交省が過去68年間の洪水実績をもとに、洪水時にダム湖に水がたまる範囲を試算したところ、旧計画の中止後に旧中心部に建設された宿泊施設などはほぼ水没。最も大きな洪水の場合は、さらに5メートル高台に整備された公園「五木源パーク」も水につかるとした。国交省や県は今後、施設の取り扱いなどについて村と協議する方針。
国交省は10日、流水型ダムの計画について初の村民説明会を実施。この中で、水没規模を説明した。
◆2022年4月11日 人吉新聞
https://hitoyoshi-sharepla.com/entrance_news.php?news=5287
ー頭地で10、15年1回浸水 五木村に湛水範囲示すー
国土交通省と熊本県は10日、五木村の河川整備に関する住民説明会を開き、国が過去の洪水時に相良村四浦に建設予定の新たな流水型ダムがあったと仮定し、洪水調節をした場合の湛水範囲のシミュレーション結果を示した。
また、県は宮園~竹の川区間の安全性を早期に高めるため、堤防整備や河道掘削、宅地のかさ上げ、治山・砂防事業など複数の事業を組み合わせた対策を提案した。村民を対象にした河川整備に関する説明会は初めて。
昭和38年から3年連続で発生した豪雨を受けて、国は同41年に相良村四浦藤田に「川辺川ダム」を建設する計画を発表。水没予定地を抱える五木村は紆余曲折の末、苦渋の決断でダム建設を受け入れたが、移転などで多くの村民が古里を離れ、人口減少に拍車がかかった。
蒲島郁夫知事は、平成20年に川辺川ダム計画の白紙撤回を表明したが、令和2年7月豪雨を受けて方針を転換。命と環境を守る「緑の流域治水」の中に新たな流水型ダムを盛り込み、国はことし3月に同17年度を事業完了とするロードマップを示した。
国によると、湛水範囲のシミュレーションは昭和28年から令和2年までの68年間における実績洪水を流水型ダムで洪水調節をした場合の貯水位を想定。頭地地区付近では「渓流ヴィラⅠTSUKI」(敷高約255㍍)が10年に1回以上、「五木源パーク」(同260㍍)は15年に1回以上の湛水頻度で水につかる結果となった。
一方、県は村の河川整備について「水」「土砂」「流木」の対策が必要とし、平成17年9月洪水の1.1倍の豪雨に対して家屋の浸水を防ぐため、梶原川(竹の川地区)の河道掘削や宅地かさ上げ、宮園橋周辺の堤防整備と河道掘削を提案。土砂・流木に対しては治山および砂防事業に加え、土砂流入抑制施設や流木止め施設を整備して災害を防ぐとした。
●「五木ダム」建設を
同日は午前中に五木東小学校体育館、午後から宮園体育館でそれぞれ説明会を開催し、両会場合わせて約100人が出席した。
宮園体育館の説明会では、国交省九州地方整備局川辺川ダム砂防事務所の齋藤正徳所長、県土木部の里村真吾河川港湾局長がそれぞれあいさつ。
続いて、齋藤所長が川辺川ダムの歴史や新たな流水型ダムの概要など、同港湾局の担当者が村内の県管理河川の整備案をそれぞれ説明した。
出席者からは平成23年に中止となった五木ダムの建設を求める声が上がり、「私たちは水害に見舞われるたびに苦しんできた。過去の歴史を振り返り、住民の声を真摯に受け止めてもらいたい」と訴えた。
里村局長は「昔計画していた五木ダムでは余力がなく、温暖化に対応するための検討には時間がかかってしまうが、温暖化が進む中で今後一切造らないとも言い切れない」「五木村内を早く安全にするため、これまで計画していた五木ダムをそのまま造るのではなく、組み合わせた案で安全にしていきたい」と理解を求めた。
その他、住民からは流水型ダムができた場合の水位、早期の災害復旧などについて質問があり、村の振興について「五木村独自ではどうしようもない。素晴らしい村になるように国と県が今まで以上にしっかりとし、一歩でも二歩でも先に進めてほしい」という要望もあった。
◆2022年4月12日 熊本日日新聞
https://kumanichi.com/articles/620710
ー五木ダム建設せず 県、改めて伝達ー
県は10日、五木村民向けの河川整備に関する説明会で、県営五木ダムを建設しない考えを改めて伝えた。蒲島郁夫知事が「村を流れる川辺川の河床が削り取られて流下能力が向上した」ことなどを理由に、2011年に表明した建設中止の判断を踏襲した。代替策として河道掘削や宅地かさ上げを進める。
五木ダムは1963年から3年連続で村を襲った洪水を機に県が69年、建設に着手。しかし、旧川辺川ダム事業を含む下流域の治水方針が定まらず、本体工事には至らなかった。知事の中止表明後も、村は建設を求め続けていた。
説明会では、今後20~30年間の球磨川水系の治水対策を盛り込む河川整備計画について、県の担当者が報告。川辺川に建設する新たな流水型ダムを対策の柱とする一方、その上流の五木ダム建設は盛り込まないと伝えた。村民感情に配慮し、「将来も造らないと最終決定したわけではない」とも述べた。
代替策として、過去に洪水を繰り返した竹の川地区では宅地かさ上げや河道掘削、宮園地区では河道掘削や堤防整備に取り組むことを説明。こうした対策で、村で過去最大の流量となった05年洪水の1・1倍の豪雨でも、家屋の浸水を防げるとした。
県は、宮園地区から上流の川辺川に、土砂流入や流木を止めるための施設の整備も検討する。(内田裕之)