2020年7月の熊本豪雨で大水害となった球磨川では、最大支流の川辺川に巨大ダム計画が復活した他、様々な河川事業が行われようとしています。
その一つが中流域の人吉市、球磨村に計画されている遊水地の整備で、約90世帯が移転を迫られています。
巨大土木事業は流域住民の犠牲を伴いますが、それぞれの対策が球磨川の治水にどれほど役に立つのか疑問があります。現地からの報道は、不安を抱えた住民を置き去りにして国策が進んでいる様子を伝えています。
◆2022年10月16日
ー治水のためと言われても…豪雨集団移転に揺れる人吉・大柿地区の住民ー
9月下旬、球磨川が流れる熊本県人吉市の大柿地区の田んぼは、収穫間近の稲穂が秋風に揺られていた。親から受け継いだ田畑で米や野菜を育てる山上修一さん(78)は、2020年の熊本豪雨で全壊した自宅を建て直して1カ月前に戻ってきた。
子供の頃は球磨川で泳いだり、アユやウナギを捕まえたりして遊んだ。教員退職後は農家民宿を営み、コメ作りやシイタケ栽培体験で田舎の魅力を伝えてきた。そんな暮らしが豪雨で一転。全58世帯が全壊し、山上さんも仮設住宅で暮らすことを余儀なくされた。
復旧が進む中、国の治水策の一つに遊水地整備が盛り込まれ、住民には集団移転が提案された。「もう恐ろしい思いはしたくない」など移転賛成の意見に対し、山上さんは「私たちにとって、球磨川は生きる力の源。治水のためと言われても移転には素直に同意できない」。
熊本豪雨を受け、国は氾濫した球磨川沿いに、減災のため大雨時に河川の水を一時的にため込む遊水地を整備する計画に着手。大柿を含む球磨川流域の3市村4地区で整備を目指す。
市は国の防災集団移転促進事業を用いて高台に宅地を整備し、大柿の全世帯を移転する計画を住民に提示した。減災効果は期待できるが、代々耕してきた田畑は遊水地の犠牲になる。
大柿では住民の8割が移転を希望する一方、すでに住宅を再建した住民や耕作を再開した農家は反対姿勢を崩していない。集団移転実施には対象地区の全世帯の同意が必要。これまでの説明会では意見が分かれ、先行きは混沌(こんとん)としている。
一帯は豪雨で最大約7メートル浸水し、住宅の2階まで水没する被害を受けたが、氾濫前に住民たちが声をかけ合って高台へ避難し、一人の犠牲者も出さなかった。山上さんは「伝統行事や集落営農を通じて地域のつながりが深かったからこそ、犠牲者ゼロにできた」と強調する。
行政の求めに応じて別の土地に移転すれば、そのつながりもバラバラになってしまう。「大柿でなぜ犠牲者が出なかったのか、行政はもっと検証してほしい。命を守る手段はハード整備だけじゃない」(中村太郎)
2022年10月16日 熊本日日新聞
ー球磨村かさ上げ、24年春完了 神瀬地区宅地、最大2.9メートル 球磨川治水で国交省ー
国土交通省八代河川国道事務所は15日、2020年7月の熊本豪雨で氾濫した球磨川の治水対策として、球磨村神瀬地区の中心部で計画する宅地かさ上げ事業の現地説明会を開いた。23年2月に盛り土工事に本格着手し、24年3月の完了を目指すと明らかにした。
かさ上げ範囲は中心部4集落の約2万平方メートル。住宅や倉庫など8戸を含む宅地や道路を現在の地盤から最大2・9メートル高くする。かさ上げの高さは、上流の川辺
川に建設する流水型ダムで見込まれる水位低減効果を差し引いた上で算出しており、ダムを含む治水対策が完成して初めて熊本豪雨と同規模の洪水に対応できると説明している。
現地説明会には約60人が参加。同省が一部村有地を先行して高さ2・6メートルに盛り土した現場を公開し、中心部のかさ上げ完了後のイメージ映像を見せた。
豪雨で自宅が全壊し、同村渡の仮設住宅に暮らす建築業男性(48)は「予想より工期が早くて安心した。中心部のかさ上げが完了すれば、若い人が戻ってきたいと思うのでは」と期待した。一方、自宅を失い人吉市内で生活している女性(74)は「かさ上げしても水害が怖くてここには住めない」として、渡の災害公営住宅に入居を希望した。(中村勝洋)
下の画像=国土交通省八代河川国道事務所ホームページより記者発表資料
「宅地かさ上げ事業」の現地説明会を開催します!」(2022年10月11日)
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