八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

川辺川の新ダム計画と水没地域の振興策めぐり、五木村議会と熊本県議会の質疑

 さる6月5日、熊本県の蒲島郁夫知事は川辺川ダムの水没予定地を抱える五木村を訪ね、ダム計画と抱き合わせの地域振興策について説明会を開催しました。
 しかし、長引くダム事業によって人口減少と高齢化が進んでいる五木村では、付け焼刃の振興策では将来への展望が見いだせないことから、五木村議会では国と県のなすがままになっているように見える村長に対して、厳しい質問が相次いだようです。

 一方、県議会では蒲島知事が五木村への姿勢について追及されました。蒲島知事は2008年に民意を受けて川辺川ダムの白紙撤回を表明しましたが、2020年の熊本豪雨で国交省の協力を取りつける必要が生じると、あっさりとそれまでの姿勢を撤回し、ダム推進に転じました。その同じ知事が、「責任」、「不退転の決意」などという言葉を繰り返すこと自体、言葉が上滑りしています。

 地元紙の報道をお伝えします。

◆2022年6月13日 人吉新聞
ー促進協副会長“辞退”を ダム巡り村長の姿勢質すー

 五木村議会の6月定例会最終日9日、一般質問があり、流水型ダムに関する村長の姿勢に質疑が相次いだ。
 藤本新一議員は新聞記事を引用し、「ダム建設同意と振興は別として、ダム建設の同意は村の振興策とセットにして論じるものではないとしている。振興は流域治水とは別か」と質問。木下村長は「振興と同意は別というが、今の現状、国、県の事業、予算を踏まえ、切り離しては現実から乖離している」と答えた。
 また、同議員は流域市町村長で構成する川辺川ダム建設促進協議会を巡り、「議会として流水型ダム建設に同意していないが、村長は副会長で促進しており、マイナス面が大きい。村の立場を考えるなら辞退すべき」に対し、木下村長は「犠牲になる上流域の振興を下流域の市町村も一緒に進めるという立場。辞退はない」と姿勢を示した。
 さらに、同議員は「川辺川ダム建設中止の中の副会長だった前村長時代とは違う。現時点の副会長なら村民はダム容認と受け止める」と追及。木下村長は「ダム容認とは一言も言っていない。次期総会で議員の意思は伝えたい」と述べた。

 西村久徳議員は、5日に蒲島郁夫県知事が村民に直接説明した流水型ダム前提の「新たな五木村振興計画」の4つの方向性について、「非常に立派な絵に描いた餅。実現しないものまで並べ、村民が心をひかれるようにできている」として、川辺川ダム問題で揺れる半世紀を踏まえ、「二度とまな板の鯉になってはいけない。国、県のやり方は信用できず、執行部、議会、村民が一体となり、自らが村再生の対策を講じるべき」と質問。
 木下村長は「これから具体的なものになっていけば。村長就任後、コロナ、豪雨でできなかった地区座談会を開く。まな板の鯉を別の角度で見ている。覚悟を決めて何事にも動じず大きな方針に五木独自の枝葉を付けていく」と答えた。

◆2022年6月14日 朝日新聞
ー五木村の振興策に県議「ダム切り離すべき」 知事「同意迫ってない」ー

 川辺川に建設予定の流水型ダムを活用した振興策が議論されている熊本県五木村をめぐって、13日の県議会で「ダム建設の受け入れを条件にした振興策。ダムと切り離すべきでは」と質問が上がった。蒲島郁夫知事は「振興と引き換えにダム建設の同意を迫っていない」と答えた。また、秋ごろまでに振興策を取りまとめるとした。

 五木村は、ダム建設計画で村の一部が水没予定地になっている。蒲島知事は5日に同村を訪れ、ダムを生かした観光振興策など、ダムを受け入れた場合に実施される振興計画案を住民に説明した。

 山本伸裕議員(共産)は、議案などに対する質疑の中で県が示した振興策を取り上げた。2008年に蒲島知事がダム計画の「白紙撤回」を表明したが、再び建設を要望した経緯に触れ、「ダム建設の受け入れを条件にした振興策の提示は、またしても村民に困難と分断を持ち込むのかと怒りの声が出ている」と指摘。

 さらに、「村民から反対されようとも流水型ダムの建設を前提とした振興策を変える気はないのか」と質問した。蒲島知事は「決断を下した私には責任がある。五木村の振興について、責任と覚悟を持って不退転の決意で取り組む」と答えた。(長妻昭明)