富士川水系の雨畑ダムは、駿河湾のサクラエビ不漁をきっかけに環境破壊がクローズアップされた(株)日本軽金属のダムです。
雨畑ダムは一方で、堆砂の進行により、ダム湖上流の集落が水害に見舞われるという問題も抱えています。雨畑ダムの堆砂量は、ダムの総貯水容量の1.2倍と、全国のダムの中でも堆砂が最も進行しているダムの一つです。このため、2019年の水害以降、湛水を停止ししていたのですが、7月1日よりダムの運用を再開するとのことです。
この間、国土交通省が雨畑ダム貯水池の土砂を除去するよう、(株)日本軽金属に対して行政指導を行ってきましたが、上流からは毎年平均50万立方メートルの新たな土砂がダム湖に流入しているとのことで、これまでより除去作業を行っても堆砂量はあまり減らず、焼け石に水という状態です。梅雨末期の豪雨、台風と洪水の危険性が高まる時期、雨畑ダムを運用しても本当に大丈夫なのでしょうか。
富士川水系の環境破壊の問題を追及してきた静岡新聞が、雨畑ダムの運用再開と共に、これまでの関連報道をまとめたページを公開しています。
◆2022年6月22日 静岡新聞
ー山梨・雨畑ダム発電再開へ 3年ぶり、堆砂除去半ばー
発電再開へ 雨畑ダムの堆砂問題おさらい
ダムの総貯水容量に対する堆砂量の割合が、2020年時点で120%に達したことが分かっている日本軽金属雨畑ダム(山梨県)。近隣集落に水害を引き起こしてストップしていた発電が約3年ぶりに再開されることとなりました。山梨県のダムがなぜ静岡県のニュースになるのでしょうか。雨畑ダムの問題点を振り返ります。
〈キュレーター:編集局未来戦略チーム 吉田直人〉
ー山梨・雨畑ダム発電再開へ 3年ぶり、堆砂除去半ばー
日本軽金属雨畑ダム(山梨県)の堆砂問題で、水害を引き起こしてストップしていた湛水(たんすい)と発電が近く再開されることが21日までに、関係者への取材で分かった。同ダムでは堆砂除去を5カ年計画で行う予定だったが、ダムの再稼働を見切り発車する事態に、近くの集落の住民は複雑な表情だ。
ダムは国から土砂撤去の行政指導を受けた直後の2019年8月の台風で、集落に冠水被害などをもたらした。その後、地元の反発を受けて湛水と発電を停止した。ことし7月1日までに湛水を再開し、同日からダム湖と導水管でつながる角瀬発電所が発電開始する。
取材に対し、日軽金は「20~21年の短期計画で300万立方メートルの土砂移動と搬出を行った」と回答。河道を確保したことを再稼働の理由とした。
ただ、ダム上流の雨畑川からは毎年、平均50万立方メートルの新たな土砂が流入する。また、20年11月時点でダムの堆砂率(総貯水容量に対する堆砂の割合)は120%で、1630万立方メートル以上の土砂があった。日軽金は現在の堆砂率を住民にも明らかにしていない。
同社は国に対し、20~24年度に計700万立方メートルの土砂撤去を約束したが、道半ば。周辺の男性は「水利権をまっとうに行使するということだと思うが、地元が埋まらないことを一番に願っている」と淡々と述べた。
どんなダム?
※2019年7月30日静岡新聞朝刊/2021年5月29日あなたの静岡新聞を基に作成
富士川水系雨畑川(山梨県早川町)に日本軽金属が所有する“自家発電”用のアーチ式ダム。同社「三十年史」によると、地元の陳情を背景に1965年着工。「困難な地質条件」のもと2年で完成。日本のアルミニウム製錬の一翼を担った同社蒲原製造所(静岡市清水区)に電力供給。一方、同社などによると、活発な土砂流入で100年分の設計堆積量にわずか10年で達した。
■堆砂率120% 政府答弁書で判明
政府は昨年5月、ダム上流の集落にたびたび水害を引き起こしている実態に鑑み、必要ならダム撤去の指導を行うとの認識を初めて示した。一方で政府は、同社が国の行政指導に基づき2024年度までに計700万立方メートル(東京ドーム5杯分)の堆砂除去を進めていることから現時点でのダム撤去は否定した。
政府は総貯水容量1365万立方メートルの雨畑ダムに対し、20年11月時点で堆砂量は約1631万4千立方メートルに上ることを明らかにし、すでに堆砂率(総貯水容量に対する堆砂量の割合)は120%近くに達していることも答弁書から新たに判明した。
導水管で静岡・蒲原とつながる 濁水が駿河湾へ
※2019年1月1日/12月21日 静岡新聞朝刊を基に作成
国道52号を静岡市清水区から北上すると、山の斜面をはう巨大な銀色の管が所々で姿をさらす。中を通るのは、上流の雨畑ダム(山梨県早川町)などから発電用に取水した水。総延長約50キロ、内径2~6メートルの導水管だ。富士川と支流沿いの水力発電所付近で排水・取水を繰り返しながら、同区蒲原の工場放水路から駿河湾に流れ出している。放水路周辺の海域はサクラエビの産卵場で、漁師から不漁とダムの濁りの関係を危惧する声がある。
アーチ式コンクリート製の雨畑ダム(高さ80・5メートル、長さ147・5メートル)は1967年完成。工場や導水管、ダムの全てを管理する東京都の企業の担当者は「(ダム湖の)ほとんどが土砂で埋まっている」と認める。
堆砂が目立つようになったのは、2011年9月の台風被害以降。付近を糸魚川―静岡構造線が通り、もともと崩れやすい土質もある。決定的になったのは18年秋の台風24号。ベルトコンベヤーの故障などで土砂の搬出は遅々として進まず、ダム湖は灰色に濁るばかり。「匂いがする」と話す住民もいる。「湖底の土砂がヘドロ化している」との指摘も出ている。
日軽金 土砂、5カ年計画で撤去
※2019年12月21日 静岡新聞朝刊から
駿河湾産サクラエビの不漁を契機に注目される雨畑ダム(山梨県早川町)の堆砂問題で、ダムを管理する日本軽金属は20日、甲府市で開いた2回目の雨畑地区土砂対策検討会で、同地区の水害対策を念頭に5年ほどかけ堆積土砂の4割に当たる600万~700万立方メートルの土砂を撤去する方針を示した。同社が堆砂対策を明示したのは初めて。ただ、土砂の搬出先は「探している状況」(敷根功蒲原製造所長)とし、将来的なダムの維持管理の具体策には踏み込まなかった。
ダムは日軽金の自家発電用。取水した水は導水管を通り、複数の水力発電施設を経て静岡市清水区の蒲原製造所放水路から駿河湾奥に注ぐ。放水路周辺の海域はサクラエビの産卵場で、漁師から不漁とダムの濁りの関係を危惧する声がある。
会議の冒頭、杉山和義常務が「住民に多大なる損害を発生させたことをおわび申し上げる」と国や山梨県の関係者らに謝罪した。
会合は非公開で行われ、同社は▽雨畑地区に梅雨までに堤防を造る▽2021年度末までに湖面から露出した土砂300万立方メートルを撤去▽24年度末までに湖内を300万~400万立方メートル掘削-などの計画を示した。約5年間で東京ドーム5杯分の土砂を搬出する計画という。
ダムには、年間数十万立方メートルの土砂が流入するとみられ、同社側はこれについても撤去する意向を示したが、土砂の搬出作業について山梨県の幹部は「ダンプの往来は住民生活に支障を来す。日軽金の100%負担で新たな搬出用道路を造成する必要があるかもしれない」と指摘した。
国は8月、同社に対して堆砂状況を抜本的に改善するよう行政指導。同社はこれまで対応を明らかにしてこなかった。
(「サクラエビ異変」取材班)