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名古屋市 河村市長 撤退宣言から一転容認へ 徳山ダムから水引く木曽川導水路計画

 岐阜県の徳山ダムから名古屋市などに揖斐川の水を引く木曽川導水路事業について、名古屋市の河村たかし市長がさる14日、容認を表明したことが大きく報道されています。
 14年前の撤退表明から180度の方針転換を地元の中日新聞は一面トップで報じました。(画像=右下)
 
 独立行政法人・水資源機構(旧・水資源開発公団)が揖斐川に2008年に完成させた徳山ダムは、総貯水容量が全国一の6億6000万㎥と、八ッ場ダム(1億750万㎥、全国50位)の6倍超です。ところがダム完成後、都市用水の供給を主目的の一つとしている徳山ダムの水は、ほとんど使われずにきました。

 愛知県と名古屋市が徳山ダムの水を利用するためには、揖斐川と木曽川を結ぶ導水路をつくった上で木曽川から取水しなければなりません。全長44キロメートルにも及ぶ導水路は、「2008年に事業費約890億円を国と東海3県、名古屋市が負担することで合意し、15年度に完成予定だった」ものの、水需要は減少の一途をたどっていることから、「09年4月に初当選した河村市長が「水は余っており、導水路は不要と撤退を表明。当時の民主党政権が事業を凍結」(2/15付け読売新聞)しました。

 河村市長は今も徳山ダムは無駄だったと認めつつ、ダムを「造ってまったで」(東海テレビ)使わなければという理屈で導水路事業を認めるとのことです。実際、「名古屋市によると、徳山ダムの総事業費は約3300億円。そのうち市負担分は約525億円…2030年度までに支払いを終える予定」、「維持費として毎年およそ2億円の負担が生じている。」(2/14付け朝日新聞)ということです。しかし新たに導水路事業を行うことになれば、市の負担金は130億円に上ります。まさに”コンコルドの誤謬”です。

 2000年代、ムダな公共事業への世論の批判を背景に、一旦は凍結された大型事業が復活する逆流現象は、球磨川水系の川辺川ダム、淀川水系の川上ダム、大戸川ダムに続き、木曽川導水路事業にも波及してきました。

◆2023年2月14日 東海テレビ
https://www.tokai-tv.com/tokainews/feature/article_20230214_25281
ー「造ってまったで」 方針転換の真意は… 名古屋市長が木曽川導水路の事業計画認める 就任以来「水余り」と反対ー

◆2023年2月14日 CBCテレビ
https://news.yahoo.co.jp/articles/b7989b9271092cbd95c4e4a9641a5600ba838559
ー「増税はしないが、水道料金への上乗せは…」 木曽川導水路事業 河村市長が一転して容認へー

◆2023年2月14日 朝日新聞
https://digital.asahi.com/articles/ASR2G4VPHR2GOIPE00J.html?pn=4
ー河村・名古屋市長、木曽川水系連絡導水路の建設を容認 撤退から一転ー

◆2023年2月14日 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20230214/k00/00m/010/098000c
ー徳山ダム導水路建設 河村たかし名古屋市長、一転認める意向ー

◆2023年2月15日 読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/local/chubu/news/20230215-OYTNT50000/
ー徳山ダム導水路 名古屋市が一転容認ー

◆2023年2月15日 朝日新聞
https://digital.asahi.com/articles/ASR2G6R8TR2GOIPE002.html?pn=6
ー河村市長、導水路建設事業を一転容認 14年前に「水余り」主張もー

◆2023年2月17日 NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230217/k10013983441000.html
ー「木曽川導水路」建設計画 斉藤国交相“関係自治体の合意を”ー

 岐阜県の徳山ダムから木曽川に水を引き入れる導水路の建設計画をめぐり、計画に反対していた名古屋市の河村市長が今週、一転して計画を容認する考えを示したことについて、斉藤国土交通大臣は、まずは関係する自治体が検討する場で合意を得る必要があり、その検討状況を見守りたいという認識を示しました。

「木曽川導水路」は、水道用水の確保や木曽川の渇水対策などを目的に、水資源機構が国から引き継いだ建設事業です。

名古屋市の河村市長は市長に初当選した2009年、国にこの事業の中止を求め、当時の民主党政権が事業の見直しの対象として凍結されたままになっていましたが、河村市長は今月14日、一転して計画を容認する考えを明らかにしました。

これについて斉藤国土交通大臣は17日の記者会見で「関係する自治体が中心となって、この事業の必要性について検討する場があり、そこで合意を得ることがまず第一だ。その場での検討状況を見守りたい」と述べました。

そのうえで「地元自治体が入っているそうした検討の場で国土交通省の考え方を丁寧に説明しながら、合意形成を図っていきたい」と述べました。

◆2023年2月17日 中日新聞社説
https://www.chunichi.co.jp/article/637352?rct=editorial
ー導水路容認 市長の独断では進まぬー

 唐突な方針転換との印象を受ける。国などが三千三百億円を投じて揖斐川の上流に完成させた徳山ダム(岐阜県揖斐川町)の水を木曽川まで運ぶ導水路事業で、名古屋市の河村たかし市長が方針を一転し、建設容認を明らかにした。
 導水路の総事業費は八百九十億円。国と愛知、岐阜、三重県、名古屋市が負担し、二〇一五年度に完成予定だったが、河村市長が〇九年に撤退を表明。当時の民主党政権は他のダム計画と合わせて事業を凍結し、現在に至っている。
 市長がいったん撤退を決めた背景には「水余り」の実態がある。徳山ダム建設に市は五百億円以上を負担して水利権を得たが、その水を運ぶ導水路も含め、前提になったのは高度経済成長期の水需要予測だ。市の水需要は一九七五年度をピークに減り続け、最近は、木曽川水系に既に持つ水利権の半分も使っていない。九四年には名古屋市なども深刻な渇水に見舞われたが、「百年に一度」とも言われる異常渇水に備えて、市が導水路整備に百三十億円を投じる必要があるのかという根本的な問いになお答えは出ていない。
 市長が言うように、災害の激甚化で状況が変化したのは確かだ。同じく二〇〇九年に凍結された川辺川ダム(熊本県)は豪雨で下流域に甚大な被害を出した末、二〇年に建設へと転じた。大戸川ダム(大津市)も二一年に凍結が解除された。流域全体であらゆる減災策を講じる「流域治水」や、豪雨に備えたダムの事前放流は近年、浸透しつつある考え方だ。
 河村市長は、導水路ができれば▽揖斐川の水を頼りに、木曽川上流ダムの事前放流がしやすい▽市中心部を流れる堀川の水質浄化が可能▽良質とされる揖斐川の水を飲める−という三点を挙げ、国に提案したいとするが、果たして巨額の負担に見合う利点なのか。市長の独断ではなく市民を巻き込んだ十分な議論が欠かせない。
 市長が凍結のきっかけをつくった事業であり、東海三県にも丁寧な説明が必要なのは当然だが、国が凍結の姿勢を変えるかは不透明だ。凍結後も国が継続する導水路計画の再評価で、市長提案を俎上(そじょう)に載せるとしても、費用対効果などを検証し直すべきだろう。