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発がん性疑い「PFAS」横田基地近くの井戸水で都内最高濃度 

 東京多摩地域の地下水から有毒な有機フッ素化合物(PFAS)が高濃度で検出されている問題について、東京新聞が大きく取り上げました。調査データ延べ3000件分を分析した結果、横田基地の東側では西側より検出値が高いことが明確になり、米軍基地が汚染源である可能性がさらに高まったとのことです。
 東京都内の地下水は、河川と同様、西から東に流れています。地下水は飲用水としても利用されていることから汚染が注目されやすいのですが、地下水汚染は土壌汚染に繋がりますので、地下水を引用しなければよいという問題ではありません。
 また、米軍基地によるPFAS汚染問題が先に露見した沖縄県では、2016年の県による検査で河川の汚染も明らかになっています。汚染地域の河川水の水道利用を制限する方策がとられているとのことですが、東京都を流れる河川水はどうなっているのでしょうか?

 なお、東京都の水道の地下水使用状況については、こちらのページをご参照ください。
 

◆2023年5月12日 東京新聞
https://www.tokyo-np.co.jp/article/249341
ー発がん性疑い「PFAS」横田基地近くの井戸水で都内最高濃度 暫定指針値の27倍 本紙が調査データを分析ー

 東京・多摩地域で水道水源の井戸水が発がん性が疑われる有機フッ素化合物(PFAS(ピーファス))で汚染されている問題で、米軍横田基地(東京都福生市など)近くの井戸水から2018年度に高濃度のPFASが検出され、国の暫定指針値(1リットル当たり50ナノグラム)の27倍とこれまでの都内の最高値であることが分かった。本紙が、都と国による都内の井戸水の調査データ延べ約3000件分を分析した。汚染源として基地が浮上する中、専門家は「可能性がさらに高まった」と指摘する。(松島京太)

PFAS 泡消火剤の成分やフライパンの表面加工などに使われてきた有機フッ素化合物の総称。その一種のPFOSやPFOAなどは人体や環境への残留性が高く、発がん性やコレステロール値上昇など健康被害のリスクがあるとして国際的に規制が進む。日本では製造や販売が禁止され、2020年に暫定目標値や指針値として、PFOSとPFOAの合計値を水道水や地下水1リットル当たり50ナノグラム以下と設定した。

◆1000件が指針値上回る


 都水道局と環境局、福祉保健局、環境省が公表している05〜22年の井戸水の調査結果と、井戸が個人所有であることを理由に非公表の調査結果を情報公開請求し、分析した。
 指針値を上回ったのは約1000件。横田基地東側の立川市にある「横田基地モニタリング井戸」で18年度、これまでの都内最高値となる1リットル当たり1340ナノグラムのPFASを検出した。市内では同1000ナノグラム前後の地点が複数あった。

 基地東側の武蔵村山や国分寺、国立市などでは同500ナノグラムを上回り、比較的高い傾向。一方、基地西側の福生市や羽村市、瑞穂町などは低かった。
 都水環境課によると、都内の地下水はおおむね西から東に流れている。PFASに詳しい京都大の原田浩二准教授(環境衛生学)は「横田基地が汚染源になっていること以外、原因の説明がつかない」と指摘。検出時期が古い地点でも「PFASは土壌中で長期に残留するため、過去の濃度から大きく下がっていることはない」と話した。
 横田基地広報は本紙の取材に「外部機関の調査について言及することはできない」とメールで回答した。

 都化学物質対策課の担当者は「都内全域の状況を把握するためデータを集めている段階で、横田基地を汚染源とするにはデータが足りない」と答えた。
 モニタリング井戸は、1993年に基地で起きた燃料漏出事故を受けて都が設置。私有地にあり、都は詳しい住所を情報公開で明らかにしていない。飲み水として使われていないことを理由に、18年以降は調査をしていないという。
 都の調査では、町田市で10年に1リットル当たり約5800ナノグラムを検出。だが周辺で他に高濃度地点がなく、担当者が「現実的な数字ではない」と誤判定の可能性を示唆したため、本紙は参考値として分析から外した。
◆調布ではPFOAの数値突出 基地以外の汚染源か
 東京都や環境省が2005〜22年に実施したPFAS(ピーファス)に関する井戸水の調査で、調布市の井戸からPFASの1種のPFOA(ピーフォア)が高濃度で検出されていたことが、本紙のまとめで分かった。専門家は、PFASが高濃度で検出された立川市内と著しく成分が異なるため、米軍横田基地(福生市など)とは別に、調布市周辺にPFOAの汚染源がある可能性を指摘する。(松島京太)

 PFASの都内最高値が18年度に検出された「横田基地モニタリング井戸」(立川市)では、PFOS(ピーフォス)が1リットル当たり1200ナノグラムと高い一方で、PFOAは同140ナノグラムだった。
 調布市内でPFASの最高値を検出した井戸は、19年度の調査でPFOAが同403ナノグラム、PFOSは同153ナノグラムだった。
 都などが調査した約3000件から、PFOAの値が同250ナノグラムを超えた井戸を抽出すると、9件中7件が調布市内で、他の2件は立川市と渋谷区だった。調布市を流れる地下水の下流域に当たると考えられる狛江市でも、PFOAの値が高い傾向が見られた。
 高濃度が検出された調布市内の井戸は、調査結果に明記された深さが5メートルと浅い。京都大の原田浩二准教授(環境衛生学)は「浅い場所を流れる地下水は近くで起きた汚染の影響を受けやすいため、付近に汚染源があるのではないか」と分析する。
 PFASを使用する大規模施設として、調布市内には都が運営する調布飛行場がある。飛行場によると、09〜13年にPFOSとPFOAを含む泡消火剤を、13年以降はPFOAを含む泡消火剤を設置。ただ過去に漏出事故の記録はなく、消火訓練では水を使用しており、担当者は「関連性は低い」としている。
 製造工程でPFASを使用する周辺の半導体製造工場も取材に、「下水に適切に排出しており、汚染源である可能性は低い」と回答した。

ー汚染源を調べたいのに…PFAS米軍基地内調査、地位協定の壁 「都民の健康より米軍ファースト」と批判もー
 東京都内で都や環境省がPFAS(ピーファス)濃度を調べた井戸水の膨大なデータは、米軍横田基地(福生市など)が汚染源である可能性を強く示す。住民の健康を守るべき都は「日米地位協定」を理由に、基地への立ち入り調査はできないとして消極的だ。こうした及び腰の姿勢に、専門家から疑問の声が上がる。(松島京太)
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 日米地位協定 在日米軍の日本国内での権利を定めた取り決め。旧日米安保条約に基づく日米行政協定を改め、1960年の安保条約改定とともに発効した。米側に米軍基地の独占的な管理や米軍関係者による公務中の犯罪の裁判権など特権を認めている。米軍側が国内で事故や事件を起こしても、日本側は十分な調査や捜査ができないことが問題となっている。

過去にも米軍基地の環境汚染、日本後手
 「米軍側から報告があった時しか立ち入り調査ができないと、国から聞いている」。本紙がまとめた都内のPFAS汚染の傾向を示すと、都の担当者は基地を調査できない理由をそう答えた。地位協定で日本の関係機関は、米軍基地に許可なく立ち入ることはできない。協定で「排他的使用権」と呼ばれる特権が米軍側に認められているからだ。
 過去にも米軍基地による環境汚染に、日本側の対応は後手に回った。
 米軍嘉手納基地(沖縄県嘉手納町など)から1986年に有害物質のポリ塩化ビフェニール(PCB)が大量に漏出した際、米軍からの通報はなく、その後に米下院の報告書で発覚した。横田基地周辺では1993年の航空燃料漏出事故で地下水が汚染されたが、その後に起きた約90件の燃料漏出事故が周辺自治体に通報されていなかった。90件の漏出事故について、立ち入り調査もできていない。
 こうした問題を受け、日米は2015年に地位協定を補完する「環境補足協定」を結び、「立ち入り調査」を明記した。ただ、調査の申請条件は「環境に影響を及ぼす事故(漏出)が現に発生した場合」とされた。米軍側の通報を受けて日本側が初めて調査を申請できる仕組みで、米軍次第の実態は変わっていない。
 横田基地ではPFASを含む泡消火剤が漏出したと、18年に英国人ジャーナリストが報じた。しかし、米軍から日本側にPFAS漏出の事故報告はない。東京・多摩地域に広がるPFAS汚染を誰が引き起こしたのか。横田基地の「容疑」は濃厚にもかかわらず、日米両国とも原因究明に消極的な姿勢が続いている。

◆識者「基本的には日本政府の交渉姿勢の問題」
 米軍の通報なしでも日本側が調査に入った例もある。21年、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)に国と県が立ち入り、基地内の貯水槽のPFAS汚染水を調べた。汚染水があるとの情報に基づき、県などが米軍と交渉してこぎ着けた。
 今年3月の参院特別委員会で、林芳正外相は「米側から通報がない場合でも、米軍施設に源を発する環境汚染が発生し地域社会の福祉に影響を与えていると信じる合理的理由のある場合は、立ち入り調査の申請が可能」と答弁。ただ沖縄県の調査は米軍が認めた場所に限られ、課題を残した。
 日米地位協定に詳しい沖縄国際大の前泊博盛教授(日米安保論)は、多摩地域のPFAS汚染について「基本的には日本政府の交渉姿勢の問題。『日米の信頼関係を損ねる』と強く要請すれば調査はできるのではないか」と指摘。都に対しても「データを持っているなら横田基地に説明を求めるべきだ。このままでは、都民の健康より米軍の権利を優先する『米軍ファースト』だ」と批判する。

◆2023年5月15日 沖縄タイムズ
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1151475
ーまだ梅雨入りしない沖縄 渇水になると…PFAS汚染の川から取水を増やす可能性も 気をもむ県ー

 沖縄では日本復帰以降、ダムなどの水源開発が進み、断水の心配もなくなった。県内の今年1月以降の降水量は平年比の6割程度だが、昨年の雨の“貯金”でダム貯水率は安定している。一方で、復帰から半世紀がたち、有機フッ素化合物PFAS(ピーファス)の水汚染という新たな水問題が県民を悩ませている。県が負担する対策費は年々膨らみ、本年度は5億円以上になる試算だ。また現在、汚染がある河川からの取水を制限しているが、県は観光客の増加や天候次第での取水の制限解除も視野に、遅い梅雨入りに気をもんでいる。(政経部・東江郁香)

 沖縄では、空梅雨や水不足で制限給水(断水)に悩まされた歴史がある。復帰を皮切りにダムや海水淡水化施設の整備が進み、1994年3月を最後に断水問題は改善された。

 だが2016年1月、県の調査で、米軍基地周辺を流れる本島中部の河川や湧水のPFAS汚染が明らかになった。中には、那覇市など県内7市町村に水を供給する北谷浄水場の取水源も含まれていた。

 県は沖縄防衛局の補助金で同浄水場にPFASを吸着する活性炭を導入。取水源の汚染水を避けるため、県独自で中部の河川からの取水停止・抑制など低減策を実施している。

 今年に入り、PFAS値は調査で検出できない値まで減少させた。制限した分の水量は、北部のダムや稼働に高額を要す海水淡水化施設からの取水を増やして賄っている。

 県によると、今年1月から今月10日までのダムや河川など取水源での降水量は、平年より大幅に少ない累計495・7ミリ(平年比63・2%)。昨年に平年より雨が多かったこともあり、13日時点の本島全11ダムの貯水率は85・4%で推移しているため、現段階で断水の心配はない。

 ただ、少雨が続き渇水に陥ると、再び中部の河川からの取水量を増やさざるを得なくなる可能性があるという。県の担当者は「国の暫定目標値は下回るものの、取水の制限解除で県民に不安を与えるかもしれない」と危惧する。

 環境問題に詳しい桜井国俊沖縄大名誉教授は県の対策を評価した上で、「取水を制限解除して県民に不安を与えないよう、早い段階で節水への協力を呼びかけるべきだ」と指摘。また、観光客は1日当たりの水使用量が県民の約3倍になるデータもあるとして、「観光立県の観点から、宿泊施設なども水問題を考える必要がある」と強調した。