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天竜川水系のダム、流入土砂に埋もれるダム機能、洪水調整に支障の恐れ

 近年の気候危機による洪水の頻発は、ダムへの堆砂の進行に拍車をかけています。ダムに土砂が大量にたまると、本来は洪水を軽減するために開けておいた「治水容量」が減少し、治水ダム本来の機能が果たせなくなります。また、戦後まもなく大量につくられた発電を主目的としたダムも、堆砂の進行により水害のリスクを高める心配があります。

 八ヶ岳に発し、諏訪湖を経て太平洋にそそぐ天竜川水系は、わが国でも特に急峻な地形を流れ下るため、大量の土砂が供給されることで知られています。第二次大戦後、天竜川水系に幾重にも建設されたダムが深刻な堆砂問題を抱えているということです。以下の報道によれば、その解決策として、上流からの土砂がダム湖にこれ以上流入しないように、ダム湖の上流から下流へ土砂を迂回させるバイパストンネルを設ける事業が進められているということですが、事業費がかさむ上、その効果はいまだ未知数で、根本的な解決策には遠いようです。

◆2022年9月18日 信濃毎日新聞
https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2022091800322
ー流入土砂に埋もれるダム機能 天竜川水系の小渋・県営片桐、洪水調整に支障の恐れー

  県内各地のダムで、貯水池に流入してたまった土砂(堆砂(たいさ))が増え、洪水調節機能に支障が出る懸念が強まっている。国土交通省が8月に発表した調査結果によると、天竜川水系の小渋ダム(下伊那郡松川町・上伊那郡中川村境)と県営片桐ダム(松川町)の堆砂量は洪水調節機能が低下しかねない水準で、特に小渋ダムは対策が追い付いていない。堆砂が増える背景には、近年頻発する豪雨もありそうだ。国交省や県は土砂の掘削、除去に力を注ぐが、流入量が上回り、出口は見えない。(山本純哉)           ◇

■除去しても上回る流入量
 16日午後1時過ぎ、小渋ダムの上流側の下伊那郡大鹿村に位置する貯水池は灰色の土砂に覆われ、「湖底」がむき出しになっていた。河川から流れ込み、たまって積み上がった土砂が一面に広がる。この日もバックホー数台が掘削し、ダンプカーが運び出していたが、国交省天竜川ダム統合管理事務所(中川村)の桑原幹郎管理課長は「このペースだと、いずれダム湖全てが土砂で埋まってしまいかねない」と危機感をあらわにする。

 1969(昭和44)年完成の小渋ダムは、治水やかんがい、発電に利用される多目的ダムだ。貯水池を水位で3層に区分し、それぞれ役割を定めている=イラスト。治水で重要なのは上部の「洪水調節容量」。豪雨時は下流の洪水防止を目的に水をためなければならないため、平時は空けている。堆砂が増えると、ためられる水量は減り、治水の機能は低下する。

 同ダムの総貯水容量は5800万立方メートルで、うち洪水調節容量は3530万立方メートル。これに対し堆砂量は470万立方メートルで、国交省が機能に影響がないと見込む量を150万立方メートル超えている。これを減らそうと年間最大10万立方メートルの掘削、除去を続けているが、堆砂は増える一方だ。
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 一番の問題は土砂の流入量の多さ。同事務所によると、2020年まで3年連続で掘削量の10倍以上の土砂100万立方メートル超がダム湖に流れ込んでいる。2年連続で200万立方メートルを超えた1982(昭和57)年、83年に次ぐ水準だ。

 伊那谷では近年、河川や道路が崩れた2020年7月、住宅浸水もあった21年8月などの豪雨が目立ち、桑原課長は「ダム湖への土砂の流入量にも影響している」。ダムを迂回(うかい)して土砂を下流に流すバイパスも設け、16年に運用を始めたが、20年の豪雨による出水で破損。現在は補修中で機能を果たしていない。

 掘削量を増やそうにも、確保できる搬出業者やダンプカー、作業できる時期は限りがある。桑原課長は「一筋縄でいかない」と話す。
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 ダムの堆砂量の調査は、国交省が毎年度末を基準に実施し、翌夏に発表。今回は全国573基のうち、洪水調節機能が低下しかねないダムが23基あり、県内では小渋ダムと県営片桐ダムが該当した。

 総貯水容量184万立方メートルの片桐ダムは土砂の掘削や搬出を進めた結果、現在は基準を1千立方メートル下回るが、いつ上回ってもおかしくない。同ダム事務所の担当者は「まだかなりの量があり、2倍以上のペースで取り除きたいが難しい」と漏らす。

 県河川課の土屋博幸企画幹は「どんどん土砂が入ってきて、掘削が非効率になってしまうなら、土砂をバイパスで流すなど再生事業の検討が必要となる」とする。豪雨は全国で頻発しており、天竜川ダム統合管理事務所の桑原課長は「日本中のダムで同じような事態が増えていくのではないか」と懸念した。
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豪雨頻発、対策は年々困難に
 県内では、当初の予想を上回って堆砂が進んでいるダムが目立つ。ダムは、建設段階で流域の地形や地質を基に100年分の「計画堆砂量」を見込んでいるが、国土交通省の8月のまとめによると、県内では小渋ダムと片桐ダムを含む計7基=表=が既に超過。5年前と比べて3基増えた。全国で超過した66基の1割を占め、47都道府県で香川県と並んで最多だった。

 山に囲まれ、険しい地形が多い長野県内はダム湖に土砂が流れ込みやすい。県河川課は、豪雨で流域が荒れると想定以上に土砂が入り込むとし、「計画時点での知見に限界があった」と認める。

 国交省は県内のダムについて「恒久的な堆砂対策で先行している」と説明。県営松川ダム(飯田市)では、約182億円をかけて「ダム再開発事業」を進めており、たまった土砂の除去だけでなく、土砂がたまらないようダムを迂回して下流に送る「土砂バイパス」が2016年に完成した。

 県営の裾花ダムと奥裾花ダム(ともに長野市)でも、20年度から計約710億円をかけた再生事業に取り組み、バイパスを造る計画。美和ダム(伊那市)は、土砂を一時的にためる施設「ストックヤード」とバイパスを設けている。

 ただ、建設費が約38億円だった松川ダムをはじめ、いずれも対策費用は当初造るのに投じた額を大幅に超える。再生事業を進めるとしても、既にある堆砂は掘削などで取り除く必要がある。環境負荷などを考えると、現在あるダムの上流部に土砂の流入を防ぐダムを新設するのも難しい。

 国交省は「今あるダムの機能をしっかり延命させるのが基本だ」(河川環境課)とする。ダムの「経年劣化」を加速させる堆砂。気候変動による豪雨が頻発する中、対策は年々困難になっている。