2020年7月の球磨川水害では流域住民50人が犠牲となりました。
復興途上の被災地では、流域住民が粘り強い反対運動で一旦は凍結させた国の川辺川ダム計画が復活し、遊水地計画も進められようとしています。いずれも流域の経済、河川環境、地域社会を激変させる巨大公共事業でありながら、治水効果については疑問が投げかけられています。
当事者である現地住民の複雑な心境を伝える記事が配信されています。水没地を抱える五木村の木下村長によれば、水没地域の振興策がダム計画に正式に位置づけられたということですが、八ッ場ダム事業でも見られるように、巨額の税金を投入するダム事業の振興策が本来の地域振興とはかけ離れたものとなるという事例が繰り返されてきました。
◆2022年8月27日 朝日新聞
https://digital.asahi.com/articles/ASQ8W53HHQ89TLVB00N.html
ー豪雨災害から2年 球磨川流域のダム復活と遊水池計画、住民どうみるー
上記の記事より一部引用
●川辺川ダム建設予定地のある相良村の吉松啓一村長
治水対策全般について…「堤防や遊水地の整備など、要望してきたことが決まったことは歓迎する」
川辺川ダム事業について…「全容が見えず、議論する段階に至っていない」
●相良村の川漁師、田副雄一さん
ダム予定地のすぐそばにかかる古いつり橋は無傷で残っていたことから、水害後に国が発表した流量データに疑問を抱き、漁師仲間と独自に調査。
「(国土交通省が発表したように)毎秒3千トンならこのつり橋は水没したはず。実際はそんなに増水していない。現場も見ずに『ダムがあれば被害は小さかった』と言うのは思い込みだ」
「つり橋は動かぬ証拠。真実をもとに治水対策を考えないと、お金をかけて自然を壊してダムをつくっても、何も守れない結果になりかねない」
ー熊本市近郊の出身。団体職員として赴任した人吉市で川辺川の清流に魅せられ、国がダム工事を中止した2009年、「清流が残るなら」と38歳で専業の川漁師に転身。アユやヤマメの漁で生計をたててきた。体が大きく香りがよい川辺川産は東京の高級店に高く売れた。ダムができたら質のよい魚がとれなくなる、と不安でいっぱいだ。
21年夏、漁師仲間とペットボトルの浮きを流して流速を実測し、川幅やつり橋の高さから豪雨時の流量を毎秒1500トン程度と算出。データをもとに国や県に共同検証を求めた。先月の村民説明会でも蒲島知事に直訴したが「やりません」と拒否された。
●市民団体「子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会」代表 中島康さん
(川辺川ダム計画を組み込んだ球磨川水系河川整備計画について)「県民の声を無視して作られた計画」
ー中島さんらは、豪雨被害直後に住民200人に聞き取りするなど犠牲者の死亡状況を独自に調査。「ほとんどが球磨川本流の水位がピークになる前に、支流からの水や山側からの濁流にのまれていた」とし、国交省が「本流の水位を抑える」と説明する流水型ダムの効果を疑問視する。県に対して共同検証を求め、「地元住民にはダム反対が多い」として住民説明会の開催も要望してきたが、いずれも拒否された。中島さんは「国と県は公聴会やパブリックコメントで住民の意見を聞いただけで全く反映していない」と話す。
以下のページには、川辺川ダムの水没地を抱える五木村の木下丈二村長へのインタビュー記事が公開されています。
◆2022年8月23日 朝日新聞
https://digital.asahi.com/articles/ASQ8Q6VTFQ8LTLVB007.html
ー「二度とぶれないで」五木村長インタビューー
上記記事より木下村長の言葉を一部引用(カッコ内は東海による補足説明)
「(川辺川ダムについては)賛成、反対を判断できる材料がない。流水型ダムは洪水時のみ水をためる。では、水が引いたあとどうなるのかや環境影響評価の結果、村振興の具体策、そうした情報がまだない。最終判断するのはそれからだ。」
「これまで、苦渋の決断でダム建設を受け入れ、用地の提供や代替地への住宅移転など全て協力してきた。その結果、多くの離村者を含む急激な人口減少に苦慮することになった。そのさなかに知事の撤回表明を受け、ダムによる振興は不透明になった。このような紆余曲折の歴史を十分踏まえ、(熊本県知事を通して国に提出した意見書には)二度とぶれずに住民に寄り添う対応をしてほしいという思いで意見を書いた。」
(ダム事業で進めてもらいたい水没地域の振興策は)
「都会と違って村には大きな会社もない。産業、教育、子育て、高齢者福祉、トータルで整備して、若い世代が五木村で暮らしていけるようにしてほしい。」
(川辺川ダムについての意見集約について)
「最終的には住民大会を開き、総意を聞く。私も意見を表明するつもりだ。」
「ダムは下流域の人の生命、財産を守り、上流域は水没する。そうした二面性はあるが、一刻も早く安全を、と願う気持ちと、速やかな振興を願う気持ちは一緒だ。
計画のなかに上流域の振興が正式に位置づけられた。住民の不安の解消、そして振興についてはなるべく早く進めてもらいたい。国と県には村の歴史も踏まえ、しっかり取り組んで欲しい。」