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「いまさらどこに」95歳の松本マツさん 長崎・石木ダム建設反対

 半世紀前から計画が進められてきた長崎県の石木ダムの予定地では、13世帯の住民が反対運動を続けています。住民はそれぞれ、できる形で日々の運動を粘り強く続けており、高齢者も例外ではありません。ダム建設予定地に立つ小屋に通い続ける松本マツさんにスポットを当てた記事が掲載されましたので、転載します。

◆2022年5月1日 朝日新聞
ー「いまさらどこに」95歳の松本マツさん 長崎・石木ダム建設反対ー

 自然豊かな長崎県川棚町の川原(こうばる)集落。その入り口のトタン葺(ぶ)きの監視小屋に、95歳の松本マツさんは週2回、弁当持参で通い、ひとり過ごす。近くには石木ダムの建設予定地。住民や支援者ら数十人が座り込みを続ける対岸は足場が悪くて行けないが、同じ気持ちで抗議したいと、70歳から小屋に通って25年となる。

 ダム建設の話が持ち上がったのは1962年。県は72年、地元の了解なしで造らないとの覚書を住民と交わしたが、75年、事業に着手。82年には機動隊を導入して強制的に測量し、昨年9月、本体工事を始めた。

 今も集落の13世帯が反対を訴える。2019年には、土地の所有権が国に移され、県知事の判断で家屋が撤去できるようになった。「家もこの小屋も破られるんやろかね?」。マツさんは不安をもらす。

 昨年4月20日、一緒に小屋に詰めていた岩永サカエさんが81歳で亡くなった。ダムの「早期完成」を公約に掲げ、今年3月に就任した大石賢吾知事が集落を訪れ、住民代表の11人と建設予定地などを歩いたのは偶然にもサカエさんの一周忌だった。

 「やっぱりさみしかね」。一人だけになった小屋で岩永さんを思い、瞳を潤ませたマツさん。それでもこう思う。「ここが一番良かところよ。どこに出て行くとですか、いまさら」(写真・文 吉本美奈子)