国交省中部地方整備局は昨日、設楽ダム事業の工期を8年延長し、事業費を約800億円増額する必要があることを明らかにしました。
設楽ダムのこのたびの変更は、昨日、中部地方整備局が開催したダム事業費等監理委員会及び部会(設楽ダム)で明らかになったものです。
報道の中には、計画変更の理由として「働き方改革の影響」をタイトルに取り上げている記事もありますが、根本的な原因はダムに不適な地盤の脆弱な場所にダムを建設することです。設楽ダムの建設に反対する愛知県の市民団体は、これまで設楽ダム事業の抱える様々な問題を指摘してきました。その中には、ダム事業の不要性と共に、ダム建設地の地盤の悪さがありました。
〈参考ページ〉
「設楽ダムの建設中止を求める会」のホームページ
同会は、設楽ダム建設予定地の地質地盤の脆弱さは問題があるとして、国土交通省中部地方整備局に対して「設楽ダムの本体工事の前に第三者の専門家からなる検証委員会を立ち上げ、地質地盤の科学的検証を行うよう」、また愛知県に対しては「国に対して検証を行うよう求めること」をそれぞれ再三要望してきました。国の回答は毎回、「これまでの調査により、設楽ダムサイトの基礎岩盤は、ダム建設が可能なものである」「断層もダム堤体設計に支障となるものはない」を繰り返し、愛知県は「国がそう言ってるので」と主体的には調査はしない、という姿勢を取ってきたということです。八ッ場ダムにおける国と利根川流域一都五県の姿勢も、これと全く同じでした。
設楽ダムの貯水容量の内訳を見ると、洪水調節容量1900万㎥、新規利水容量1300万㎥、流水の正常な機能の維持6000万㎥となっています。つまり、設楽ダムの最も大きな目的はダム下流の川に水を流すこと、ということになります。
一般にダム事業における「流水の正常な機能の維持」は特段の必要性・緊急性がなく、ダムの規模を大きくするための増量剤のようなものです。ところがそのための容量が6000万㎥もあって、全体の約2/3も占めるのが設楽ダムです。この点だけから見ても、設楽ダム事業が巨額の公金をばらまき続けること自体を目的にしていることがわかります。
工期延長と事業費増額が示されている昨日の資料は、以下のページに掲載されています。
★設楽ダム建設事業(工期及び事業費について) 令和4年5月17日 国土交通省 中部地方整備局 設楽ダム工事事務所
国土交通省中部地方整備局の上記資料の一部を転載します。
関連記事を転載します。
◆2022年5月17日 NHK東海
ー設楽ダム設計見直し工期8年延長へ 建設費増の見通しー
愛知県設楽町で建設が進められている「設楽ダム」について、国土交通省は、設計の見直しが必要になったとして、工期を令和16年まで8年延長する方針を固めました。
これに伴って建設費も増える見通しで、国土交通省は、費用の一部を負担している愛知県に意見を求めるなど必要な手続きを進めることにしています。
設楽ダムは、国が、令和8年度の完成を目指し、愛知県設楽町に建設を進めているもので、平成29年には、ダム本体の工事が始まり、建設が本格化しています。
こうした中、国土交通省は、設計段階では、想定できなかった地すべり対策や掘削の量の見直しが必要となった上、建設資材の高騰や働き方改革関連法による時間外労働の上限規制などの影響を踏まえ、工期を令和16年まで8年延長する方針を固めました。
これに伴って、建設費は800億円増え、3200億円になる見通しです。
国土交通省中部地方整備局は、17日、事業費や工程を監査する専門家の委員会にこうした方針を説明した上で、今後、建設費のおよそ3割を負担している愛知県に意見を求めるなど、事業計画の変更に必要な手続きを進める方針です。
◆2022年5月17日 共同通信
ー設楽ダム完成、8年遅れ34年度 国交省、岩盤掘削量増加でー
国土交通省中部地方整備局は17日、建設中の多目的ダム「設楽ダム」(愛知県設楽町)の完成時期が現行計画から8年遅れ、2034年度になる見通しを明らかにした。岩盤掘削量の増加や工事用道路の地滑り対策など新たな工事が必要になったことが主な理由。事業費は約800億円増の約3200億円となる。
同県豊橋市で17日に開いた設楽ダムに関する有識者委員会で報告した。設計段階で想定しなかった地滑りなど追加の安全対策のほか、資材や人件費が物価上昇のため高騰したと説明。働き方関連法に基づき時間外労働や休日作業の見直しも必要になったとした。
◆2022年5月17日 朝日新聞
ー設楽ダム、工期8年延長 事業費も800億円増へ 働き方改革も影響ー
愛知県設楽町で建設が進んでいる「設楽ダム」について、国土交通省中部地方整備局は17日、工期を8年延長し、2034年度に完成する見通しを公表した。新たに地すべり対策が必要となり、ダム本体の掘削量も増えたことなどが要因という。建設費も約800億円増え、総事業費は3200億円になる見通し。
豊橋市で同日開いた「ダム事業費等監理委員会及び部会」で明らかにした。工期延長の背景に、働き方改革が進み、時間外労働や休日作業が見直され、1日の作業時間が減少したこともあるという。
愛知県はこれまで、総事業費約2400億円のうち約3割を負担する予定だった。今回の見直しで、増額分約800億円のうち、県にはさらに292億円の負担が生じる。国は今後、県の了承を求める。
設楽ダムは1973年に、1級河川・豊川の洪水対策や新規利水などを目的に計画された多目的ダム。本体工事は、2020年3月から始まっていた。
鈴木明・中部地方整備局広域水管理官は、部会の冒頭で「事業費の単価の変動や労働条件など環境の変化もあるなか、事業を精査した結果」と説明した。(佐藤瑞季、戸村登)
◆2022年5月17日 読売新聞愛知版
ー設楽ダム 工期8年延長 完成34年度方針 見直しで800億円増かー
設楽町で建設が進められている「設楽ダム」について、国土交通省中部地方整備局は17日、工事の見直しが必要になったとして、工期を8年延長し、完成を2034年度とする方針を明らかにした。これに伴って建設費も従来の2400億円から800億円増の3200億円に膨らむ見通しだ。同局は、費用の一部を負担している県に意見を求めるなど必要な手続きを進め、8月頃には方針を正式決定したいとしている。
設楽ダムは17年に本格的な工事が始まり、26年度の完成を目指して建設が進められていた。
しかし、この日、豊橋市内で開かれた有識者らによる同局の「ダム事業費等監理委員会」で示した計画によると、従来の設計段階では想定できなかった軟弱な地質が確認されるなどし、地すべり対策の見直しが必要となった。また、建設資材の高騰のほか、働き方改革関連法の影響で時間外労働や休日作業の見直しも必要となり、建設スケジュールや建設費を変更した。
工期の延長について、県は「新たな計画を精査し、適正に対応したい」とした。
また、地元の設楽町はダム湖を核とした観光活性化策を検討しており、土屋浩町長は読売新聞の取材に、「工期延長で町の検討内容を見直す必要が出てくるのか、今後の動きを注視したい。見直しが必要ではないものは、予定通りに進めてもらうよう要望したい」と話した。
◆2022年5月17日 毎日新聞中部朝刊
ー愛知・設楽ダムの完成、さらに8年遅れ 事業費800億円増ー
国土交通省中部地方整備局は17日、建設中の多目的ダム「設楽ダム」(愛知県設楽町)の完成時期が現行計画から8年遅れ、2034年度になる見通しを明らかにした。岩盤掘削量の増加や工事用道路の地滑り対策など新たな工事が必要になったことが主な理由。事業費は約800億円増の約3200億円となる。
同県豊橋市で17日に開いた設楽ダムに関する有識者委員会で報告した。設計段階で想定しなかった地滑りなど追加の安全対策のほか、資材や人件費が高騰したと説明。時間外労働や休日作業の見直しも必要になったとした。
◆2022年5月17日 東海テレビ
ー建設費は約3200億円に増える見通し…愛知に建設中の『設楽ダム』国が工期を2034年まで8年延長の方針ー
愛知県設楽町で建設が進められている「設楽ダム」について、国土交通省が工期を8年延長する方針を固めました。
設楽ダムは、2026年の完成を目指して国が建設を進めていて、5年前からダム本体の工事に着手しています。
しかし、設計段階にはなかった地すべり対策や地盤強化の工程が必要となったほか、働き方改革による残業規制の影響などもあり、国交省は工期を2034年まで8年延長する方針を決め、17日に愛知県などに説明しました。
工期の延長で建設費は800億円増え約3200億円になる見通しで、国交省は建設費の3割ほどを負担する愛知県にも意見を聞きながら手続きを進めるということです。
◆2022年5月17日 名古屋テレビ
ー愛知「設楽ダム」完成が8年延長する見通し 事業費は約3200億円にー
愛知県設楽町で建設中の「設楽ダム」の完成が、8年延長し、2034年度完成の見通しとなることがわかりました。
「設楽ダム」は、洪水氾濫や渇水被害などを防ぐため、1978年から建設が始まっています。
17日、国土交通省中部地方整備局と設楽ダムに関する有識者委員会の委員が、建設中の現地を視察しました。
「設楽ダム」は、2026年度の完成を予定していましたが、当初、想定していなかった地滑り対策や労働時間の見直しなどを考慮したことから、計画よりも8年延長して、2034年度完成の見通しになったということです。
また、事業費は、資材価格の高騰などで800億円増額の約3200億円となります。
中部地方整備局は「今後は、事業費の3割を負担する愛知県などと協議し、8月には計画を変更したい」としています。
◆2022年5月20日 東日新聞
ー山村都市交流拠点施設に影響 国交省の設楽ダム工期延長発表/「先を読みにくい」 戸惑う関係者/遠のく従来目標 事業スケジュールも見直しー
設楽町で建設が進む「設楽ダム」の完成に合わせ、東三河広域連合が整備を予定する「山村都市交流拠点施設」は、ダムの工期が2034年度まで8年延長されることになった影響で事業スケジュールの見直しを余儀なくされている。
国土交通省中部地方整備局は17日、豊橋市内で開いた有識者による委員会で、設楽ダム建設現場で掘削量が増えたことへの対応や新たな地すべり対策の必要性、働き方改革に伴う作業時間の減少などを理由に工期延長を明らかにした。当初は26年度の完成を目標に掲げていた。
ダム予定地のすぐ近くでは、同連合が交流拠点施設の整備を計画している。同連合は今年度、施設の規模や具体的な機能、民間活力の導入可能性について検討する基本計画の策定を目指し、プロポーザル方式で業者を募集。すでに選考作業に入っていて来週にもプレゼンテーションを開く予定だった。工期の延長方針を受けて策定業務を中止し、業者におわびしたという。
同連合では、今後の具体的なスケジュールを改めて調整する。これまで通りダムの完成と同時期に施設利用を開始する方向性に変わりはないとしている。
交流拠点施設の整備は、東三河を流れる豊川(とよがわ)の上下流の交流を基本としつつ、域外からの観光誘客につなげる狙いもある。ただ、同連合の担当者は、設楽ダムの完成までに予想される社会情勢の変化も踏まえ「8年は長い。先を読みにくい」と従来目標が遠のいたことへの戸惑いも口にした。
◆2022年5月18日 東日新聞
ー設楽ダム工期8年延長 建設費800億円増/国交省が監理委部会で方針説明ー
設楽町の豊川上流部で建設中の設楽ダムについて、国土交通省は17日、想定以上の工事が必要になったとして、工期を2034年度まで8年延長する方針を明らかにした。建設費用も800億円増え、約3200億円に膨らむ見通し。豊橋市内で同日、中部地方整備局ダム事業費等監理委員会の部会を開き、委員らに説明した。
設楽ダムは堤高129メートルの重力式コンクリートダムとなる予定。16年に告示された現行の建設基本計画では、工期は「26年度まで」、建設費用は「約2400億円」とされていた。
国交省が今回示した資料によると、地質調査などの結果、ダム本体を支えられる強い岩盤までは従前の設計より深く掘る必要があることが判明。これにより本体のコンクリート打設量も、約104万立方メートルから約130万立方メートルに増加する。
また、地滑りの恐れにより工事用道路の構造見直しなどが必要となった。本体打設の開始は26年度、水を実際にためる試験湛水の開始は32年度にずれ込むことになる。
建設費用に関しては、これらの事情に加え▽資機材価格や労務費の上昇(約286億円増)▽ダム湖に沈む道路の付け替え工事における設計・施工方法見直し(約288億円増)▽設備賃借・施設維持などの期間延長(約136億円増)—といった増額要因が見込まれる。
設楽ダムの建設目的は、豊川下流の洪水被害軽減、渇水時の流量確保や農業用水などの補給。現在は、本体の基礎となる岩盤を掘り出す工事や道路付け替え工事が行われている。
工期をめぐっては08年に告示された当初の基本計画では「20年度まで」とされていた。しかし、用地買収や道路工事が始まった09年、民主党への政権交代があり、事業はいったん「凍結」。5年後に自公政権が「継続」を決め、現在の基本計画に変更された経緯がある。
事業効果のできるだけ早い発現図ること大切/設楽ダム建設事業部会で松尾委員長
17日、設楽ダム建設現場の現地視察をした後、中部地整ダム事業費等監理委員会のメンバーらは豊橋市内に移動し、設楽ダム建設事業部会に出席。工期延長と事業費の増額について国交省側から報告を受けた。
報道陣に公開された会議の冒頭、松尾直規委員長(中部大名誉教授)は「ダムは100年先までを見据えた、地域の安全安心と豊かな暮らしを実現するための施設だ」と指摘。その上で「ダム建設事業をいかに進めていくのが適切かを考えることが肝要だ。同時に事業効果のできるだけ早い発現を図ることも大切だ」と述べた。