台風19号で被災した千曲川、大量の掘削土の行き先見通せず

 2019年10月の台風19号豪雨では長野県を流れる千曲川の穂保(ほやす)地点で堤防が決壊し、凄まじい氾濫になりました。濁流が家や車を押し流し、被災直後は6000人以上が避難しました。千曲川支川・浅川との合流点周辺が氾濫域になりました。

 田中康夫知事による2001年の「脱ダム宣言」をきっかけとして、長野県では県営9ダムが中止の方向になりましたが、浅川ダムはダム推進派の勢力が強く、その後就任した村井仁知事の時代(2006~2010年)に本体工事が始まり、阿部守一・現知事が2011年11月に浅川ダムの建設続行を決定し、2017年にダムの運用が開始されました。
 浅川ダムは総貯水容量110万㎥、380億円の事業費(国庫補助率50%)が投じられました。浅川ダムの主目的は千曲川の治水ですが、集水面積は15.2㎢しかなく、千曲川の立ケ花地点(決壊地点のすぐ下流)の流域面積6442㎢の約1/400と微々たるもので、もともと千曲川の治水対策として無意味なものでした。
 浅川ダムの建設に投じた巨額の公費が千曲川の治水対策に使われていれば、千曲川の状況が随分改善されていたように思います。

 2019年の水害後、千曲川では治水対策の柱の一つとして河道に堆積した土砂を掘削する作業が行われてきましたが、掘削残土の場所確保が難しくなっているという問題が地元紙で取り上げられています。千曲川の堤防が決壊した重要な要因の一つは、上流から運ばれた土砂によって上がった河床が放置されてきたことにありますので、河道掘削は必須の治水対策です。掘削残土の場所の確保にも公金が必要です。

◆2022年10月2日 信濃毎日新聞
https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2022100200061
ー山間地多い自治体「場所を確保できない」 千曲川掘削の残土ー

 台風19号など近年の水害の激甚化に伴い、国はダムと堤防が主な治水対策から、河道掘削や遊水地などを整備して洪水を防ぐ「流域治水」に方針転換している。しかし、山間地の多い千曲川沿いの市町村からは「残土の置ける平たんな土地を十分に確保できない」などと声が上がる。国には残土置き場を安定的に確保する仕組みづくりを合わせて進めることが求められる。

 中野市立ケ花の狭窄(きょうさく)部ではこれまでに9万9千立方メートルの残土が発生。国交省千曲川河川事務所(長野市)によると測量の結果、当初の倍以上の掘削が必要になった。「予想以上に土砂がたまっていることもあり、どれだけの量を掘削するか見通しをつけるのは難しい」としており、長野、新潟両県合わせて281万立方メートルと試算する掘削量はさらに膨らむ可能性もある。

 アンケートで今後の土砂の受け入れ予定がないと回答した9市町村の多くは「土砂を受け入れるような開発予定、大規模工事がない」と回答。「急傾斜地が多く条件を満たす場所がない」(飯山市)、「町の面積がそもそも狭く土砂を受け入れる余地がない」(小布施町)といった声も上がった。山間地は土石流が発生する危険な地域も多く、受け入れは難しいとする市町村もあった。

 上田市の担当者は「市が発注する市道などの建設で発生する残土の受け入れ先も見つからない状況」とこぼす。

 同事務所は、市町村の産業団地などの造成以外にも堤防工事などで残土を活用するとするが、十分な置き場は確保できていないのが現状だ。

https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2022100200059
ー大量残土、行き先見通せず 台風19号災害受けた千曲川掘削 「受け入れ」2市のみー

■9市町村「受け入れ予定なし」 11市町村アンケート
 2019年10月に千曲川流域に甚大な被害をもたらした台風19号を受け、国が治水対策として進める河道掘削を巡り、信濃毎日新聞は1日までに、国が掘削残土の受け入れを呼びかけている長野市や上田市など11市町村にアンケートを行った。現在残土を受け入れているのは須坂市と千曲市にとどまり、長野市など9市町村は「予定はない」と回答した。
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 千曲川の河道掘削は、台風19号を受けた「信濃川水系緊急治水対策プロジェクト」の柱。国土交通省北陸地方整備局(新潟市)は新潟県分を含め、掘削で生じる残土を東京ドーム2・2杯分に当たる281万立方メートル(今年6月末時点)と試算している。各地で残土の処理が問題となる中、受け入れ先の安定確保には程遠い状況がアンケートで浮かんだ。

 同省千曲川河川事務所(長野市)は台風19号と同規模の洪水が起きても堤防から越水させないよう、狭窄(きょうさく)部のある飯山市戸狩と中野市立ケ花、川幅が狭い長野市篠ノ井で掘削を進める。戸狩は2024年度、他の2カ所は27年度までの完了予定。

 同事務所によると、立ケ花は全体の5分の1の工程を終え、今年3月までに済ませた掘削で生じた残土は9万9千立方メートルに上った。他の2カ所は未集計。

 現在呼びかけの対象としているのは上田市、埴科郡坂城町、千曲市、長野市、須坂市、上高井郡小布施町、中野市、飯山市、下高井郡木島平村、野沢温泉村、下水内郡栄村。残土置き場までの輸送費は国負担で、「費用がかかるので上田市以北の範囲までしか運べない」とする。

 アンケートや同事務所への取材によると、過去に受け入れの実績があるのは長野市と千曲市、坂城町。産業団地造成などで千曲市は約13万3千立方メートル、坂城町は約6900立方メートルを既に受け入れた。現在受け入れているのは千曲市と須坂市で、産業団地や須坂長野東インターチェンジ(IC)周辺の開発用地の造成向け。受け入れ可能な残量は千曲市約2万立方メートル、須坂市2万5千~3万立方メートルという。千曲市は、屋代地区の開発計画が具体化すれば追加受け入れの可能性がある。

 千曲、須坂両市を合わせると残量は約4万5千~5万立方メートル。現時点で具体的に見通しが立つのは、3月までに立ケ花で生じた残土の半分程度となる。同事務所の谷口和哉副所長は「各市町村に担当者がことあるごとに受け入れをお願いしている」と話している。

 残土の処理を巡っては静岡県熱海市で昨年7月、不適切な盛り土が崩落し、土石流が発生。台風15号による大雨で9月24日に土砂崩れが起きた浜松市でも起点に盛り土があった可能性が浮上した。地域から向けられる目が険しさを増していることも、受け入れを一層難しくさせている。
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■計画性持って粘り強く
 国土問題研究会副理事長で京都大の奥西一夫名誉教授(水文地形学)の話 掘削残土は低地のかさ上げに使えたら都合がいいが、人が住んでいる土地をかさ上げするの技術的、社会的に難しい。社会的合意も必要で時間がかかり、計画性を持って粘り強くやらないといけない。抜本的な解決策はなく、国は目先の残土処理だけでなく国土を良くする視点が必要だ。

https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2022100200062
ー民間公募、国は拡大を図るが… 千曲川掘削の残土ー

 国と長野市は7月、市内で掘削残土の受け入れを希望する個人や団体、企業の公募を始めた。市は「受け入れ先の確保は治水対策の進捗に大きく影響する」(荻原健司市長)との認識だが、受け入れに至った事例は現時点でない。国交省千曲川河川事務所(長野市)が「長いスパンで考えたい」と他市町村に広げることを検討しているのに対し、アンケートで民間公募をする考えが「ある」と答えた市町村はなかった。

 長野市の場合、土石流危険区域や地すべり危険箇所などに指定されていないことが条件。受け入れ先が市内で、販売を目的としないこと、受け入れられる量が1カ所当たり5千立方メートルを超えることも満たす必要がある。公募期間は2027年9月まで。

 アンケートでは、国が残土の受け入れを呼びかけている長野市や上田市など11市町村に対し、管内での活用について民間公募を行う考えがあるか尋ねた。しかし、既に実施しているとした長野市以外では須坂市が「未定」とし、あとの9市町村は「ない」と回答した。

 理由について、中野市の担当者は「土砂の受け入れや活用を民間に呼びかけるにも土砂災害の恐れや住民同意のことを考えると一定の基準が必要だと思う」と話している。